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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第三章

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05:ダンジョンで鶏肉を


 乗り着いた馬車を降りて歩いて数十分、鬱蒼とした茂みの中に、ダンジョンの入り口である祠を見つけた。

 生い茂る草木の中だというのに祠は妙に目新しく、どこかから丸々持ってきたかのような違和感を覚える。周囲に馴染ませようとは考えなかったのか、外観もヒビ一つ無く綺麗で妙に浮いて見える。

 そもそも、この異世界において祠というのも変な話ではないか。

 怪しさ満点、むしろ怪しさしかない。怪しさが具現化して俺の目の前に鎮座している。


「雑なコラ画像を見せられてる気分だ。脳が混乱しそう」

「そまり、行くわよ!」


 祠の違和感を訴えるも、お嬢様は気にしていないようで意気揚々と俺の腕を引っ張ってきた。

 そうして恐る恐るながらも果敢に祠に近付き、中を窺う。どうやら中は薄暗いらしく、リュックサックからランタンを取り出した。いじくり回し、ひっくり返し、中を覗き、軽く揺らし……、


「そまりぃ……」


 と切なげに俺の名前を呼んできた。

 先程までの凛々しい表情から一転して、子犬のような瞳で見つめてくる。


「はい、今すぐに点けてさし上げますよ。ほら点いた」

「出発よ!」


 ランタンを灯してあげれば、お嬢様の表情までもパッと明るくなる。なんて可愛らしく頼もしいのだろうか。お嬢様は俺の心を照らす唯一のランタンだ。

 だが流石に頼もしくてもお嬢様を先行させるわけにはいかず、迷いなく祠に入り階段を下っていくお嬢様を慌てて追いかけた。




 祠の下は幾重にも張り巡らされた地下迷宮となっているようで、中は最低限の舗装はされているものの全体的に暗い。

 等間隔に明かりこそ点けられているが、剥き出しの石造りは冷え付いた薄気味悪さを漂わせている。シンと静まり返し、人の気配はおろか生き物の気配もない。


「なんだかピラミッドの中に似てますね」

「懐かしいわ。源十郎が『ピラミッドの中でマクドナルドのナゲットを食べる反抗心』って言い出して、そまりがピラミッドに送り込まれた時ね」

「あれはなかなか大変でした。いざナゲットを食べようとしたら墓荒らしが襲ってきて、奥深くに眠っていたミイラが眠りから覚めて数々の呪いが」

「怖い話は嫌よぉ……」


 お嬢様が不安そうな顔で己の耳をふさぐ。

 しまった、俺としたことがつい思い出に耽るあまり、お嬢様を怯えさせてしまった。

 お詫びにエジプシャンマウの話をすれば、お嬢様の表情の安堵の色が浮かんだ。良かった、やはり猫は偉大だ。お嬢様の心を一瞬にして和らげてくれる。

 お嬢様の中で猫とは癒しの塊なのだ。もしかしたら俺よりもお嬢様を癒せるかもしれない。

 俺より、お嬢様を……。ふかふかしてにゃーと鳴くだけなのに……。


 ……いや、嫉妬はしてない。

 …………多分。さすがに猫に嫉妬はしない。と思う。


「落ち着け俺、さすがにそこまで嫉妬深いと人として終わりだ……」

「そまり、どうしたの? 行きましょう」

「えぇそうですね。ところでお嬢様、俺と猫のどちらが……いえ、なんでもありません。行きましょう!」


 一瞬沸き上がる嫉妬心をなんとか押しとどめ、再び歩き出す。

 俺達以外に誰もいないダンジョン内はやたらと音が響き、ピチャン……と時折鳴る水音は不穏な空気を漂わせる。

 そのたびにお嬢様がビクリと肩を震わせ、俺に抱き着いてきた。きゅっと俺の上着を掴み、恐る恐る周囲を見回す。きっと怖いのだろう。


 俺は崩壊しかねない己の欲望が怖いけど。


「お嬢様、大丈夫ですよ。何か出ても俺がお守りしますから」

「そまり、なんて勇ましいの。……きゃっ、道の先から狂暴な鳥が!」


 お嬢様が悲鳴をあげる。見れば、確かに道の先から奇妙な鳥が走ってくる。

 サイズはダチョウと同じくらいだろうか。だが赤と黒という奇妙な色合いをしており、一目でダチョウではないと分かる。甲高い鳴き声と血走った眼は温厚そうとは言い難い。

 そんな怪鳥を一瞥し、次いで俺はお嬢様に向き直ると、彼女の肩に掛かっているケープをそっと捲った。頭の上できゅっと結び、チューリップのようにしてお嬢様の顔を隠す。

 視界を覆われたことでお嬢様が「何も見えないのよぉ」と訴えるが、自ら解こうとはしないあたり、俺の意図を察してくれているのだろう。――「言ってくれれば目を瞑るのに」とは、真っ赤なチューリップから漏れ出る愛らしい文句――


 ちなみにその間も怪鳥は真っすぐにこちらに走ってきていた。

 軽快な走りだ。速度もなかなか。血走った目で俺を睨み……、


 そして、俺がペンライトで殴りつけると奇声をあげて吹っ飛んでいった。

 憐れ数メートル先まで吹っ飛び、壁に当たると大きくバウンドして地面に倒れた。しばらく待っても起き上がってこない。


「相変わらず威力が凄まじい。対人では使わない方がいいな」


 そうオレンジ色に灯るペンライトに話しかけつつ、いまだ倒れたままの怪鳥のもとへと向かう。覗き込めば、気絶しているのかピクピクと体が痙攣している。

 そんな怪鳥の首を、今度はナイフに持ち替えて切り落とした。さすがに異世界の怪鳥といえど、首を落とせば大人しく死んでくれる。

 現に、すぱっと切り落とせば最初こそ痙攣していたもののしばらくすると動きを止め、足先から冷たくなっていった。

 良かった。こちらの世界の鳥が、かの鶏マイクのようなタフガイだったらどうしようかと思った。18ヶ月も首の無い鳥と生活するのは御免だ。


「そまり、終わった? もうそっち見て平気?」

「終わったと言えば終わりましたが、今から解体ショーです」

「やーん」

「お嬢様、手羽とムネとモモ、どこが好きですか?」

「この状況では選べないのよー!」


 お嬢様がケープを逆さに被ったまま訴えてくる。

 確かに、繊細なお嬢様には怪鳥解体ショーは辛く、生きた姿を見た直後にどこの部位が食べたいかなど選べるわけがない。お嬢様は繊細なのだ。

 それに気付かぬ自分のデリカシーの無さを反省しつつ、さくさくと怪鳥を捌いていく。


 まずは大きめの羽を毟って産毛を焼き、内臓を取り出していく。

 まさか、過去爺の「うぃーうぃっしゅあめりくりすます!」の一言を最後に――さすが年配、横文字の発音が悪いったらない――意識を失い、気付けばアメリカで七面鳥狩りをさせられた時の経験がこんなところで役に立つなんて。


 異世界に来て、今まで色々と学ばせてくれた爺への感謝がつの……らない、憎悪だけが日々増していく。


「日本に帰ったら、真っ先に爺の解体ショーを……」

「そまり!?」

「いえ、冗談です。お茶目なそまりジョークです。ほら終わりましたよ」


 持ってきていた水で手を洗いながら声を掛ければ、お嬢様が恐る恐るケープを解く。目の前に解体ショーの名残が無いことに安堵すると、俺に労いの言葉を掛けてくれた。

 ちなみに怪鳥は、食べれそうな部位は鞄に、残骸はまとめてお嬢様の死角になる場所に隠しておいた。

 ちなみに、この世界には保冷バックやジップロックといったものはない。肉の傷みは元いた世界よりも早いだろう、今夜にでも食べてしまうべきだ。


 余談だが、鶏肉を入れたため鞄が若干鳥臭くなった。

 だがその件に関しては気にするまい。大丈夫、今回もベイガルさんの鞄だから。




 そうして食料を確保し再びダンジョン内を進むことしばらく、違和感を覚えて俺が足を止めた。お嬢様も俺に倣って立ち止まり、何事かと周囲を見回す。


「そまり、どうしたの?」

「……見られてる気がします」

「見られてる? でも誰も居なさそうよ」


 ランタンを高めに掲げ、お嬢様が道の先を伺う。

 殺風景な通路が続いているだけだ。遠くに曲がり角こそあるものの、途中には何も無い。来た道も同様。身を隠せるような場所は無い。

 そのうえ静まりかえったダンジョン内は俺達の足音さえも響かせるのだ。隠れて着いてくるのは不可能だろう。

 爺の思いつきであちこち行かされ「ジャパニーズニンジャ」だの「シノビノモノ」だと言われた俺でさえ、この通路を見つからずに監視し続けるのは難しい。


「監視カメラかな。でもこの世界にそんなもの無いよな……」


 以前ベイガルさんと話している際、この世界にはビデオやDVDにあたる物はないと確認している。カメラも無く、必要な場合は画家を呼んで肖像画を描かせるのだという。

 あの時のベイガルさんの「でぃーぶいでぃ?」という間抜けな発音は演技では無いだろう。

 それでも誰かに見られている気がしてならない。

 だがいったい誰が、なんのために……。


 むしろ誰の許可を得てお嬢様を見ているのか。


「俺の監視外でお嬢様を見つめるなんて、許されざる行為。男だったら速攻解体ショーの餌食にしてくれる」

「そまりってば、独占欲が強いんだから。女は見られて綺麗になるのよ」

「俺がお嬢様を見つめるので問題ありません。そもそも、お嬢様は既に美を極めています」

「もう、そんなに褒めないで。でも女は美に貪欲なのよ。……愛する男のためにね」


 お嬢様が妖艶に笑い、パチンとウインクしてくる。

 普段の子猫のような愛らしさとは違う魅力。これは雌豹。手を出せば火傷をしてしまう。

 だがそれが分かっていても、心を奪われて目が離せない。この笑みを前には見つめ続ける以外の選択肢は許されない……。


「お嬢様……!」


 思わずお嬢様を抱き寄せれば、彼女もまた俺の名前を呼んで抱きしめてくる。細い腕が俺の背に回され、きゅっと上着を掴んだ。

 小柄なお嬢様は俺の腕の中にすっぽりと収まり、それもまた愛しさを募らせていく。それと同時に邪な気持ちが湧きあがり、ふわりと漂うお嬢様の甘い香りに理性が揺れる。

 俺の中の天使と悪魔とニャルラトホテプが「このまま押し倒せ」と俺を煽り、濃厚な一夜を期待し湧き上がり、音楽を奏で、タオルを振り回し、踊り狂う。……フェスでも開催してるのか、こいつらは。


 そんな俺の葛藤に気付くことなく、お嬢様は心地良さそうに俺の腕の中で微笑む。なんてむず痒く、そして幸福な時間だろうか。

 ……だけど。


「何か近付いてきてますね」


 そう俺が不満そうに呟けば――だってせっかくの抱擁タイムなのに――お嬢様が息を呑んだ。

 緊張で体を強ばらせたのが腕を伝って分かり、宥める為に軽くさする。


「何か? またあの鳥かしら」

「いえ、さっきの鳥のような勢いはありませんね。むしろ随分と遅い」


 俺が耳を澄ませて探れば、お嬢様も倣うように道の先へと視線をやる。

 まだ視認は出来ないが、確かに何か近付いてきているのだ。だが先程の怪鳥のような鳴き声は無く、勢いも無い。

 人の歩みよりも遅く、なにか引きずっているのかズルズルと擦るような音がする。

 この静かな洞窟の中でその音は不穏な空気を漂わせ、お嬢様がより強く俺に抱きついてきた。


「ちゃ……れ……ぢゃ……」


 と、次第に足音に人の声が加わる。だが呻くような声で、とうてい会話とは思えない。

 その声に続くように、道の先に人の影が現れ……、


「れいぢゃん……れいぢゃん、あだじが……だずげるのぉ……」


 と、泣きながら木の棒を引きずる少女が現れた。



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