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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第三章

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04:新妻なお嬢様と早朝に出発


 翌朝、カタンと小さく響いた音に目を覚ました。

 時計を見れば時刻はまだ三時。早朝とさえ言えない時間帯だ。窓の外も暗い。

 だが確かに物音がした。というか、今もカタカタと小さな音が聞こえてくる。

 いったい何か……と窺うように枕元に置いてあるペンライトを手に部屋から出れば、音の出所は通路の先にある台所。


「泥棒? もしくはゴブリンでも入り込んだか……」


 だが家の外に張り巡らせていた罠は作動しなかった。原始的な罠だが、夜の暗さと合わされば回避するのは難しいだろう。

 そんな罠を擦り抜けてきたか、もしくは罠にもかからない小動物か。


「害がありそうなら殺して、害が無さそうなら逃がす。害が無くてニャーと鳴くのは飼う」


 お嬢様との約束を思い出しながらペンライトを手に台所へと向かう。

 そうして忍び込んだものを刺激しないよう息を潜めつつ覗き込めば、そこに居たのは、泥棒でもゴブリンでもなく、害のある生き物でも害の無い生き物でもない……。


「あらそまり、おはよう。朝食が出来るまでコーヒーを飲んでいてね」


 と微笑むエプロン姿のお嬢様。

 その姿の神々しさといったらない。俺用の黒いエプロンはお嬢様には大きく、まるで布にくるまっているようだ。それがまた愛らしさに拍車をかける。

 そのうえお嬢様は俺にコーヒーを淹れてくださった。なんて優しいのだろうか。コーヒーに浮いているウインナーすら愛おしい。


「新妻、これは間違いなく新妻。お嬢様、俺達結婚してましたっけ? 給料三カ月分の指輪はいつ贈りましたか?」

「そまり、まだよ。まだ結婚してないわ」

「でもお嬢様は新妻で、今の俺達の光景は誰が見ても新婚夫婦。やっぱり結婚してますよ」

「んもうそまりってば寝ぼけてるのね。……まだ(・・)よ」


 お嬢様がツンツンと俺を突っついてくる。

まだ(・・)』と。その言葉に俺の意識が戻る。……と同時にヘラと表情を緩めてしまったのは『まだ(・・)』だからだ。まだお嬢様は新妻ではない、まだ俺達は結婚していない。

 ……まだ。


「そうですね。まだですね」

「えぇ、まだよ。結婚もサンドイッチもね」


 待っててとお嬢様が微笑む。天使の微笑みでありながら、蠱惑的な魅力も見せる。パーフェクト!

 どうやら朝食はお嬢様が用意してくれるらしい。なんと有難く、新妻みが溢れているのだろうか。これは世の新妻が集まっても白旗を上げる。

 そんなお嬢様を拝みたいのを抑え、せめて手伝いをとテーブルの上を片しつつ、ふと壁に掛かっている時計を見上げた。時刻はいまだ三時。外も暗く、朝食には随分と早い。

 普段ならば俺もお嬢様も眠っている時間だ。世の新妻も多分まだ寝てる時間だろう。


「外での依頼が楽しみで、早く起きちゃったんですか?」

「そ、そんなことないのよ! ただ朝食を作ろうと思って起きただけなのよ!」

「本当ですか? それにしては早すぎるし、部屋の隅には準備万端のリュックサックが……」

「そまりの意地悪! そんなそまりには、サンドイッチにこのスライストマトを」

「いやはや素晴らしい、お嬢様は早起きですね! 朝食のために起きるなんてさすがです!」


 そっとスライストマトを取り出すお嬢様を慌てて宥め、なんとかトマトは勘弁してもらいお嬢様手作りのサンドイッチを食べる。

 この美味しさ、尊さ、星三つどころではない。惑星三つ。いや、むしろ地球三つ。


 そうして朝食を済ませ、予定よりかなり早いが出発する。

 まずは町の外れに向かい、乗り合いの馬車を拾う手筈だ。馬車と聞くとあまり馴染みのないものだが、元いた世界のバスのようなものに近い。といってもバスに比べて時間はだいぶルーズで、乗員オーバーで乗れない時も多々あるらしい。

 だが今回は早朝だけあり人も少なく、乗員オーバーもすし詰め状態も回避できた。


 そんな馬車の中……。


「……すぅ」


 と軽い寝息を漏らしてお嬢様が俺にもたれ掛かる。

 早く起き過ぎて今になって眠くなってしまったのだろう。最初こそ馬車からの景色を物珍しそうに眺めていたが、次第に口調が微睡んでいき、カクンカクンと船を漕ぎ……。

 そうして俺が促すようにそっと体を引き寄せれば、そのまま寄りかかって眠りについてしまった。

 愛おしい。堪らない。馬車が揺れると「んっ……」と小さく漏れる甘い声が俺の欲望を誘う。


 こんな愛らしく無防備なお嬢様と二人で旅行……もとい、依頼。

 ダンジョンの中には件の少女以外の目撃証言は無いし、もしもその少女捜索に時間が掛かるようなら、お嬢様と二人きりでダンジョン内で夜を越すことになる。

 もちろんお嬢様に不自由な思いはさせない。上質の寝袋を持ってきたし、リラックスできるようにアロマも持ってきた。最高級の野宿を提供するつもりだ。

 ……だが問題が一つ。


 俺の理性はもつのだろうか。


 なにせお嬢様と二人きりで、誰もいないダンジョンの中で泊まる。そこには部屋も無ければ壁もないし、拘束具もない。人の目もない。

 となれば、今回こそ俺は脳内の本能トリオに屈してしまうかもしれない……!


「いやでも、お嬢様がこっちの世界の成人年齢に達していればセーフと言えばセーフか? そもそも、俺とお嬢様が二人きりになることに許可を下したのはベイガルさんだし、ベイガルさんにも責任があるよな。ひいては仕事を持ってきたマイクス君も同罪……」

「んぅ……そまり、うるさい……」


 考えを巡らせ罪を擦り付けようとしている俺に、お嬢様が微睡んだ声で文句を言ってくる。

 慌てて謝罪し、再び心地好い夢の中へと戻れるように彼女の膝を軽く叩く。

 そうすればお嬢様は小さく笑い、軽い寝息を唇から漏らし……。


「……誰にもバレなければいいのよ」


 と、ポツリと呟いた。

 あぁ、なんという魔性の一言。俺の砂上の楼閣がジェンガの決着直前ばりにグラグラと揺れる。

 これはもう本能が勝るに決まっている。なんだったら今の時点でも唇を奪うぐらいは……。

 ……と俺の理性が早くも崩壊しかけた瞬間、御者が乗り継ぎを教えてくれた。

 ナイスタイミング。御者の優しさが俺の理性とお嬢様の唇を守ってくれた。


 降り際にチップを渡しておくのは、それほどまでに俺の理性が崩壊しかけていたからである。

 というか、七割方崩壊していたと言っても過言ではない。


 そうしてむにゃむにゃと寝言を口にするお嬢様を抱き上げ、二人分の荷物を持って馬車を降りた。



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