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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第三章

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2:至高のシフォンケーキ

 

「実はそのダンジョン、もしかしたらお前と同じニホンジンが関係してるかもしれないんだ」

「ニホンジン? この迷ってる女の子がですか?」

「その子もだが、ダンジョン自体が怪しい。突如出現して入るたびに中が変わるなんて、普通に考えて有り得ないだろ」

「なるほと確かに」


 こちらの世界でも異質なダンジョンとなれば、不思議な力を持った者がそれを作りあげた……という可能性は高い。

 なにせ亡骸を操ることすら出来たのだ、ダンジョンの一つや二つ生み出す能力を授かった者が居てもおかしくはない。


 ベイガルさんが言うには、マイクス君がその可能性に気付き俺に頼むよう依頼を持ってきたのだという。

 ちなみにマイクス君は今は二つ街を挟んだ先に行っているらしい。荷物と情報の伝達、報酬額を少しでもあげようと稼ぎに行ったというのだから、なんとも働き者で健気な少年だ。

 そんなマイクス君からの頼みとなれば……と考えても、俺は変わらずやる気になれずにいた。


『マイクス君はもう友人! 友人のためならどんな依頼でもこなしてみせる!』


 なんて熱い感情は俺には欠片も湧いてこない。

 事情を聞いても、正体の分からぬダンジョンで年若い少女が迷っていると知っても、そこに小津戸高校の生徒が関与していようがマイクス君の頼みだろうが、ただひとえに面倒くさいというだけだ。同情も何も湧いてこない。

 それを告げようとするも、ベイガルさんが言わずとも分かっていると言いたげに首を横に振った。


「お前との付き合いはまだ数カ月だが、お前がいかに人情に欠けたお嬢さん主義サイコパスかは理解してるつもりだ」

「事実ですがもうちょっとオブラートが欲しい」


 このオッサンモドキ言い過ぎじゃなかろうか。たとえ事実だとしても、もうちょっと表現の仕方がある。

 だがそれを咎めるように睨み付けるも、ベイガルさんは謝罪をすることも改めることもなく話を続けた。


「話は変わるが、俺はマイクスにとある物を買ってくるよう頼んでおいた」

「とあるもの?」

「シフォンケーキだ」

「シフォンケーキ? 三十代のおっさんが食べるものじゃありませんよ、胃もたれしますよ」

「23歳! ……じゃなくて、マイクスが荷物を運んだ先に、有名なパティシエのいるケーキ屋があるんだ。王都にも出店してる店の本店。王族も贔屓にしてる」

「それが何ですか?」

「その本店でしか売られていない一番人気のシフォンケーキ。砂糖漬けの花が乗せられていて、味は勿論だが見た目も華やか。だが数量限定、常に予約で完売。その予約もある程度の身分の者が書いた紹介状優先という状況だ」

「相当ですね。ですがそれ程のシフォンケーキ、是非ともお嬢様に……まさかっ!」


 策略に気付いて俺が息を呑めば、ベイガルさんの口角が上がる。

 勝利を確信した笑みだ。なんてあくどいのだろうか。せめてもの抵抗として睨んで応戦するも効果は皆無。

 そのうえベイガルさんはお嬢様に声を掛け、シフォンケーキは好きかと尋ねだした。お嬢様の返事など分かり切っている。お嬢様は甘いものが大好きなのだ。それが甘くてふかふかのシフォンケーキ、更には砂糖漬けの花が乗っているとなれば、お嬢様が胸をときめかさないわけがない。

 現にベイガルさんがシフォンケーキの話をすれば――このオッサンモドキ、わざとらしく身振り手振り大袈裟に話す――お嬢様の瞳が輝き、ふらふらと惹かれるようにこちらに近付くと食い入るように話を聞いている。


「……という、素晴らしいシフォンケーキが近々手に入るんだ」

「それは、それは……とても、素晴らしいですね……」

「是非ともお嬢さんにもご馳走したいところだが。……なぁそまり、どう思う?」


 ニンマリと笑みを強め、ベイガルさんが俺に問いかけてくる。なんて憎たらしいのだろうか。

 対してお嬢様はいまだ瞳を輝かせ、至高のシフォンケーキを想像しているのか頬が少し上気している。こちらはなんて愛らしいのだろうか。

 出来れば愛らしいお嬢様だけを見つめていたい。……だけどお嬢様を見つめようとすると視界の隅にベイガルさんが映り込んでくる。

 そんな悔しさで俺が呻れば、勝利を確信したのかベイガルさんがおもむろに立ち上がった。胸を張ると共に高らかに笑いだすので、俺も胸ポケットからハンカチを取り出して握りしめる。


「ふははは! かかったな愚かな男め、俺の手のひらで踊るがいい!」

「この非道ギルド長! 人でなし!」

「なんとでも言え、貴様の弱点等すでにお見通しだ!」

「オッサンモドキの悪徳ギルド長! 非道! 冷徹!」


 ……と、わざとらしく罵り合う。

 そんな俺達を、お嬢様は一の流れをパチクリと瞬きしながら眺め、コラットさんがそんなお嬢様の頭にとまって「茶番ね」と冷たく言い放った。

 なかなかに温度差のある対応ではないか。周囲も眺めるだけに徹して、誰も止めてこない。向けてくる視線はかなり冷ややかだ。

 それがまた居た堪れなさを募らせ、俺とベイガルさんは顔を見合わせた後、「さて」と二人揃えて改めて椅子に座り直すと依頼書を覗き込んだ。さっきのやりとりについては、もちろんだが無かったことにしておく。


 そうして改めて依頼について話をするのだが、その際に懐中時計を彼の方へと押しやるのは、依頼を受ける代わりにこれを直しておいてくれというせめてもの訴えだ。



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