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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第二章

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14:墓地での闘いⅡ

 

「あんたさ、こっちの奴じゃないだろ」

「ご名答、あいにくとこっちの奴ではありません」

「だよな。そのペンライトも変な能力持ってるし、俺と同じで強化されてるんだろ。なぁ、俺達と組もうぜ」


 ニヤニヤと笑いながら提案してくる。

 どうやら雑談の間は彼も亡骸達も攻撃してくる気は無いらしく、その隙にラナーさんに伸し掛かっている亡骸達を散らした。ペンライトで殴打すれば動かなくなるのだから、コツを掴めば楽なものだ。


「本当はそっちの獣人を殺して操ろうとしてたんだ。でもあんたは同じ日本人だから殺さない。一緒に組もうぜ。こっちなら何でもできる」

「お誘い頂き光栄ですが、いきがってるガキは嫌いなんで遠慮致します」


 喉まで出かかった暴言を何とか飲み込んで丁寧にお断りする。――ちょっと暴言が漏れ出たかもしれないが、Fワードを使わなかっただけ褒めて欲しい――

 それを聞いた遠藤が表情を歪める。どうやら俺は仲間にならないと察したようだ。かといって大人しく捕まってくれるわけでもないだろうが。

 彼の瞳に敵意が増していく。


「くそ、もういいや。人間だって殺せば操れるんだし」

「その口振り、もう試したって感じですね」

「当たり前じゃん、だってここは俺達の世界じゃねぇし。どうせそのうち戻れるんだろ? それなら好きにやったもん勝ちじゃねぇか。最高だろ!」


 堂々と下卑たことを言ってくれる。

 次いで彼はチラと他所に視線を向けた。その視線の先に居るのは……お嬢様だ。

 シマエさんを抱きしめ、リコルさんに寄り添い、俺をじっと見つめている。愛らしい瞳と小さな唇が、「そまり頑張って、愛してる……抱いて」と言っている気がしてならない。

 そんなお嬢様を一瞥し、次いで遠藤が再び俺へと視線を向けてきた。お嬢様を見つめ続けていたかった俺も、仕方ないので彼に向き直る。


「あんた、あの女に仕えてるんだろ」

「えぇ、そうです。お嬢様にお仕えする、それが生涯の俺の役目です」

「こっちの世界じゃそんなの関係無いだろ。あんたの方が強いなら好きにすりゃ良いじゃん。俺達と組んだら、あの女どころか他の女も、エルフだって脅して好きに出来るんだぜ」


 ニヤリと遠藤が笑いながら誘ってくる。その口ぶりから、自分達の能力を利用して良いようにしてきたことが分かる。

 だが確かに、彼等の能力は人を脅して暴力を振るうに適した能力だ。

 鈴原が亡骸を操ればたいていの者は恐怖を覚え言いなりになるだろう。それが親しい者の亡骸であれば尚更だ。

 仮に歯向かってきたものがいたとしても、それは遠藤が圧倒的な戦力差の前に叩き伏せる。相手が女性となれば尚のこと太刀打ちできるわけがない。

 その結果なにをするか……言うまでもない。

 そんな遠藤の誘いに対し、俺はペンライトを握り直し……、


「残念ですが俺は相思相愛主義! 無理矢理するのは、そういう設定(プレイ)の時だけです!」


 と、高らかに宣言すると同時にペンライトを投げた。

 棒状のペンライトはやり投げのように放れば結構なスピードがつく。白い光を尾のように伸ばして真っすぐ進み……そして、少し離れた岩の上で亡骸を操っていた鈴原の額にぶち当たった。

 ドゴッと鈍い音がする。鈴原のくぐもった呻きと、お嬢様の「時には強引に迫られたいの」という甘い声が続く。

 次いで術が切れたのか、俺とラナーさんを取り囲んでいた亡骸達が一体また一体と地に倒れていった。


「ラナーさん! 今のうちに術者の方をお願いします!」


 亡骸が一瞬にして地に伏せたことで唖然としていたラナーさんが、俺の声ではたと我に返る。次いで彼は獣の唸りに似た声をあげ、鋭利な爪を向きだしに鈴原へと襲い掛かった。

 さすが獣人と言える速さと迫力だ。

 対して鈴原には身体的な能力は備わっていないのか、表情に恐怖の色を浮かべ何かを口にした。

 その言葉を聞き、一体の亡骸がラナーさんの前に立ちふさがる。彼と同じ黒毛の獣。

 それを見てラナーさんが僅かに腕を揺らし……そして立ちふさがる亡骸と、その背後に居る鈴原をまとめて殴り倒した。

 鈴原の悲鳴があがりかけるが、顔面ごとラナーさんが彼の口を押さえつける。術を言わせまいとしているのだろう、だが鈴原が苦痛にもがいているあたり、押さえつける力が黙らせるだけではないのが分かる。


「くそっ! 鈴原!」


 形勢逆転の気配を感じ取ったのか、遠藤が駆け寄ろうとする。だが勿論それは俺が押さえる。

 駆けだそうとした瞬間に殴りかかり、それでも足が止まらないので次いで蹴りを放って足止めをする。……もっとも、足止め目的ではなく隙あらば仕留めたいのだが。

 逆に殴りかかってくる拳は避けて腕を掴み、引くと共に腹に膝蹴りを喰らわせる。幸い彼は身体能力やスピードこそ強化されているものの動きは単調だ。喧嘩慣れもしていないのだろう、慣れれば動きは読みやすい。

 だが力と同じように耐久力も上がっており、満身の力で放った膝蹴りも苦し気に数度咳き込むだけで済まされてしまった。

 悔しい。嘔吐&翌日の血尿間違いなしの勢いで打ち込んだのに……。


 そんな俺の悔しさを、攻撃が通じていない悔しさと取ったのか、遠藤の表情に下卑た余裕が戻ってくる。


「このまま殴り合いかよ、面倒くせぇ」

「ご安心ください。あまり長引かせる気はありませんので」

「はぁ? ペンライトもなくてどうするつもりだよ。そもそも、あんなふざけたもんで挑んで来るのがむかつくんだよ!」


 声を荒らげると共に顔面を容赦なく殴ろうとしてくるのを寸前で除け、ひるんだ腕を掴む。

 ぐいと強引に引けばバランスを崩し、遠藤の体が前のめりになった。その背後に回り首に腕を回す。

 一気に締め上げれば息苦しさから遠藤の口からくぐもった声が上がる。彼は俺より背が低い、俺が背を逸らすように絞めているのだから、そうとう辛い体勢になっているだろう。もしかしたら足が浮いているかもしれない。


「がっ……ぐ……」

「……かつて、ある高貴な方が仰いました」

「うっ……がっ……」

「『武器が無ければ、絞め殺せばいいじゃない』と!」


 そう告げて止めを刺すように一気に閉めれば、俺の腕を掻きむしっていた遠藤の手から力が抜けてダランと落ちた。




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