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【完結】集団転移に巻き込まれても、執事のチートはお嬢様のもの!  作者: さき
第二章

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13:墓地での闘いⅠ

 

 うっすらと鈍痛を残す足を擦りながらお嬢様から離れる。

 俺を気遣いつつリコルさん達のもとへと向かうお嬢様のなんと優しいことか。それに対して、俺を睨みつけるベイガルさんの非道さと言ったら無い。


「普通、人のこと蹴ります? つっこむにしても暴力的過ぎません?」

「馬鹿言うな、俺が本気出したら射抜くぞ」

「射抜く!?」


 と、そんな会話を交わしつつ、改めて学生達に向き直る。

 一連のやりとりが終わるまで待っていてくれたのか、もしくは警戒していたのか、彼等はじっとこちらを見ているだけだ。何もしかけてこなかったのは有難いが、睨んでくるその眼光には警戒と敵意の色が込められている。

 エルフと獣人の亡骸が彼等を守るように傍に構え、呻き声に似たくぐもった声をあげている。その瞳は虚ろで元の色も分からないほどに濁り、焦点も合っていない。

 リコルさんやシマエさんが名前を呼んでも亡骸達はピクリともせず、それでも学生の一人が聞き慣れぬ言葉で指示を出せば揃えたようにグルリと首を回してこちらを向いた。

 悍ましい光景だ。これは一筋縄ではいかないと張り詰めた空気で察する。


「あんまり長く関りたくない相手ですね。頭を叩けば一網打尽できるかな」


 リコルさん達がいる手前、いくら既に死んでいるとはいえ焼き尽くしたり凍らせて粉砕等はしない方がいいだろう。彼女達からしてみればかつての同胞なのだ。なにより、お嬢様にそんな残虐な光景は見せられない。

 そう考えつつペンライトに視線をやる。まだ色は白だ。試しにスイッチを推しても切り替わりもしない。

 そもそも、これが切り替わらないと焼き尽くすことも凍らせて粉砕することも出来ないのだ。

 壊れたのか? とペンライトを振っていると、学生達が何やら話し出した。


 余裕を隠さぬニヤニヤとした笑い、あまり品の良い表情とは思えない。

 そんな彼等の会話の中から聞こえてきたのは、互いを呼び合う『鈴原』『遠藤』という名前。きっと彼等の名前なのだろう、響きからも日本人の名前だと分かる。

 亡骸を操っているのが鈴原。となるとラナーさんを打ち倒したのが遠藤だろう。見たところ、どちらも秀でて鍛えているとは思えない。体格はどちらも標準程度だ。


「渋谷でウェイウェイ言ってそうな感じですね。俺、ああいうタイプ苦手なんです」

「シブ……ウェ……? シャウエッセン?」

「落ち着けおっさん。とにかく、ベイガルさんはマイクス君とお嬢様を守ってください。ラナーさん、さすがに数が多いと不利なので俺と一緒に戦ってください」

「……俺の父親がいる」

「庇って殺されるのが親孝行だと思うなら、どうぞご勝手に」


 俺の言葉に、ラナーさんがピクリと肩を揺らした。瞳には途惑いの色が浮かんでいるが、彼を気遣ってやる義理は俺には無い。

 ペンライトを握り直せば、それが開戦の意思とでもとったのか、鈴原が亡骸達に何かを告げた。


 その瞬間、虚ろな瞳の亡骸が一斉に動き出す。


 エルフが三体、獣人が四体、それに獣人すら上回るという人間が一人。時間がたてば更に鈴原が亡骸を呼び寄せる可能性もある。

 これはなかなか骨が折れそうだ……。そうぼやくも、俺の気持ちなどお構いなしに遠藤がこちらに駆け寄ると殴りかかってきた。

 寸前で避けたが、鼻先に当たる風の強さから相当の威力と分かる。直撃すれば意識どころか、首をひねって命ごと持っていかれかねない強さだ。

 次いで放たれた蹴りも重く、ペンライトを盾にして受けても手が痺れる。きっと強化されているのだろう。


 そのうえエルフや獣人の亡骸がうぞうぞと俺の動きを押さえようとしてくる。

 動きは緩慢だが力はあり、そして痛覚は無いのかどれだけ強引に押しのけて倒しても、まるで何も無かったかのように立ち上がってくる。腹を狙って蹴り倒しても、苦痛に呻く様子すらないのだ。

 標的を俺とラナーさんに絞ったのは幸いだが、このまま続けるのは辛いものがある。


「これじゃこっちの体力が尽きるな……」


 舌打ちをしつつまとわりついてくる獣人の亡骸を蹴飛ばし、白く灯るペンライトで遠藤に殴りかかる。

 だが俺の一撃は彼の頬を殴打したものの倒すまではいかず、グラリと体勢を崩すだけだ。それも軽く頬を拭うだけで終わらされてしまうあたり、耐久力も底上げされているのだろう。

 厄介だ。そう呟けば、まるで俺の胸中と苛立ちを後押しするかのようにエルフの遺体が呻き声をあげて俺の腕を掴んできた。ひやりとした冷たさ、堅い肌、一瞬触れただけで生き物ではないと分かる。

 そのくせ腕力は尋常ではなく、全力で振り払わないとビクともしない。


 埒が明かない。

 燃やしてしまいたい。

 いっそここいら全体、件の二人も含めて全ていったい焼き払えたら楽なのに……。


 だがそうは思えど相変わらずペンライトは白く光ったままで、スイッチを何度押しても切り替わらない。

 これもまた俺の苛立ちを増させ、ならばと白く灯るペンライトで今まさに襲い掛かってきた獣人の遺体を薙ぎ払う。

 だがこの一撃もまた意味がなく、元より死んでいる遺体は倒れてもすぐに立ち上がって……。


 ……こない。


 倒れたまま、ビクともしない。


「……あれ?」


 なんで? と思わず間の抜けた声をあげてしまう。

 どうやら異変を感じたのは操り手も同じらしく、鈴原が呪文らしき難解な声をあげた。

 だが相変わらず獣人の遺体は倒れたままだ。試しにと横から襲い掛かってくるエルフの亡骸をペンライトで殴れば、それもまた地に伏せたまま微動だにしない。

 まるで――おかしな話だが――死んでいるかのようだ。


「おい、鈴原どうした」

「なんだよ、なんで動かないんだ……!」


 想定外らしく、二人に焦りの色が見え始める。

 そんな二人の会話に、リコルさんの俺を呼ぶ声が割って入ってきた。


「そまり! あなたの灯により悲しみに包まれていた同胞たちは再び眠りにつきました!」

「急を要しているので手短な説明でお願いします!」

「浄化です! そまりの武器は浄化の力を持つのです!」


 リコルさんが分かりやすく教えてくれる――短く説明しようとすれば出来るのか――。

 浄化とは幽霊だの悪魔だのを成仏させるようなものだろう。以前に爺の思い付きでバチカンに行って悪魔祓いを学ばせられたことがあるが、それと同じものなのだろう。懐かしい。思い出したくない思い出の一つだ。

 つまり、この白く光るペンライトには悪魔祓いのような、不浄なものを浄化する力が備わっているというわけだ。なるほど、ギルドで試したところで判明するわけがない。


「打開策も見つかり形勢逆転、ですね」

「……なぁ、ちょっと話があるんだけど」


 不利を感じ取ったのか、若干の焦りを取り繕うように引きつった笑みを浮かべて遠藤が話しかけてきた。

 こういう状況下の会話にはお決まりのパターンがある。苦し紛れに暴言を吐いてくるか、もしくは同情を誘うために身の上話をしてくるか、あとは……。


「あんたさ、俺達と組まないか?」


 俺を引きずり込もうとしてくるか、だ。



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