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04:一年の集大成



【諾ノ森家 警備室にて】



「まずい、刻一刻とそまりの殺意が高まっている」

「だけど犬達にクリスマスプレゼント用意してるんなんて、あいつ可愛いところあるじゃん。俺達に対しては殺意たっぷりだけど」


 そんな会話が交わされたのは、諾ノ森家の警備室。

 聖夜と言えども警備を怠るわけにはいかず、なおかつここ数年は対そまりの警備訓練があるため、いつもより室内にいる人数は多い。


 並べられたモニターには屋敷内と周辺の映像が常に流れ、それを数人が食い入るように見ている。そまりがどのモニターに写っているかを常に報告し、その背後では屋敷の地図を広げて次の行動を割り出そうとしている者もいる。

 無線機には常に情報が入り、室内の空気は異様と言えるだろう。

 事情を知らぬ者が足を踏み入れれば、何か事件でも起きたのかと考えるかもしれない。

 それほどまでにこの警備訓練は重要なのだ。諾ノ森家の警備を任された者達にとって一年の集大成。


 と言っても実際は『詩音の部屋にプレゼントを届けたいそまり対それを阻止する警備員』という警備訓練である。

 期限は日付が変わる0時。それまでにそまりが詩音の部屋に入ればそまりの勝利、防衛すれば警備側の勝利。

 だが訓練と言えども手を抜くわけにはいかない。とりわけ、相手はそまりなのだから……。


「くそ、あいつ屋敷内に入ったぞ!」

「食堂の搬入口からだと!? あの扉は一時間前に暗証番号を変えたはずなのに……!」

「くそ、どこかから情報が漏れてるのか。駄目だ、通路の罠も悉くすり抜けていきやがる。直接捕獲……は無理だな、挑むだけ無駄だ」


 モニターに写るそまりの姿に、警備員達が悔しそうに唸る。

 諾ノ森家が誇る警備システム。一年の集大成を軽々と交わされているのだから、唸るのも仕方あるまい。

 だがけして警備が杜撰なわけではない。日本一、いや、世界でも上位にあたる警備システム。凡人ならば初手で詰むレベルである。


「それを難なく越えてくるんだから、さすが雪州さんの孫だよな。雪州の血、恐るべし。そまりが詩音お嬢様とくっつけば、ただでさえ恐ろしい雪州の血に諾ノ森の権威が加わるのか……」

「日本を牛耳られかねないな。いやでも、そまりの父親は普通の人なんだっけ」

「なるほど、隔世遺伝か。それなら俺達の代は関係無さそうだな」


 それならよしと頷けば、次々に同意の声があがる。

 そんな中、一人の青年だけは呆れたような表情で同僚を眺め、次いで溜息混じりに「それより」と話を変えた。外の巡回から警備室に戻ってきたばかりで、雑談を交わす同僚を怠慢だと睨みつける。


「相変わらずそまりは順調にお嬢様の部屋に近付いてるな」

「あぁ、だが順調に屋敷を進めても、お嬢様の部屋までは入れない。やつにはゴール直前で眠ってもらう」

「あの作戦か。随分と自信があるようだな」

「そりゃ最後の決めの一手だからな。さすがのそまりも、遠隔操作で通路に閉じこめられて睡眠ガスを撒かれれば太刀打ちできない。俺達の勝ちだ」


 勝利を確信して男が笑みを浮かべ、手元にあるボタンを見せつける。

 それに対して、いまだ不安があると訴える青年は机に広げられた屋敷の地図に視線を落とした。


「そまりを閉じこめる場所について確認しよう。一年の集大成だ、万が一があったら困るからな」

「心配性だな。だが用心に越したことはないな。あいつを閉じこめるのは……」


 地図を覗きこみ、あれこれと確認しあう。

 ボタンを押した際、どこの通路に壁が出来てどう閉じこめるのか、睡眠ガスはどの通風口から出るのか……。

 そんな中、一角から「おい、大変だ!」と声があがった。モニターを見ていた一人が顔を青ざめさせる。


「詩音お嬢様がドアから顔を覗かせているぞ!」

「なんだと、まさか部屋から出るつもりなのか!? 警備訓練が終了するまで部屋から出ないと約束してくださったはずなのに……!」

「駄目だ部屋から出てしまった。このままだと、そまりが閉鎖エリアに辿りつくより先にお嬢様と合流してしまう。なんとしてもお嬢様には部屋に戻って頂かねば!」


 詩音のイレギュラーな行動に、警備室内が騒然とする。

 それを聞き、念を押すように作戦を確認していた青年が意を決し「俺達が直接行こう!」と声をあげた。


「そまりが歩いているルートとは別の道を使い、お嬢様に部屋に戻って頂くよう説得しよう」

「それしかないか……。それなら作動装置は置いて数人で」

「いや、装置は持って行った方がいい。最悪そまりと鉢合わせした場合、やつを閉鎖エリアに追い込めるかもしれないからな。いざという時に警備室を介して操作していたら間に合わない可能性がある」

「なるほど。よし、奴と討ち違える覚悟でいくぞ!」


 一人の鼓舞に、警備室内がわっと盛り上がる。

 いよいよクライマックスと言いたげな盛り上がりだ。誰もが表情に覚悟の色を浮かべ、それと同じくらい気合いに満ちている。



 そうして気合いを滾らせ、警備員達が詩音の部屋へと向かう。

 そろそろ日付が変わる時間なだけあり屋敷内はシンと静まっており、人の気配はない。


 ……そう、どこにも人の気配がない。


 そまりはもちろん、詩音の姿も気配もないのだ。




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