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01:こちらのクリスマス

 


「この世界には……クリスマスはないんですか……?」


 お嬢様が絶望の表情を浮かべたのは、昼夜問わず寒さを感じ始めたころ。

 こちらの世界には日本のような四季こそないが、カレンダーは最後の一枚となり、なんとなく冬に似た空気を漂わせている。

 そんな中でお嬢様がそわそわと「こちらのクリスマスはどのようなことをするんですか?」とベイガルさんに尋ねたのだ。

 それに対してベイガルさんは不思議そうに首を傾げ、


「くりすます…、なんだそれ?」


 と返し、そして先程のお嬢様の嘆きである。

 こちらの世界にはクリスマスという行事そのものが無いらしく、お嬢様がその場に……ではなく、可愛いものカフェのラグまで移動して頽れた。

 そのうえ、近付いてきたオシーを抱き寄せてそのお腹に顔を埋めている。どうやらよっぽどショックだったようだ。

 案じた西部さんがお嬢様に近付き、その肩を擦っている。


 そんな二人のやりとりを不思議そうに眺めていたベイガルさんが、次いで俺へと向き直った。


「その『くりすます』っていうのは何なんだ?」

「元居た世界にあった行事で、十二月に行われる生誕祭です」

「なるほど、生誕祭か」

「といっても発祥は異国で、日本では紆余曲折ありチキンとケーキを食べて赤い服を着た老人にプレゼントを貰う日になっています」

「紆余曲折になにがあるとそうなる」


 いまいち理解できないとベイガルさんが怪訝そうな表情を浮かべる。

 そんな俺達の会話に、お嬢様の「そうだわ!」という声が被さった。

 見れば、先程までオシーの腹部に顔を埋めていたお嬢様がいつの間にか立ち上がっている。嘆きの表情から一転し瞳を輝かせており、なんと眩いことか。


「クリスマスが無いのなら、私達がクリスマスを始めれば良いのよ! ねぇ、杏里ちゃん!」

「私達が始めるって、クリスマスパーティーをするの?」

「そうよ! 可愛いものカフェのクリスマスパーティー! 店内にツリーを飾って、オシー達には衣装を着せて、メリークリスマスを合言葉にお客さんにクッキーを配りましょう!」

「なんだか楽しそうだね!」


 意気込むお嬢様に当てられ、西部さんの表情も明るくなる。

 元居た世界の行事を再現と聞いて、期待と懐かしさが高まったのだろう。「招待状を用意しよう」だの「オシーちゃん達の衣装は秋奈ちゃんに頼もう」だのとお嬢様に負けじと提案しだす。

 そうして二人は計画を立てようと、紙とペンを手にテーブルへと向かっていった。微笑ましい光景だ。


 それを横目に眺め、改めてベイガルさんへと向き直った。

 お嬢様と西部さんのパーティー会場は可愛いものカフェ、つまりギルドの一角である。

 さすがにパーティー会場にされればギルド長もストップをかけるか……と俺が様子を窺っていると、ベイガルさんがのんびりと「くりすますねぇ」と呟いた。

 どうやら止める気はないようだ。俺としては有難いが、それでいいのかギルド長。


「まぁでもなんにせよ、お嬢様が楽しくクリスマスを過ごせるならそれに越したことはありませんね」

「相変わらずお嬢さん主義だな。でもお前だってその『くりすます』っていうのをやってたんだろ?」

「俺ですか? 俺のクリスマスは……」


 かつてのクリスマスを思い出し……、


 思わず眉間に皺を寄せた。


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