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実りの神子と恋の花  作者: 稲葉千紗
幼少期編
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力のこと

 陰陽博士に渡されたのは、一枚のまじなだった。

 短冊大の和紙に、不思議な紋様が描かれている。


 霊力に目覚めたものの、まだ安定しない子供に持たせるものだと言う。

 過ぎる力は身を滅ぼす。幼いうちは感情に任せて力を暴走させやすいらしいから、お守りとして札を持たせるのだそうだ。


 肌身離さず持っているようにと念を押され、私は言継ときつぐに札を小さく折ってもらい、香袋に入れた。

 言継からもらった金木犀の香はお気に入りなのだ。


「ありがとうございます」


 大切に懐にしまうと、その様子を見守っていた陰陽博士が表情を和らげる。


「姫宮の力は特殊ですから、気休めにしかならないかもしれませんが」


 視線の先にあるのは、先ほど智子が活けた花だ。

 私の隣に座っている言継も、何とも言えない表情でそれを眺めている。

 季節外れの花をふんだんに使ったそれは、やはり誰が見ても摩訶不思議な存在のようだ。


「おはな、いりますか?」


 陰陽博士の視線からあまりにも花に固定されて離れないものだから聞いてみた。

 おそらく無意識だったのだろう。あわてて視線を逸らした陰陽博士は緩く首を振ると「宮中に戻ればたくさんありますから」とバツが悪そうな笑みを浮かべる。

 どうやら私が朝咲かせたたくさんの花は陰陽寮に持ち込まれ、いろいろと調べられているらしい。

 たぶん調べても何も出ないだろうけど。


 景子の力は、天性のものだという設定がある。

 修行によって得るものでも、信仰によって得るものでもない。人知の及ぶ事のないそれは、どちらかと言えば神の御業に近い。

 天照の後継である皇家の血が強く出たのだろうと、作中では言われていた。

 成長と共に力を失わなかったならば、彼女はきっと生き神として祭り上げられていたと思われる。

 まだ農業の発達していない平安の世において、豊穣を呼ぶ力はとても稀有なものであったはずだ。


 けれど景子は成長と共に力を失う。

 幼い頃に力に目覚め、神の末裔だ、神子だと言われていた彼女にとってそれはどんなにか絶望を呼ぶ出来事だったのだろう。


 ……まぁ、私はそれを知っているから身の振り方は考えるつもりだけどね。


 前世の知識をつらつらと思い返しながら、私はこれからを考える。

 力を失った時のためにも、あまり派手な事はしない方が良いかもしれないと思った。

 もうすでにやらかしている事については目をつぶろう。あれは力の暴走だったのだ。




 ふわりと空気が動く。

 つられるように視線を上げれば、真っ白な小鳥が飛び込んできたところだった。


「わぁ、きれい」


 私の手のひらにも収まりそうな、小さな鳥だった。

 羽も目も白くて、とても可愛い。

 陰陽博士の肩に止まったそれにキラキラとした視線を向ければ、彼は目を見開く。


「式神が見えるのですか?」


 頷けば「見鬼けんきの才もおありなのですね」と陰陽博士が困ったように眉根を下げた。


「みえたら、だめなもの?」

「いいえ、そのような事はございません。ただ、姫宮には一度陰陽寮の方へお越しいただいた方が良いかもしれません」


 見鬼の才を持つ幼子は、物の怪の類にも目を付けられやすい。強ければ、特に。

 だから一度きちんと力を調べ、それにあった呪い札を用意する必要があるそうだ。


 そういうものなのか、と私が納得したところで白い鳥の姿が紙に変わる。おそらく連絡用の式神なのだろう。

 可愛いから私もほしいな、使えるかな、などと考えていると文を受け取った陰陽博士の顔が強張った。


「申し訳ありません。寮の方で、少々問題が起きたようです」


 ざっと立ち上がった彼は、あわただしくて申し訳ないと詫びながら、退出を願い出る。

 言継が頷くと、控えていた女房が案内に立った。




「……姫宮の星は、少し特殊ですね」


 言葉を選んでくれているのだろう。少し迷うそぶりを見せながらも陰陽博士は去り際にそう言い残していった。

 天文が専門と言う訳ではないから星読みはそう得意ではないが、それでも私の生まれ持つ星が特殊という事だけはわかるそうだ。




 転生者、と言う言葉が脳裏に浮かんだ。

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シリーズ作品「刻の乙女と天の華」開始しました。
狐と少女による年の差がえげつない事になってるお話です。
フリーダムの代名詞、千種をもふりたい方、よろしければどうぞ。
もふれる保証は今のところありませんが、時を重ねた結果こじらせた狐はいます。

刻の乙女と天の華
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