朔夜が知る世界【前編】
ブクマ4000超えたのでいつものくだらない企画やらなきゃって思ったんですけど、普通に考えて更新しろって話だったので更新します。
読んでくださってありがとうございます。
世界は、いつだって光にあふれていた。
人ならざるモノ達が作り出す、幻想的な灯火。
能力者が力を行使する際に生じる、生気に満ちた輝き。
人々が日常を生きる中で無意識にこぼす、優しい煌めき。
けれど、彼女ほど美しく清らかな光を持つ存在を、朔夜は知らない。
「姫宮様は、少し変わられましたね」
柔らかくなったというか、しなやかになったというか。
少しぎこちなかった部分がなくなって、魂のあざやかさが増した。
何か心境に変化があったのだろうか。
隣にたたずむ言継に問いかければ、答えは穏やかな笑みと共に返ってきた。
「朔夜から見てもそう思えるなら、景子は変わったのかもしれないね」
あえて明言をさけた、あいまいな言葉。
それでも言継の表情を見れば、二人の間に何かがあった事は明らかで。
「良い方向に変わられたのならば、何よりと存じます」
仲間はずれにされた、とは思わなかった。
言継も景子も皇族だからだ。
親しくしているとはいえ、ただの陰陽生にすぎない朔夜には言えない事があるのは当然で。
それでも、こうして言葉ではなく表情で教えてくれる言継の心のあり方をうれしく思う。
視界の先、話題の彼女は人の姿をとった天狐となにやら話し込んでいる。
本日の景子は動きやすそうな水干姿だ。
よく許可が出たものだと思ったが、言継によると千種が誤魔化しているらしい。
人の眼を欺くくらいは天狐にとって造作も無いことなのだろう。
もしかしたらこの局は、安倍の屋敷以上に魔境なのかも知れない。
千種をまねて、頭の高い位置でひとつにくくられた黒髪が揺れる。
彼女の手が空を滑るたびにこぼれる金の煌きは、前と比べてずっと繊細になった。
「朔夜の眼からは、世界がどんな風に見えるのだろうか」
羨むような声音に、聞こえてきた言葉に驚いて隣を見れば、言継が眩しそうに瞳を細めている。
「私には、あの二人が手を振って遊んでいるようにしか見えないが、力を感じるくらいは出来る。朔夜には、その力が見えるのだろう?」
彼のまなざしは、まっすぐに景子を捕らえたままだ。
まるで、彼女が行なう事を一瞬たりとも見逃すまいとでも言うように。
叶うならば、彼女からあふれる奇跡の光も瞳に焼き付けたいのだろう。
「確かに見る事は出来ますが……そのような理由でこの力の事を羨ましがられたのは初めてですよ」
見鬼の力は陰陽師には必須だが、強ければ良いというものでもない。
確かに見えるモノが多いのは良いことだ。
けれど、同時に見えないほうが良いモノまで見えてしまう、というのはいかがなものだろうと朔夜は思う。
強い結界に囲まれた安倍の屋敷に引き取られる前。
まだ力の制御がおぼつかなかった幼い頃。
朔夜の視界は、それはもうひどいものだったからだ。
我ながら、良くぞ正気を保てたものだと思う。
「これでも津守の血が流れているからな、強い力に代償が必要だという事くらいは知っている。けれど、それで景子の世界に触れられるなら、私はいくらでも差し出そう」
その執着とも言えるほどの一途な思いに、朔夜は思わず苦笑をこぼした。
彼の気持ちを一身に受け止める景子の未来が少しだけ心配になる。
とはいえ、朔夜も男だ。言継の気持ちもわからなくもない。
彼のお姫様は、とても危なっかしい。守りたいと思うからこそ、力がほしいのだろう。
「では、その身の内に眠る力を目覚めさせますか?」
だから、ついつい口にしてしまった。
本来ならば、伝えないはずだった言葉。
少なくとも、安倍家はそう決断を下した。
この事が義父に知られればお説教どころではすまない。
けれどそれでも、伝えたいと、教えなければならないと朔夜は思った。
言継のためにも、朔夜のためにも、そうするべきだと。
「眠る力?」
向けられた訝しげな視線には微笑みを返し、朔夜はそっと遮音の結界をはる。
簡素で、たいした効力もないけれど、無いよりはマシだろう。
こちらの意図を読んだ千種が手を貸してくれるかもしれない、という計算もある。
そうして朔夜は声を潜め、自分に見える世界を言継に伝えた。
「私の眼には、言継様の中に強い光が眠っているように見えます」
言継らしい、真っ直ぐな光だ。
色は、夜明けの空を思わせる淡い紫。
おそらくは浄化に特化した能力なのだろう。眩しいほどの輝きを持っている。
「私は、力がないと言われて育ったのだが?」
「はい、事情は伺っております。おそらく、どなたも言継様の力に気付けなかったのではないかと」
「……そんな事があり得るのか?」
「ごく稀に。条件があるのです」
強すぎる力は、それだけで闇を呼ぶ。
それは、異能を持つ者にとっては常識だ。
どんなに強力な力を持っていても、器が未熟な赤子では抵抗もできない。
知能の高い妖は、そこを狙うという。
守るにしても、限界はある。
だからこそ、力を持つ者は恐れるのだ。
自分の、この力を受け継ぐだろう子孫は、健やかに育つ事ができるのだろうか、と。
恐れ、そうして彼らは、対抗する策を、生み出した。
これ、最初は1話の番外編予定だったんですよ。
でもこのままいくとただの続編なんですよ。
三人称で書いてしまったんですよ。
どうしましょうか。
……景子置いてけぼりに暑苦しい男の友情が芽生えた気がします。
あ、活動報告では通常営業でくだらない企画してます!




