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実りの神子と恋の花  作者: 稲葉千紗
天花編

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32/36

恋をする

 始まりの恋は、二次元だった。

 どうにもならないとわかっていながら、画面の向こうの彼に恋をした。

 そこから坂を転がり落ちるようにのめり込んで……自分でもどうかしてるなぁと思ってた。


 二度目の恋は、覚えてない。

 転生に気が付いてから、毎日が必死だったからかもしれない。

 自分の事に手いっぱいになって、周りの事なんて全然見ていなかった。言継ときつぐは、そんな私をずっと見守っていてくれた。

 私は隠し事ばかりしていて、ちっとも誠実ではなかったのに。それすらも受け入れてくれた。気付かないふりをしていてくれた。

 そんな人を好きにならない筈なんてなくて。気が付いた時にはもう遅かった。


 言継との婚約を、嬉しく思った。

 同時に、この関係が終わってしまう事を恐れていた。

 ゲームで定められた運命なんて、壊れてしまえばいいと願っていた。


 今は、もうわかってる。

 この世界は、ゲームととてもよく似ているけれど、ゲームと同じではないという事。

 彼らは作られたキャラクターではなくて、きちんと生きた人間である事。

 未来は、決まってなどいないという事。

 きちんと知っている。


 だからこそ、考えてしまう事がある。


 ……私は、勝手に作り上げた理想に恋をしているのではないの?


 生まれ変わっても同じ人に恋をする、なんて。言葉は綺麗だけれど実際はそんなものじゃない。

 私はちゃんと、今世でのこの人を見れている? きちんと向き合えている?

 たくさん隠し事をして。言継が何も言わないのを良い事に甘えてばかりいる。

 それは、現実から目を逸らしているという事ではないのか。逃げていると言うのではないか。

 いくら考えても答えなんて出てこなくて。甘えだとわかっているけれど、回された言継の暖かな腕にすり寄った。


「ねぇ、景子」


 甘い声が、耳に吹き込まれる。いつもと同じ柔らかなそれは、けれどいつもとは違っていて、どこか真剣な響きを含んでいる。


「なぁに? 兄様」

「来年に予定されている私たちの結婚をね、少し保留にしようか」


 瞬間、呼吸が止まった。

 なぜ言継がそんな事を言い出したのか理解できなくて固まる私の背を、言継が撫でおろしていく。


「誤解をしないで? 景子と結婚したくないわけじゃないんだ。でも、今の景子は天花に食われて、心を失っているだろう? 心を伴わない結婚は、したくないんだ」


 私の我儘だよ。と言継は言うが、嘘だと思う。

 だって、困ったように笑う彼の瞳に宿る色は、私を案じている時と同じものなのだ。


「もう一度景子に好きになってもらえるように頑張るから、だからね? 景子。その時になったら、私と結婚して?」


 この人は、どうしてこんなにも優しいのだろうか。

 どう聞いたって私のための申し出なのに、決してそうとは言わない。

 限界まで甘やかされて、このままではダメになってしまいそうな気すらする。


「兄様は、優しすぎます」

「そんな事はないよ。景子に隠しているだけで、私は結構自分勝手なんだ」


 クツリクツリと言継が喉を鳴らす。

 首筋に吐息がかかって、心が震えた。


「景子を甘やかすのだって、やりたいからやっているだけ。もしかしたら、私なしでは景子が生きていけなくしようとしているのかもしれないよ?」

「本当にそう考えている人は、そんな事を言いませんよ」


 言継はそれとなく私を導くのがとてもうまいのだと思う。

 上手に甘やかして、気負いすぎないように肩の力を抜かせてくれるのだ。

 そうするとこんがらがった思考がまとまって、なんとなく道が見えてくる。


 ……ああ、こういうところ、好きだな。


 それは、ごく自然な思いだった。

 とてもとても小さな感情の動きだったけれど、積み重なっていけばきっと大きくなる。

 私はこの瞬間、確かに恋に落ちたんだと思う。


「さぁ、どうだろうね。景子が思うよりも大人はずっと悪い生き物だよ」


 言継は楽しそうに私の頭やら背中やらを撫でまわしている。

 ゆるりと動くその手を、嫌だなんて思う気持ちはまったくない。心地よいとまで感じる。


 ――きっと、私はもう一度彼に恋をする。


 そんな考えが脳裏に浮んだ頃には天花に恋心を吸い取られた事はむしろ良かったのではないかとまで思えるようになった。


 前世から持っていたいびつな恋心も、いつ芽生えたのかもわからないあいまいな恋心も、今はない。白い種に吸い取られて、美しい花に姿を変えた。


 だから、これから積み上げるものは、今の私の感情だ。

 何も隠さない。何も偽らない。素のままの私で言継に向き合う機会を得たのだ。

 そう思えば、いくらでも前向きになれる。


 それならば……。




「あのね、()()、聞いて欲しい話があるの――」


企画には盛大に遅刻しましたが完結いたしました。

ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございます。


一度完結表示にいたしますが、飛ばしてしまった言継元服初夜(違)とかほのぼの日常番外編やらをこの後お届けしたいと思っておりますのでもう少し温かく見守っていただければと思います。


新しい連載の準備と同時進行なのでちょっと時間がかかるかもしれませんが。


活動報告にあとがき書きました!

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シリーズ作品「刻の乙女と天の華」開始しました。
狐と少女による年の差がえげつない事になってるお話です。
フリーダムの代名詞、千種をもふりたい方、よろしければどうぞ。
もふれる保証は今のところありませんが、時を重ねた結果こじらせた狐はいます。

刻の乙女と天の華
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