羨望JEALOUSNESS 秘密の人 1
「うふふふふ」
・・・なんなんだ?
最近ずっと、三船さんの機嫌がいい。
調理中、ずっと笑っている。
いつも以上に不思議な人。
あ、ヤバい。
目を合わせてしまった。
「うふふふふ、は・る・な・っち」
「・・・・・・はい」
無視しようかと思ったけど、それはそれで面倒だ。
ダルそうに応えると、良い情報をくれた。
「榛名っち、初参加だね」
「何にですか?」
「飲み会!」
飲み会?
ああ、そういえば三船さんたちはしてるんだった、飲み会。
いつも、ミーティングと称して店内で食事会をすることもある。
そのときは主に三船さんが腕を振るうことになるんだけど。
そのほかに、成人以上の人たちは飲み会をして親睦を深めているらしい。
俺は20歳になったので、今回から参加できるということなんだろう。
「ふふ、強制参加だからね」
この人、笑顔と言葉が矛盾しすぎ。
俺がちょっと引いた目で見ていることに、三船さんは気づかない。
・・・あ、
飲み会に参加できるということは、
あの人の酔った姿も見られるんだ。
「あ、杉崎マネージャー」
三船さんの声につられて、思わず入り口を見てしまう。
俺が今頭に浮かべいた人が、ちょうど現れた。
杉崎優斗さんが。
「お疲れ様です。特に問題はありませんか?」
「もちろん!今日も平和ですよぉ」
「それはよかった」
前々から思っていたけど、
三船さん、この人の前ではぶりっこに磨きがかかっている気がする。
女って怖い。
そんなことを考えていると、ふと優斗さんと目が合う。
すると、柔らかい笑顔を返された。
「いつものように、これから学生さんがたくさん来ると思いますので、
三船さんも榛名くんも、頑張ってくださいね」
あ・・・
その笑顔が、声が、言い方が、
俺をときめかせる。
この店で働き始めたときからそうだ。
優斗さんはいつも優しく励ましてくれた。
温かく見守ってくれた。
だから俺は、
そんな優斗さんを自分だけの人にしたくなったんだ。
その優しさは、俺にだけ与えて欲しいから。