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次の日の昼、とりあえずリーネの師になった俺はギルド近くに広場を訪れた。
「師匠! お待ちしておりました! 今日はよろしくお願いいたします」
頭を下げるリーネ。
実に初々しいじゃないか。結局昨日は日も暮れていたし、彼女も疲れていたみたいなのでとりあえず返事だけしてこうして集まってもらうことにした。
「師匠ですって、あなた。全く柄じゃないの」
「お前は黙ってろ」
ルルが茶々を入れる。こいつはいつもこうだな本当に。
「あ、あの。その猫ちゃんもしかして師匠の従魔なんですか?」
「そうだな。このもじゃもじゃの猫ちゃんは俺の従魔だ」
「猫ちゃんじゃないの! 確かに私はラブリーでキュートだけどれっきとした霊獣なの」
耳元で大きな声を出すなルルよ。
「霊獣!? すごい……。昨日人の姿になったり大きな姿になったりしていたけどまさか霊獣だなんて……。まるでおとぎ話に出てくる賢者様みたい……」
賢者様と来たか。勇者と対となる存在、賢者。確かに俺ほどの魔術師ならばそう呼ばれても不思議じゃないが面と向かって言われると恥ずかしいな。
「ところで昨日はあまり話を聞けなかったんだがどうしてリーネちゃんはその年で冒険者なんかやっているんだ? 魔術師として大成したいなら学校に通っている気がするのだが」
リーネちゃんの年は今年で14らしい。魔術師で14歳と言ったら普通魔法学校の中等部に通うべき年齢であろう。ちなみに俺は中等部なんかには通わず、高等教育機関である魔法学院に15歳で飛び入り入学したが。
「実は私、田舎出身で学校に通うお金がないんです。だから冒険者をしていまして。今は何とかDランクまで上がって頑張っていたところなんです」
「Dランクですって、あなた。あなたより二つもランクが上なの。優秀な弟子を持つことができたなの」
「えっ、師匠もしかしてFランクなんですか!?」
「ギルド側の不手際みたいなものだ! 本当だったらAを通り越してSくらいの実力はある!」
全く俺に試験を知らせなかったあのジジィめ。おかげで弟子よりランクが低いだなんて恥ずかしい事態が起こってしまったじゃないか。
しかしDランクか。この年でそのランクというのはなかなかに優秀な範囲に入るんだと思う。それに心なしかリーネちゃんの胸のサイズもDのような気がする。そっちも優秀なようだ。
「あなた、何かやましいことでも考えているような顔しているの」
「気のせいだ。じゃあリーネちゃんは魔術師としての実力をさらに上げてランクアップをしたいと思って俺のところに?」
「それもあるんですけれど……、私はマルクィート王国にある魔法学院に通いたいと思っているんです。あそこは学費もそんなに要りませんし、何より高レベルの魔法が学べます。けれど今の私じゃあ受かるか分からないので……」
なるほど。我が母校、マルクィート王国国立魔法学院に通いたいのか。確かにあそこの試験は難しい。それも今まで魔法学校に通っていないリーネちゃんのような子ならなおさら難しくなるだろう。
「なら安心なの。この人はこう見えてもその学院に通っていたま魔術師なの。それも首席卒業で」
「え、そうだったんですか!? 通りでその若さであのキマイラを……」
リーネちゃんは再び輝かんばかりの視線で俺を見てきた。
天才な俺にとって学院に入るくらい造作のないことだったのだが、こうして見られると少し照れてしまうな。
「まぁな。けどあの学院は偉大なる俺にとっての通過点に過ぎない。これからの後世までに語り継がれる英雄譚のな」
「すごい……。ところで師匠はどうして冒険者になろうと?」
「以前は国の研究機関にいたんだが、どうにも窮屈でね。自由を求めてこの職に流れ着いたまでだ」
「はわぁ……」
リーネちゃんはさらにキラキラとした眼差しで俺を見る。面白いように喰いつくな。この子。
「ただ人間関係トラブっただけなの。どうせそのうち冒険者も折り合いつけられないでばったり辞めてしまうの」
「うるさい黙ってろ」
「ふん」
ルルが拗ねたようにそっぽを向いた。ははん。こいつめ、焼きもち妬いているんだな。可愛いやつめ。
「じゃあリーネちゃん、とりあえず君の目標はマルクィートの魔法学院に入るということでいいのかな?」
「はいお願いします! 師匠!」
師匠か……。なんとも歯がゆい言葉だ。俺の師は憎たらしい貧相な胸をした女だったが、いざ自分がその立場になると胸が躍る。
「よし、我が弟子リーネよ。さっそく修行に入る。俺の指導は厳しいぞ?」
「覚悟の上です! お願いします!」
こうして俺たちはリーネちゃんの学院入学を目標に修行の道に入ることにした。