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キマイラを倒した後、俺たちは森を出て街にいったん戻った。襲われていた冒険者3人は恐怖と疲れでまともに歩ける状態ではなかったため、ルルに本来の姿に戻ってもらい運んだ。
彼らの行先はもちろん病院。治癒魔法は別に使えなくもないが、実はそこまで得意ではない。いくら天才とはいえ苦手なものはあるものだ。ゆえにそこは専門職に任すのが一番なのである。
「えっ、あの森にキマイラが出現したですって!?」
そして今俺たちは高ランクの魔物であるキマイラが森に出現したことをセルフィさんに報告している。一応こういった現地での異変の報告も冒険者の義務である。
セルフィさんも森にキマイラが現れたことに驚きの表情を見せたが、すぐにいつもの表情に戻った。おそらく最近こうした報告が多くなったのだろう。高ランクの魔物が現れたり、魔物が大量発生する事態が。
今がどういう情勢なのか考えれば分からなくもないが。
「分かりました。ご報告ありがとうございます。ところでよくあのキマイラから逃げることができましたね。Cランクの冒険者ですら撤退は困難だというのに」
「何てことはありませんよ、セルフィさん。キマイラはこの俺が消し炭にしましたからね」
「……は?」
「いや、だからこの俺が消し炭にしたんですよ。俺の大魔法を使ってね」
セルフィさんは豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。
「え? 冗談でしょう?」
「あいにく俺は嘘をつかないことを信条にしているのでね」
「だってあなたはFランク……」
「ランク制度なんてものじゃ俺という器は推して測ることなんてできないってことですよ」
「……そうですか」
あれ、セルフィさん。その疑いの眼は何? もしかして俺の言っていることが信じられない?
まぁそれもしかたもないか。彼女は実際に俺の実力を見ていないのだ。だからFランクという不名誉な称号で俺を見てもしょうがないことだろう。
しかしもし俺の本当の実力が詳らかになった時。きっとその時は『キャー、ステキ、抱いて!』ということになるに違いない。
「あなたって本当に人望もなければ説得力もないの。あといちいちセルフィさんの胸元見るななの」
俺の肩にいる猫の姿に戻ったもじゃもじゃ風情が言う。別にそれくらいいいだろう。おっぱいはいくら見たって減るものではないし。
「その人の話は本当です! セルフィさん!」
すると何と俺の証言を肯定する声が上がった。後ろを振り向くと俺が助けた魔術師の女の子がいた。
前衛の二人は重傷だったが、この子は比較的軽傷だったからギルドに戻ってこれたのだろう。
「リーネちゃん、その話本当?」
「本当です! 私たちがコボルトが人里に降りてくる原因の調査をしている時にキマイラに出くわしたんです。とても敵う相手ではなく、もうダメかと思ったんですが、そこにこの人が現れて私たちを助けてくれたんです!」
コボルトの調査の依頼か。
おそらく森でキマイラが出張ってきたからコボルトたちを恐れをなして生息範囲の森から出て行ったんだろう。
「リーネちゃんがそこまで言うなら……。ライカさん、先ほどは失礼いたしました。何せ今までFランクの方が高ランクの魔物を倒したという事例なんかなかったものでしたから」
「どうってことはないですよ。誤解が解けて何よりです」
キザったらしく俺は言う。たかが誤解で怒っていてはカッコ悪い男になるからな。
「ライカさんって口だけでなく本当にお強かったんですね」
そう言ってセルフィさんはウィンクしてきた。
おっ? これは脈ありか? 脈ありなのか!?
「変な期待はするななの」
「うるさいぞルル。お前に女心が分かるものか。あれは今夜一緒にどうですかの合図だ」
「そんなわけないの。ただ誤解してごめんなさいねっていう意味合いのウィンクなの。あなたなんかに女心なんて語って欲しくないの」
全くルルめ。何かとあればすぐこれだ。人の恋路を邪魔するんじゃない。
「ところでセルフィさん。この後空いてますか? もしあれでしたらこの後一緒にご飯でもいかがですか。俺の夜の実力ってやつもあなたに見せられたらと思いますし」
「……いえ。今日は忙しいので遠慮しておきます」
そうか。今日は忙しいのか。ならしょうがない。
「最低の口説き文句なの。それに何が夜の実力? そんなもの発揮したことがあったなんて私初耳なの」
黙ってろ駄猫! 実力というのは隠しておくものだ。俺くらいになればイメージトレーニングで十分なんだよ。
その後俺はキマイラについての詳細情報と俺が受けた薬草採取の依頼についてをセルフィさんに報告し、ギルドを出た。
「あ、あの……」
後ろからの声。
振り返ると先ほど森で助けた魔術師の女の子がいた。
「キマイラから助けてくださりありがとうございました。私、リーネって言います」
そう言ってリーネちゃんはぺこりと頭を下げた。
「どうってことはない。たかがキマイラごとき俺にかかれば何てことはないさ」
「すごい……」
するとリーネちゃんはキラキラとした目で俺を見てきた。これは……そういうことなのか?
ピンチに陥っているところに颯爽と現れた俺に胸きゅん的な。
年齢的には12歳から15歳あたりか。黒髪で可愛い顔はしているものの、もう少し大きい子の方が俺の好みではある。年齢的に。
しかし胸はその年齢に反して大きめに見える。将来性は多いに感じられる。
「あの……、お願いがあるのですがいいですか?」
やっぱりそうきたか。俺としてはOKを出すか迷ってしまうな。確かに素材的にはいい子なんだが、さすがに幼すぎる。悩みどころだ。
しかしリーネちゃんは勇気を振り絞って言ってくれているんだ。ここは応えてあげようじゃないか。
「お願いか。かまわないよ、言ってごらん」
リーネちゃんはもじもじとする。見ているこっちももじもじしてしまう。
ふふっ、これが青春というやつか。俺の青春は学院時代に置いていってしまったからな。随分と懐かしい感情だ。
しかしリーネちゃんの発した言葉は斜め上を行くものだった。
「わ、私を弟子にしてください!!」
「恋人か。まぁ悪くない響き……、え、弟子?」
その日、俺に初めての弟子ができたのだった。