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セルギア帝国首都郊外の森のなか。
俺とルルは薬草採取の依頼をこなすべく、この森に来ていた。
「風よ、地を駆る刃となれ『風の刃』」
薬草が多く自生する場所を発見した俺はとりあえず下級の風魔法を使って根こそぎ採取していった。普通なら一つ一つ千切って採るものではあるが、そんな泥臭いこと俺には似合わない。魔術師なら魔術師らしく優雅であれ、だ。
「すごい勢いで薬草が集まってるの」
「俺の手にかかればこれくらい赤子の手を捻ることよりも容易いからな。それにここでたくさん採ってストックしとけばこんな生ぬるい森に来てわざわざ薬草を採りに来る必要もなくなる」
「もういっそのこと薬草屋さんになったらいいんじゃないの? そっちの方が儲かりそうなの」
「馬鹿言うな。あんなしみったれた職になぞつけるか」
「あなたが今やっていることも十分しみったれてると思うの……」
それ以上言うな、ルル。俺だって好きでこんなことをやっているわけじゃないんだぞ。
これは次の昇格試験までのしのぎでしかない。でなければこんな単純作業になぞ精を出すものか。
「そろそろいいんじゃないの?」
「そうだな。俺も早く帰りたいと思っていたところだ」
薬草採集開始から約5分。刈り取った薬草を持ってきたカバン二つにぎゅうぎゅうに詰め込んで帰り支度を始める。ここに来るまでに10kmも移動しなければならないのだから実に馬鹿馬鹿しい仕事内容だ。
「ルル、カバンを一つ持て。少しは主様の仕事を手伝うんだ」
「そんな大きなかばん持てるわけないの」
「擬人化すれば済む話だろう?」
「ええー。面倒なの」
「いいからやれ」
「人遣いの荒い人なの。絶対女の子にモテないの」
ルルは渋々ながらも承諾する。
そしてルルの全身が輝き始めたかと思うと、白いワンピースを着た緑髪の少女が現れた。
今思うとルルの擬人化姿は本当に久しぶりだな。研究所時代はずっと猫の姿だったから実に1年ぶりと言ったところか。
「いやらしい目で見たら嫌なの」
「誰が見るか。貧乳には興味ないからな」
さて、帰る準備も整ったことだし帰るとしますか。
俺は自身に『風の浮遊魔法』をかける。マルクィート王国の宮廷魔術師がこれを使ったら制御できずに大怪我したようだが、超天才の俺にかかればどうってこともない。
歩いたら2時間かかるこの道のりも、行きをこれで来たからこそ15分で着くことができた。
「私にもそれかけてほしいの」
「自分でかけろ。そんななりでも風の霊獣なんだろ?」
「……だからあなたは女の子にモテないの」
減らず口め。俺はモテないんじゃない。女の子と出会う機会が少なかっただけだ。
学院時代だって男女別の寮だったし、研究所はずっとこもりっぱなしだった。
だがこうして冒険者になったからには当然のようにウハウハな生活を送れるだろう。何せ俺は誰よりも強い魔術師なのだから。
「今に見てろよ。擬人化しても髪の毛けむくじゃらのガキンチョ。凄腕の冒険者たる俺にかかれば女の一人や二人わけはない」
「髪の毛けむくじゃらはあなたも同じなの、天然パーマ。それにFランクの癖して凄腕とか自分で言っていて恥ずかしくないの?」
「ふん、暫定Fランクだ。そこらの有象無象の初心者と一緒にするな」
相変わらずこの従魔は減らず口が止まらない。会ったばかりの時はおとなしいやつだったのにどうしてここまで変わってしまったのやら。
しかしそれにしてもこの『風の浮遊魔法』は実に気持ちがいい。風を全身で感じることができるのだからな。それにしても王国がこの魔法の良さを理解できないのは実に残念なことだ。
まぁ俺という貴重な人材を流出させてしまったことが一番の悪手なんだろうがな。
「あなた、何だか向こうが騒がしいの。何人かの人が戦闘をしているようなの」
すると突如ルルが何かに気付いたらしい。
霊獣は俺たち人間と違って自然体でも感知範囲が広いからその何かに気付いたのだろう。
「どうせなりたての冒険者が弱小モンスターとでも戦っているんだろう。ここの森は何でも初心者歓迎なんだからな」
「でも何だか胸騒ぎがするの」
胸騒ぎ……か。
こいつの勘はそれなりに当たる。まぁ俺にとってはささいなことでも、その戦闘をしている奴らにとっては死活問題ということもあるだろう。
「依頼外とは言えしょうがない。ルル、ちょっとばかし様子を見に行くぞ」
「はいなの!」