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思い立ったらすぐ行動。

それが俺の美徳だ。どんなことであれ頭の中で考えているだけでは物事を動かすことはできない。人生の大半は考えることに費やすと言われるが、それをいかに無駄な思考から有益な思考へと変換させる、それができるかできないかが天才とそうでないかを分かつ境目なのだろう。

もちろん俺は前者であるが。


さて、あんなクソの掃きだめみたいな研究所ではいずれ俺も腐ったみかんになってしまう。上からの命令をただ受けては流すだけの機械にはなりたくはない。だからすぐさま俺は辞表を書いた。

上司であるあのクソジジィはそれはもう優秀な俺が抜けることが残念でしかたないというようなセリフを吐きながら、されど笑顔を通り越したしたり顔で見送ってくれた。それはもう憎たらしいと思えるような顔だった。

きっとあいつはまだまだしぶとく生きながらえるに違いない。

まぁあんなしみったれたところには戻る気はさらさらないからどうでもいいことだが。


「突発的に仕事辞めたみたいだけど行く当てはあるの?」


俺の肩に乗っているルルが心配そうにそう聞いてくる。こいつは相も変わらず生真面目なやつだな。


「そりゃあ大天才である俺を迎えてくれるところなんてたくさんあるに決まっている。むしろいつスカウトが来てもおかしくないくらいだ」


「本当なのかしらね」


疑いの眼差しで見るルルだが、実際俺みたいな有能な魔術師を欲しがるところなんかわんさかあるだろう。

進路の候補としては王国の宮廷魔術師になるという選択肢がある。宮廷魔術師になるための試験なんて魔法学院を首席で卒業した俺からすれば何のことはない。簡単すぎてへそで茶が沸くレベルだ。

しかし正直あそこには行きたくはない。以前、研究のために一度宮廷魔術師に会うことがあったのだが、どいつもこいつも俺のことをまるで親の仇かのような目で見てきやがった。

そりゃあ俺の作った魔法の実証で同僚がアバラの2、3本イッたこともあっただろう。一週間生死の境をさまよったこともあったかもしれない。けれどそれはお前たちが無能で俺の高尚な魔法の片鱗に触れることができなかったのが悪い。

ともあれ入ったら入ったで窮屈な思いをするのは間違いなさそうだ。それに自分よりできないやつの下につくなんて反吐がでるわ。


そうなると他国の軍に雇ってもらうという線もあるが、今の時代間者を気にして他国の人間を雇う軍部などそうそうないとは言われている。しかしこの超絶天才な俺の風魔法を見せればどこの国も喉から手を出して俺を雇おうととする可能性はなきにしもあらずではある。

だがどう考えても魔法に関していえばマルクィート王国が一番発展している。どこの馬の骨とも知らない魔術師を同僚と慕い、忠誠心の欠片も感じられないその国の繁栄を目指していくなんて無理な話だ。


「まぁ、あれだな。引く手数多なだけに問題はこの俺が行きたいと思える場所に巡り合えるかだからな」


「ならなおさら無理なことなの。あなたのその性格で耐えられる職場なんてあるはずないの。むしろ向こうから願い下げなの」


ルルがさらりと言い放つ。

主様に向かってクソ生意気なことを言うなんて本当にこいつは俺の従魔なのだろうか。その緑色の毛むくじゃらをモップ代わりにしてトイレ掃除でもしてやるぞ、全く。


ふとその時、やるせなく城下町を歩いていると一枚のチラシが目に飛び込んできた。


『あなたも冒険者ギルドに入ってみませんか。“自由”なライフがあなたを待っています』


なんともない冒険者ギルド案内のチラシ。冒険者など一攫千金を狙う馬鹿か、ろくに就職先も見つけられなかった落ちこぼれかのどちらかだろう。

しかし俺は“自由”という言葉の響きにどことなく共感を覚えた。狭っ苦しい研究室からの解放を願っていた俺にとってはとっておきの殺し文句だったに違いない。


「……あなた、もしかして冒険者になろうだなんて考えた?」


「考えてちゃ悪いか。いい響きじゃないか。自由。口うるさい人間に指図されることなく自由気ままに生きていける。駄にゃんこのお前もそっちの方がいいだろう?」


「私は駄にゃんこじゃなくてれっきとした霊獣なの! 別に私はどっちでもいいけどあまり気が進まないの。だって冒険者ってなんか泥臭い感じがするの」


「ルルよ。これを機に良いことを教えてやろう。どんな仕事であれ泥臭くない仕事なんてものは存在しない。どうだ、感心したか?」


「あなたの口からそんな言葉が出てきたことに感心したなの」


いつだって俺は良いことを言っているはずなんだがな。やはり獣風情には分からないということか。

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