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尽きぬ騒動

 タキタテはオロオロとうろたえて、落ち着かない素振りでうろついていた。

さながら出産時の父親のような様はタキタテには珍しい。

場所は黒曜の森ほどではないにせよ、ちらほらと木が生い茂っている林のなかである。



         ーーープルーヴィの街がすでに視界に入っているが。


 プルーヴィの街から伸びる街道から外れた林の中だった。つまりすでに目的地についてしまったのだが、ニクスが目覚める様子がないのだ。タキタテは背中に安らかな寝息を感じているし、意識のない人間の体重がしっかり加わっている。もちろんそのくらいたいしたことのないタキタテであるが。


 ならば何に困っているかと言えば、気持ち良さそうに眠っているニクスを起こすのが忍びないのだが、起こすべき時に起こさないと怒られた過去の(理不尽な)言われ様にどうするかどうしたらいいか悩んでいたのだ。

いや、実はやはり起こさなきゃと思い、“つい衝撃を殺しきれなかったんだゴメンよテヘ“作戦を実行したにも関わらずニクスが起きないのだ。朝食用の獲物、“スピアーホーン“と言う立派な角をもつ頭を下げて突っ込んで来る鹿を狩ってもまるで動じずに張り付いていた。ぱっと見、子供が飼い犬に張り付いて眠ってしまい、犬が困りつつも身動き出来ない様子に似ているだろうか。背中に嬉しそうに顔を埋めているニクス。


 結局タキタテはニクスを起こすことを諦めた。



 いわゆる匣型で座っておとなしくベッドになっていたタキタテが、身じろぎを感じたのはさらに1時間程待った後であった。上体を起こしたニクスは


「んん……」


 と悩ましげな声を上げながら目を擦った。ボンヤリとした頭で視界に入った景色にはサッパリ見覚えがなかったが、タキタテの柔かな毛並みを身体に感じれば不安はない。身を屈めているタキタテから降りると両手を天へと伸ばし大きく伸びを打つ。顔の前に浮かんだ少し温めの水球に手を突っ込むとその水で顔を洗う。ようやく頭の隅に残っていた靄が晴れる。




       その目に映ったのはプルーヴィである。



 なるほど、すっかり目の覚めたニクスであった。森の惨状についてなんと報告したものかまるで考えていない。夏休みの最終日の学生のようでありーーー慌てて手をつけるなどと言うことはなかった。

一眠りしてスッキリしたニクスはそうそうに言い訳を放棄した。森を壊滅させたのは竜である(半分はタキタテだが)、そんなことはわかるはずもないし、わかったところで竜に文句を言える者もいないだろう。そう思い至れば妙に晴れやかな気分になった。狭まっていた視野も広がったようで、片隅の木に逆さ吊りになっている鹿の姿が見えた。


「……さすがに朝からはちょっと」


 ニクスの晴れやかな朝は幾分短かった。





 結局血抜きした鹿の魔物の肉は異次元倉庫行き(無駄にはしない)、且つ異次元倉庫から貯めおかれていた野菜の数々は香りが漂うスープとなり、目玉焼きは、フライパンを用いることもなく宙から現れ同じように湯気を立てる食パンでキャッチされる。なるほど、一家に一人錬金術師がいたら便利そうである。

とまれ、朝から食欲が減衰したニクスはスープとパンという軽めの朝食に落ち着く。タキタテにはしっかり熟成させた燻製肉をプラスしてあげた。一晩中頑張ってくれたので労いである。




「それじゃ、行ってくる」


 結局なんのための旅程だったのか【転移】するニクス。前足を自分へと伸ばしあっという顔のタキタテを視界に映しながら街へと飛んだ。



 周囲から悲鳴が上がる。


「誰か治療ができる者を!」


「親か付き添いの者を探せ」


 どうやら騒動の中心は自分のようだ、とニクスは首を傾げた。


「おい、お嬢ちゃん。しっかりしろ、すぐに腕利きの治療術師を呼んでくるからな。何ここは帝国だ、ここより腕のいい治療術師なんていねえ」


「ちょっと、あんたみたいな厳つい男じゃ怯えちゃうでしょ。大丈夫?コイツ熊みたいだけど悪いやつじゃないのよ」


 後ろで、誰が熊だ!とか男が叫んでいるが完全に無視だった。


「……なんでこんなに大騒ぎなの?」


 思わず聞いたニクスに目の前の女性は呆気にとられる。


「なんでってお嬢ちゃん、全身血まみれなのよ?」


「え?ああっ」


 着替えをすっかり忘れていたのだった。



 そこに衛兵隊が駆けこんでくる。


「そちらの少女の身柄は私たちが預かる」


 衛兵たちを割って出てきたセプテムであった。


「ニクス!?怪我をしているのか?担架を!」


「いやこれ、返り血だよ。怪我はない」


 状況を察したニクスは手をブラブラさせて問題ないと示す。とりあえず返り血ということにしてみた。


「……とりあえず屋敷で一息ついてから話を聞かせてくれ」



 セプテムのため息が響いた。

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