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 ニクスに妙手などはない。基本は力ずく、ごり押しである。

今回ももちろん、凶悪な性能の矢を前にしてとるべき手段は刺さっている翼付近で矢柄を切断し、翼とは垂直に抜き取るというシンプルな手段だ。そのために問題になるのは子竜の生命力であり、それを解決するための手段はエリクシル。

ただし、エリクシルを飲ませた瞬間はすでにかかっている呪いは解けるが、矢が刺さっている間は再度呪い状態になるため、矢を抜き取った後に再度解呪する必要性がある。最高の汎用性を持つ錬金術師である、当然解呪もできる。最も、能力的に底辺であるのも錬金術師であり、解呪できるのはレベルカンストのニクスであってもランク6がせいぜい、つまりぎりぎりだった。


 余談だが、“呪い“とは状態異常の一つであり、対象の魔素の吸収・魔力や闘気の生成を阻害する効果を持つ。今回の場合は魔法生物とされる竜故に過剰な影響が出たものだとニクスは分析していた。本来は矢も呪いも竜相手に通じるものではないが、竜の子供というゲーム時代には聞かなかったイレギュラー故の結果だろう。


 ともかく、オリジナルのエリクシルを無理矢理飲まされた子竜は悶絶してバタバタと地面をのたうち回った後ピタリと一瞬動きを止めると、ユラリと身体を起こしニクスを睨みつけると悪い笑みを見せる。エリクシルの効果で生命力の回復、呪いが解けたからであろう。調子が戻ればこっちのものとでも思っているのであろう。普段タキタテたちと一緒に暮らしているニクスにとって子竜の表情からなんとなく思っていることがわかるのだった。


 しかし、矢の特殊効果で再び呪いがかかり、けだるげに


「QUUUU」


 と倒れ込んでしまった。ニクスが余裕を持って見ていたのはそれがわかっていたからだ。再度身動きがとれなくなっている子竜の元に近づくと体勢を変えさせる。


ーーー刺さっている矢が地面と水平に、なるべく矢だけを切りやすいように。



 知るものはあまりいないが、エリクシルの効果は実は段階的に発揮される。


 1、生命力の爆発的な増幅

  2、体組織の蘇生

   3、体組成の最適化


 である。ニクスが上段に短刀を振りかぶって待っているのは1と2の瞬間。最大限の生命力を保持させつつ、翼の付け根の傷痕を蘇生させる。



ーーー今だ!


「【斬撃術:天梯】」


 雲間から射した日の光の如く振り下ろされた短刀は抵抗なく矢柄のみを分断した。ステータスが低く、それにより装備制限も受ける錬金術師の剣術系のスキルなど本来まるで効果はない。少なくとも対真人であればよほど初期の相手でなければダメージは通らない。




   だが相手が矢であれば話は別である。


 刺突術であれば文字通り虫に刺された程度の衝撃しか与えられないとしても氷を削るのには十分なように。



「【治癒魔法:解呪ディスペルカーズ】」


 柔らかな光が子竜を包むと、黒い茨のような影が弾けるように空気に霧散する。


「QUUUU(もうダメだー、最後にもう一度ミーティア猪のお肉が食べたかっt………



               ???)」


 一度ゆるゆると閉じられた目はパチッと開かれるとその瞳には強い光が湛えられている。透き通る蒼穹の色であった。


「QU?(なんともない?)QUUU!(ボクの身体は呪いに勝ったんだ!)」


 ちっさな翼はパタパタと動きどこか誇らしげにしている子竜を前にニクスはもう一瓶のエリクシルを取り出す。


ーーーもう一瓶飲ませたらすぐに身体活性化しないかな?


 不吉なものを感じとったであろう子竜は全身をブルッと震わせると一目散に逃げ出した。


「どこへ行こうと言うのかな?ふふふ、魔王からは逃れられないのよ?【無間】!」


「QUUUU!(ひぃぃぃ)」


 必死で逃げる子竜と悠然と追いかけるニクス。なるほどその様はまさしく魔王のようであった。



 鬼気迫る表情で対峙していたタキタテと親竜。

  嬉しそうに顔に張り付いた子竜。

   

「この場をどうやって収めたらいいのかしら?」


 遅れてその場に出くわしたニクスはそうつぶやかざるを得なかった。

   


 


「我が子を救ってくれて感謝する」


 頭を下げてもニクスの遥か頭上ではあったがその気持ちは十分に伝わった。尚、子竜は親竜上で眠っている。活性化中なのだろう。すっかり子竜に怯えられたニクスであったが、怒り状態が解け、氷鱗外装を解いた親竜もまた圧巻であった。子竜のような柔らかさは見受けられず、全体的に鋭いフォルムだが、くすむことない表皮は一層滑らかで艶やか。

ニクスに熱い視線を向けられて親竜の方がたじろいでいた。


「何か礼がしたいが望みはあるか?」


「触らせて!」


 間髪入れずの返答に呆気にとられる親竜はそっと前足を出す。飛びついたニクスにビクッとするも竜としてのプライドか一瞬でなりを潜めさせる。


「うわぁ!スッゴい滑らか!美肌過ぎる。どこかしっとりしてるのよね。」


 最初は撫でていただけだったニクスは頬擦りまでする。


……10分後。


 「うんうん、これはいいものだ」


 満足したのかご機嫌なニクスと、何とも言えない竜、そして羨ま悔しそうなタキタテであった。


「コホンコホン。人間全てを許せるわけではないが、ニクスのことは好きだ。謝罪と友好の証としてこれを贈ろう。」


 それは竜の皮膚のような石。


「古い皮膚が生まれ変わった際に出るものだ。魔力を流すと凍気を生むことができるのだ。」


 どやーと自慢気に言う親竜。


「あなたを直接触る方が気持ちいいんだけど、まぁいつでも触れるようになるんだし我慢しよう」


「ニクスは本当に変わっておる。さて、それでは我等は行くとしよう。私がこの地をされば凍結状態はすぐに解けるだろう。」


 なんと、この大地の状態は実際に凍りついているのではなく、【ブレス】の効果で触れたものを強制的に凍ったことにしてしまうのだとか。

弱っていた子竜のためにすこしでも快適な状態にしようとしていたらしい。使い主の意思で一発解除もできるのだと。これで問題は解決できるだろう。


 子竜の方が触れなかったのは残念だったが。

ゆっくりと親子の竜が浮かんでいく。竜にとって翼は魔力を操作するための器官なのだそうだ。羽ばたくのではなく魔法により空を飛ぶ。向かうのはさらに北西未開地だろう。姿が見えなくなるまで手を振って見送り、呟いた。


「これ、なんて言おっか……」


 元々の森の面影を残さない残骸の果てでタキタテに寄り掛かりながら途方に暮れた。





  

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