錬金術師の戦い
ニクスは“もふリエ“である。
もふもふのソムリエの略で、もふもふと言っても一概ではなく、こねこの柔らかいメラメラの毛もあれば、鼻筋の短いサラっとしたもふもふもまたもふもふであり、時に愛で、時に新たなもふを探して冒険をするのである。尚、自称。
一方で世の中には爬虫類愛好家もいる。蛇を首に巻くような人を否定するつもりはないニクスだが、自分はと言われたらノーサンキュー待ったなしだ。
だが、ニクスは思わず目を奪われてしまった。
磨かれた大理石のような艶やかな光沢をもちながら、それでいて硬質ではない、生き物らしいしなやかさと強靭さを秘めた皮膚。どんな高名な芸術家であってもこれを表現するのは困難だろう。
まだ幼態(子ども)だがその身体は全長2mほどあり、ニクスからすれば十分大きいのだが、タキタテのような大きな魔物とも暮らしているのでそれは気にならない。ペタリ。思わず手を伸ばしてしまったのだった。滑らかで、吸い付くような手触り。思わず、
「おお!」
と声を上げてしまったのだった。
そこでようやく熱が冷めたのか、違和感に気づく。見知らぬ人間が触ろうと近づいたのに、身動き一つしない。
「QUUUU」
少し高めの声は弱々しく、高めの声は痛々しかった。目が薄く開かれると青い水晶のようである。だがこちらも光は薄れている。
どれほど魅入られていたのか、気付かなかったのが不思議なほどこの生きた芸術を台なしにしているのは歪な鏃の矢だ。翼の付け根を貫通しており、長い時間が経ち、矢柄が取り込まれてしまっていた。
しかしニクスは別のことに囚われていた。
「もし、この子が元気だったなら……」
ーーーどれほど美しいのだろうか。
錬金術師の本分は生産。今ニクスの戦いが始まる。
ニクスが重視するのは【鑑定】系のスキル。今回は【道具鑑定】、対象はもちろん刺さっている矢である。
◆アイテム名:凶つ星
◆種類 :矢
◆ランク :6
◆PM(PLAYER MADE):デススミス
◆備考 :呪いが込められた矢。刺さった対象を“呪い“状態にする。特殊な反しがついており、抜こうとすると出血を促す。それでいて矢自身を破壊すると生命力を奪う強力な呪いをかける。
予想以上に凶悪な性能だった。そして何よりプレイヤーメイドのアイテムであった。ランク6は真人たちにとっては対したことはないが、この世界の人間たちにとっては切り札くらいにはなるかもしれない。
本来であれば竜にも通じるはずがなかった。おそらく幼態故身体ができていなかったのだろう。
矢が刺さっている間は解呪しても意味がなく、抜こうとすればさらにトラップが仕掛けられている。そしてこの子の体力は限界に近い。
「……これしか、ないわね」
手にとったのは緑色の液体が入った瓶。先ほどタキタテに与えたものよりも濃い。
一つ懸念があるとするならば竜という魔法生物にも効果があるのかどうかだ。おそらく誰も知らないであろう。
「死にたくないなら飲みなさい!」
……死ぬほど苦いけどね。
瓶の蓋を開け、指を突っ込むとその指を子竜の口元に近づける。生への本能故か弱々しくも細長い指を滴る液体を舐める子竜。
そして先ほどまでの様子が嘘のような勢いで飛び上がった。わずかに光の燈った目で睨みつけていた。
そんなわずかで完全に効果があるはずもない。ないのだがそれでも敵意を発せずにはいられないほどオリジナルのエリクシルは激苦だった。
「それだけじゃここから先には耐えられないわ。それだけ元気になったなら残りは自分で飲みなさい」
そう言って瓶を突き出すニクス。子竜の方は完全に激怒して威嚇している。
「仕方ないわね。力ずくでいくわ」
暴れる子竜と格闘すること数分、体力の切れた子竜の口をがっと開いて流し込むニクスであった。
最早理性が飛んだ親の竜の攻撃はますます過激になっていた。子竜がいることも忘れて車体ほどもある氷の塊を降らせる始末で、タキタテは全身で生み出した力を前足に収斂することで暴走状態の親竜と渡り合っていた。
しかし、それもそろそろ限界が近づいていた。蓄積された疲労がいよいよ戦闘の興奮状態をもってしても感じられるようになっていたからだ。
そして次の一合が始まろうかというところで
「QUUUUU!(お母さん助けてーーー!)」
親竜の顔にビタンと張り付くナニカ。ぶるぶると小刻みに震える子竜。
少し遅れて現れたニクス。戦場は一瞬にしてカオスな状況となってしまった。
ご覧頂きありがとうございます。
GW?そんなものはなかった。早稲を植えて畑を耕して……。雨よ降れと祈る珍しいタイプでした。
以上が言い訳です。




