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先へ

 それは地上100mの綱渡りをするようなものだろうか、あるいは埋まっていると分かっている地雷地帯を地雷の隙間を縫って全力疾走するようなものか。

一度飲み込まれれば竜巻の前の枯れ葉のごとく、身動き一つままならず、その身を引き裂かれてしまうことは想像に難くはなかった。


 ニクスとて、怖くないわけではない。むしろめちゃくちゃ怖い。だが振り返ることなく前へ前へと走る。

少しだけ、錬金術師のステータスの低さに文句を言いながら。




 一方でタキタテは竜の注意が自分に向くように必死で攻撃を繰り出していた。高周波振動の闘気弾を牽制に使いつつ、暴風をくぐり抜け、その中心で近接戦闘を行う。自分にとって優位な間合いであったが、相手の攻撃を見てからかわすまでの余裕はなくなる。より危険な状況に一歩踏み込んでの戦いであり、竜はタキタテを倒すことに意識を集中し、結果的に注意を引き付けるという役目を果たせていた。


 わざと隙を見せて相手の攻撃を誘いつつ、全力で振るう一撃でもってようやく出せた成果がそれだ。


 しかし、タキタテはそのことへの苛立ちや悔しさを見せない。叩きつけられる尾をかわし、振り下ろされる爪をギリギリで掠められながら、瞬時に再生される鱗を砕き回っている。

 一見それはなんの効果もないようだが、竜の視線をタキタテに、竜自身の足元に釘付けにするためである。


 タキタテ自身、全力でその役目を果たしていた。だから、竜がニクスの行動に気づいたのは偶然だった。“取るに足らない“存在として気にも留めていなかったニクスの向かう先ーーー。


 竜の瞳から朱が引く。

それは怒りが覚めたからではなく、怒りが頂点を突き抜けたからであり、その証拠に瞳孔は極限にまで細められている。

タキタテの攻撃が珍しくクリーンヒットし、外装の氷鱗を突き抜けて内部に達した手応えを感じたタキタテは喜ぶどころか呆気にとられた。


 そしてタキタテを介することなくニクスへと体を向ける竜。慌てたタキタテが高周波振動弾を放つ。自らのもつ最大の手札により意識を自身に向けさせるためだ。



 しかし、竜は全身の氷鱗を全方位に向けて弾き飛ばす。人間程もサイズのある氷塊が勢いよく飛び交い、避ける隙間もない。

それで足止めしつつ竜自身は横を駆け抜けようとしていた、今尚前しか見ていないニクスの死角、無防備な背へと尻尾を叩きつける。




 大地が陥没し、木屑が宙を舞った。

視界が開けて竜の目に写ったのは倒れているニクス、そして違和感。


 ーーー跡形も残っていないはずだ。


 事実ニクスはうめき声をあげながらも起き上がる。

そして次に見たのは空。

少し遅れて自分が頭を打ち上げられたのだと気づいた。


 むろん相手はタキタテだ。額から血を流しているが、その目は俄然戦意に満ちている。


 相手の攻撃がかわせないと知るやかわすことを放棄、体面積をなるべく小さくするように飛び込むや、ニクスへ向けられた尻尾を地面へといなした。


「タキタテっ!」

「がう!」


 さすがに足を止めたニクスに、先へ行くように促す。微かに躊躇いを見せつつも再び背を向けて走るニクス。


 タキタテにとってその生は基本強者との戦いであり、竜にとって、他の生命とは塵芥のようなものであった。その一点においてタキタテは経験として上回っており、竜は目の前の存在にわずかにうろたえていた。


 奇しくもその図は


“竜虎合見える“、菫の世界の有名な言葉だった。




 ニクスは疲れた体に鞭を打って走る。タキタテのことは心配だったが役立たずな自分が気にかけるのは傲慢というものだ。己の無力に歯がみしながらできることをすると誓う。


 辺り一面拓けていると思っていたが、竜の背後にも木々が残っていた。竜の存在感が強すぎて目に入っていなかったようだ。


 その内の一本、樹齢を重ねているのだろう、立派な木の根本に何かがある。遠目には一見石のように見えるそれは



     小さな竜だった。

 

 ご覧頂きありがとうございます。

言い訳になりますが、昨日はサツマイモ植えたりして疲れて10時間寝てました。


 ですが何よりこう、どう書くか悩んでしまい、イマイチ納得ができませんでした。書き直し、あると思います!


 では皆様よいゴールデンウィークをお過ごしくださいませ。

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