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地上の夜空

 日付が変わってしまいました。

「んあ?」


 目を覚ますとそこは天国だった。

全身でもふもふ、もふもふを感じ、ほっぺたはプニプニとした触感を堪能している。ニクスはくすぐったそうに口角を上げながら目の前にちょうどよくあるもふもふの塊を抱きしめ、再び目を閉じた。

容赦なき二度寝である。


 日頃、軽く仮眠をとって起きなければならないお昼寝は気軽に寝転がれる高級絨毯の如きタキタテ、しっかりと身体を休めるべき睡眠はしっかりと身体を受け止めてくれるスイートルームのベッドのようなメェテルと、その眠りの用途によって寝分けをしているニクスであったが、精神的に疲労していたためかそのまま寝入ってしまっていたのだ。


 ニクスが抱きまくらにしたのは相変わらずタキタテの右手である。虎系でありながらチーターよろしく爪をしまうことができなかったタキタテだが努力?のかいがあり、しまうことができるようになった。かつて一度、寝返りを打ったニクスの頬に朱の平行線を刻んでしまったタキタテはそれはもう努力をしたのだ。

エリクシルによって痕は残らなかったがそういう問題ではないのだ。


 そんなこともあり、タキタテの好きな“ニクスから聞いた“言葉は、


       『 成せば成る 』


 である。

 余談であるが、爪を出し入れできるようになったことで【抜爪術ばっそうじゅつ】というスキルを会得してしまっていた。ねこパンの途中で爪を出すことで爪先に加重がかかり、切れ味が増すという理屈らしいが、タキタテはその辺を感覚で行っているらしい。


 

 閑話休題それはともかく、ニクスが二度寝してしまったのでタキタテは動くに動けなくなってしまったのである。タキタテにとってニクスの意思は最優先であり、起こしてと言われていたならばともかく、眠りを妨げることはしない。時折耳をピクピクと動かしながら周囲を警戒し続けた。

朝日が昇り始め、タキタテの右腕(前足)が少し痺れてきた頃であった。





「もっと早く起こしてくれればよかったのに!」


 すっかり太陽が頂点に近づく頃に目を覚ましたニクスは慌てて起き上がり、周囲を見渡して事態を把握した後、避難めいたことを言った。どう考えても自業自得であった、タキタテ涙目。


「ガウ……(ショボン)」


 ニクスが目を覚まし、【属性魔法(水):ウォーターボール】などを使い顔を洗ったりしている間に、タキタテは周囲を歩き回っていた。

圧倒的な存在感を撒き散らすタキタテから周辺の生物たちは一斉に姿を消し去っていた。

まるで砂漠にでもいるかのように生命体のエンプティ・ゾーンが形成されていたのだ。

タキタテの好感度なセンサーが捕らえた、最も警戒心の緩い生物までの距離はおよそ600mほどだった。

それは普通ならば安全圏だったろうが、この場合は運が悪かったと言わざるを得ない。


 一瞬体勢を低く構えたかと思った次の瞬間にはその姿は消えており、タキタテは速度を殺し始めていた。

そして口には憐れな獲物がかかっていた。何が起きたか知る由もなく、痛みも感じる暇がなかったのは唯一の救いだったかもしれない。

 器用に近くの木の枝を使い、獲物をひっかけると、少し離れたところからブンと前足を振り下ろした。一見何もないようだが、獲物の頭が落ち血が勢いよく落ちた。血抜きである。ニクスが以前言っていたことを覚えていたのだ。そしてその方がおいしいかったという記憶も。

ニクスに嫌われないために、血で汚れないように全力である。


 本当は捕りたては旨味が少なく、低音で熟成させたほうが美味しくなるのだが、ニクスはタキタテを褒めて受けとった肉を解体する。

【解体】の熟練度も高く、【短剣】も使いこなしているため滑るように皮を剥ぎ、内蔵を抜き取ってしまう。この世界が現実になったばかりの頃には何度も吐きそうになっていたものの、人間慣れである。

あっという間にスーパーで売られているような形になる。


 ちなみにこの獲物は“暴食ラビット“と言い、樹木などは別として、地面に生えているものを根こそぎ食べてしまうため、定期的に駆除する必要性がある。


 ゲーム時代にはプレイヤーこと真人の内、テイマーがこの魔物と契約し、草むしりをさせていたこともある。


 草食だが狂暴で、食事を遮る相手に襲いかかる。能力は高いが美味であり、食材としても人気がある。



 焼きたてのまま保管してあったパンに切れ目を入れ、焼いた肉を挟んだものと、モーミルに、牧場でとれたいくつかの果実を結界と【属性魔法(風):ウインドクラッシュ】で擦りおろしたものを混ぜてフルーツオレにする。


「いただきまーす」「がう」


 手を合わせるニクスと、チラチラとニクスを見ながら丸い手をくっつけて首を傾げるタキタテ。

朝食と兼ねる昼食を食べる一人と一匹。


「タキタテ、もっとゆっくり食べないとダメ」


 ニクスの10倍程の量をペロリと食べてしまうタキタテに小言を言うニクスだった。

歯の構造上、すり潰すのに向いていないため困るタキタテだったが、次から練習しようと思っている。

まだ食べているニクスに身体を擦り寄せていた。いつも長い時間一緒にいられないため、独占できて嬉しいのだ。喉をゴロゴロと鳴らして耳の裏を擦りつけている。ニクスは食べるのに少し手間取ったが悪い気はしなかった。


 


 ごちそうさまをしたニクスとタキタテは、わずかに腹休めをした後で再び走り出した。

わずかに角度を緩くし北西方向だ。1時間ほども走った頃、結界を維持する魔力の消費量が上がる。

ニクスたちは結界によって気づいていなかったが、周囲の温度が一気に下がっていたのだ。

魔力の譲渡量を増やして走り出すも、2時間を過ぎた頃には地面が完全に冷え固まっていた。

タキタテの爪のスパイクにより変わらぬ乗り心地ではあったが、異様な光景に驚きを隠せないニクスであった。


 いよいよ3時間が経とうかという頃になって視界の先に黒々とした森が写り始めた。寝坊したとは言えまだ日が沈むには時間があるにも関わらず、そこだけ光が避けているかのような闇。

ニクス以外に知るよしもないが、まるでブラックホールのようだった。

だがそれもさらに近づくにつれて様子が変わる。

確かに全体的に真っ黒なのに変わりはないのだが、ところどころ小さく光が射しているのだ。

それは夜空にちりばめられた星のようで、緊急時でなければ素直に見惚けていたかもしれない。



      森そのものが氷で覆われていたのだ。


 光が抜け出せない鬱蒼とした森だったが、木々の表面を覆う氷によって反射していたのだ。


「“黒水晶の森“とでも言った方が今の状況には合ってるかな……」


 【魔物鑑定】【罠鑑定】【危機察知】【第六感】といった探索スキルを常時発動する。


     “魔物は一切反応なし“


 という真の異常事態を告げる結果が返ってきただけだった。それでいて【危機察知】の警報は鳴り続けていたし、第六感はすぐにこの場を離れた方がいいと告げ、タキタテの毛は逆立っていた。


ーーー逃げなかったのはなぜか?



        既に手遅れだったからさーーー



 森に入ってすぐに視界をさえぎる木々がなくなり、拓けた場所になっていてーーー



    体を水晶のような氷で覆われた竜がいた。




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