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逃亡

「改めて俺は帝国が第2皇子、デュオ・ルクセン・ド・オーズだ」






 第2皇子の預かりになると、その肩書きによって集まっていた市民たちは渋々解散していった。


 しかし、当然そのまま解放されるわけもなく、領主の屋敷へと連れていかれたのである。


 領主邸の応接室、シンプルと言えば響きはいいが、あまりにも飾り気のない部屋でテーブルを囲む。席についてるのはデュオ、セプテム、領主であるラファイエ・プルーヴィ、そしてニクスだ。ラファイエは立場上同席していたが、話はデュオに任せるつもりのようだ。ここで冒頭に至る。


 そこで事態の推移を聞いたニクスは感心すればいいのか呆れればいいのか悩む程だった。外見詐欺(断じてロリババアではない)とは言え、見ず知らずの自分に対しそれほど気にかけられるなどさすがに想像できはしない。


 とは言え、あまりいい展開ではなかった。【転移】のことはあまりおおっぴらにしたくないのだ(その割に特に警戒せずに使っているが)。


「弟を助けてくれてありがとう。セプテムは昔から身体が弱くてね。プルーヴィで会うとは思ってもいなかった。……信じがたいことだが、伝承にしかない“転移“でテュッシレイジと行き来した、と言うことでいいのかな?」


 形のよい眉毛をクイッと動かしてデュオが尋ねた。最もそれは事実を確認しているだけで質問ではなかった。ニクスは一つため息をついて、


「まぁ、そうだね」


 と答えた。事態を解決するには言わざるを得なかったのだ。その衝撃は大きく、大きく目を見開いたラファイエとデュオはお互いを見合って頷いた。


「……農商国に赴き食料の買い付けをしてきて欲しい。それで都市への無断侵入は不問にしよう」


 ニクスの方へと精悍な顔を向けたデュオは、蒼い瞳をニクスに注ぎながらそう言った。





          「だが断る」



「「は?」」


 ラファイエとデュオが間の抜けた声を出した。


「そもそも転移のことを想定した規則があるのか疑問だね。それは国側の落ち度だろう?」


「いくらなんでも態度が過ぎる、こちらは皇子であるぞ!」


 ラファイエが声を荒げるも、ニクスは同じる気配はない。


「気を悪くしたなら謝る。この通りだ。」


「デュオ様!」


 曲がりなりにも一国の皇子が頭を下げると言うのは余程のことであるが、ニクスが知るよしもなく、ただ頭を下げることができる人なんだなぁと個人の評価を上げていた。


「今、帝国は危機的状況にある。どうか力を貸して欲しい」


「……悪いけど受けられない。私は商人ではないけど、それでも信用というものは大事でね。先に受けた依頼がある」


 いい加減面倒になってきたニクスは目でセプテムに訴える、“どうにかしろ“と。


「デュオ兄、食糧庫はどうなっていますか?ニクスは事態を知っています。」


「ああ、備蓄していた分を回したのでな、まだ多少余裕はあるが時間の問題だろう。周辺の村の収穫は全滅だ、おそらくはプルーヴィに一旦避難することになる。食糧に限らず相場も値上がりするだろう」


 事態は一層深刻になっていたのだった。


「つまり、今は空きがあるということですね。ラファイエ殿、そちらまで案内を頼めますか」


「ついでに料理ができる官吏も集めておいて」


 セプテムが食糧庫への案内を頼むと、ニクスがついでとばかりに補足する。

ラファイエとデュオはついてこられずに軽く混乱していたが、セプテムの表情を見るや


「よくわからんがセプテムの言う通りにしてやってくれ」


 と差配する。今は危急の時である、案内を他に任せず自ら案内するラファイエは屋敷を出て敷地の奥へと向かう。そこは警備が厳重で6人程の兵士が立っており、領主の姿を見るや右手を左肩に乗せた。敬礼のようなものだろう。


「ご苦労」


 と声をかけると左右にサッと別れる様子に淀みはなかったが、その視線はニクスに向けられている。何故子供がこんなところに?と言ったところだろう。


 倉庫の中はまだ四分の三が埋まっていたが、どれだけの期間で四分の一が失われたかによっては余裕があるとは言いがたい。


「まぁ、ぎりぎりかな」


 とニクスが呟いた瞬間には20×50×5の箱の山が詰まれていた。

慣れているセプテムですら驚いたのだ。残る二人が口を開けていたのも無理はなく、そのうちの一箱がニクスの手元にあったのにも気付かなかった。


 そんな間にメイドとは名ばかりの戦闘集団が集まっていた。調理ができる者たちであろう。


 異次元倉庫で時が停められていたじゃがいもの中から苦労して芽が出ているものを見つけたニクスはそれを手に取る。保存のため乾いた土が表面を覆っており、ぱっと見石ころのようだ。


 メイドの集団の方へと身体を向けたニクスは、


「これはじゃがいもと言う。保存性にすぐれ、過酷な環境下でも育てやすい食物だ。ただし、外敵から仲間を守るためか、芽には毒がある。」


 まるで講義のように話しながらその手は下処理をしている。いつの間にか持っていたたわしで土を落としながら【属性魔法(水):ウォーターボール】で作った水で洗い落とす。汚れた水は【属性魔法(時空間):スモールゲート】へと流れ落ち、床に雫が垂れることはない。


 続けて熟練度がカンストしている【調理(包丁)】により、皮がむかれ帯のように一繋ぎの皮もまた漆黒の穴に呑まれていく。

綺麗に皮がむかれたじゃがいもの芽の部分に包丁の刃元を当ててえぐり取ると新たに宙に浮かぶ【属性魔法(水):ウォーターボール】の中にほうり込む。

※尚、剥いた皮など生ゴミは処理をして肥料にされます。


 ここまでの作業に淀みはなく、ようやく息をつけた面々であった。


「今、この場にいる皆が正しい処理方法を伝えて下さい。さて、油で揚げたもの、茹でて潰したもの、蒸してバターを乗せたもの」


 ニクスの声に合わせて水の中であく抜きをしていたじゃがいもが形を変えて皿の上に盛りつけられた形で現れる。

少しずつ味見をして、及第とばかりに頷いたニクスはメイドたちに薦める。恐る恐る近づいて手に取るメイドたち。


「美味しい!」


「サクサクしてるっ」


「こっちは何の調味料かしら?癖になる味だわ」


「素材よ、素材が良くなくてはこの味は出ない」



 明るい声が飛び交う中、デュオとラファイエは味見をしたそうだが、女性たちの中に割り込む勇気はなく、セプテムは苦笑しながらそれを見ている。


「これでじゃがいもについてのレクチャーを終える。あとは諸君らの健闘を祈る!」


「「イエス、リトルレディ!」」


 よくわからないノリで熱くなっている女性陣に囲まれながら倉庫の外へと向かうニクスを呆気にとられながら見送るラファイエとデュオ。彼らが正気に戻り、ニクスが逃げたことに気づいた時にはメイドたちに取り囲まれていたのである。


「あの娘は誰ですか!?新しい主ですか?」


「なんて魔法の無駄遣い、それでいて一切無駄がなかったわ」


「このじゃがいもという食べ物、研究の余地があるわ!」


「「私たちはあとを託されたのよ!おー!」」


ラファイエとデュオが縋るようにセプテムを見たのもやむを得ないことであった。





 一方でそそくさと逃げ出したニクスは人目を避けて【転移】した。


「ああいう場はやっぱり疲れるわー」


 どこかグッタリしていたニクスにいつのまにか現れていたタキタテがその身を擦り寄せる。ニクスはタキタテに背を預けて少し身を休めるのだった。


 

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