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翔ぶが如く 中編

「外に家族を待たせている。頼んで目的地まで連れていってもらうつもりだ。」


 ニクスがそう言うとセプテムはその言いように僅かに違和感を感じたが、この屋敷に来るにあたり、面識のない者は屋敷の外で待たせているということだろうと解釈した。


「大丈夫だ。子供の頃のようには流石にいかないが、抜け出すのは得意なんだ」


 とどこか自慢げに言うセプテムにニクスは苦笑いをせざるを得ない。とても皇族のすることではなかったので。セプテムも自身の発言に気づき、咳払いをしてごまかしたのである。


「そう言うことなら南門を出たところで落ち合おう。ただしマーサさんにはちゃんと言ってくること。ただでさえ長い間心配かけたんだから、それができないようなら連れて行けないから」


 そう条件をつけると、セプテムは表情を歪めざるを得なかった。


「それはなかなかに難題だな……。」


 マーサは生まれたころからセプテムの面倒をみており、病弱だったころから世話をしてきたのだ。相当過保護であり、昨日今日快癒したばかりのセプテムの外出を認めるとは思えなかった。


「……ちょっと待て南門を出たところと言ったか?つまり町の外に家族を放り出しているってことか!?」


 ここで食い違いに気づいたセプテムが非常に焦りながら尋ねる。


「うん?まぁタキタテを町の中に入れるわけにもいかないし。大騒ぎになっちゃうよ。それに本人もきっと嫌がるだろうからね」


 セプテムは最早わけがわからず混乱していた。


「それよりどうなの?正直時間に余裕はあるわけじゃないんだけど……」


 珍しく困った様子でニクスが言えば、


「少し待っていてくれ。それなら先にマーサにことわってくる」


 そう言って駆け出したセプテムの背中を見送ったニクス。


「タキタテに首輪をつけてもらって、ねこですってわけにはいかないかな?生態はほとんど変わらないんだけど」


 などと失礼なことを考えているうちに言い争うような声が響き始める。状況は少々セプテムに不利そうだった。が15分もする頃には落ち着いてきて、さらに15分ほどして、外出用の格好でセプテムが現れた。


「待たせてすまない。なんとか許可をもらってきた。というかニクスが同行すると言ったら即許可が降りたんだが。正直ニクスのほうが私より信頼が厚いのはどういうことだ。」


 再び苦笑せざるを得ないセプテムであった。ニクスといるとどうにも変なシワが残ってしまいそうだった。


 そして屋敷を出た二人は南門に向かいあるき出す。


「ニクス、こっちだ」


 そう言って向かう先は明らかに方向が違っていた。


「悪いが、人目につくと時間を食いそうなのでな、裏道を通る」


 そう言って狭い路地に入り、迷いなく歩いて行った先は行き止まりだった。てっきり病床に臥せっている間に変化があったのかなとか考えていると、積まれていた箱に足をかけるとそのまま塀に登り、ときに人の家の屋根を駆け、用水路を飛び越え、ニクスも【自動地図化】してなければどこをどう走っているかわからなかっただろう。そしてセプテムが足を止めた時には確かに見覚えのある門が正面にそびえていた。


「ああ、楽しかった。かつては躊躇われたルートも問題なく行けたし、最短記録に違いない!」


 と非常に満足げなセプテムである。考えてみれば、今回病床につく前から体が弱かったセプテムである。やりたくてもできないということが数多くあったことだろう。それがいきなり健康な体を手に入れたなら、思う存分走ってみたかったとしても仕方あるまい。そう思いながらニクスは仕方ないなというようにセプテムを見ていた。


「……セプテム様!?どちらに?いやっ、それよりお身体の方は!?」


 南門に着くなり、門番の兵士があわてて駆け寄って来た。


「お勤めご苦労。私たちはこれより公用で出かける。身体の方ならこの通り、かつてないほどに良い。心配をかけたな」


 嘘ではない、と見てとった兵士の表情に喜色が広がるも、すぐに真剣になって


「護衛の者は?それにその少女は誰です?」


 確かにニクスはその見た目は年齢以上に幼い。どこか町民などにはない気品が感じられるがセプテムが連れている理由がわからない。


「野暮なことを言う。逢引きに決まっているではないか」


 と言えば、


「な!な、な、な、」


 顔を真っ赤にしたニクスが慌ててセプテムを睨みつける。


「……冗談だ。彼女はこう見えて凄腕の魔導士でな。極秘の任務かつ緊急性の高いものであり、少数精鋭で行かねばならない。」


 しかしそこは一国の皇子である。やすやすと送り出すわけにはいかないらしくせめて護衛をと叫んでいる。皇子の言葉を否定することはできないにせよ、見た目ただの少女のニクス一人を共にとはいかない。言いたいことは分かるにしても流石にイライラしてきたニクス、外見はせめて大人にするべきだったかと悩んでいた。しかし、女性はいつだって永遠の17歳に夢をみるものなのだ。


「セプテム、行くよ」


 とセプテムの手を掴む感触と同時に声をかけられるとセプテムの視界がぶれ、周囲は木々で覆われていたのだった。混乱から立ち直れていないセプテムをよそに、


「タキタテ!」


 と声を上げた時には頭上から巨大な影がニクスへと飛び掛かったのである。

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