暗闇の中で。
昨晩は途中で寝てました。ごめんなさい。
もしよかったら暇な時間にでもご覧ください。
「ふはー!やっぱこれやねー」
庭先で敢えて網を出して肉や野菜を焼く。
錬金術を使えば洗うものが減るのに…とか野暮なことをBBQで言ってはならないのだ。
黄金と琥珀の中間の色の液体が揺れるグラスを片手に、ニクスはご機嫌だった。
本日のお勤めを終え、夕食は外で豪快に食べよう!と気まぐれで実行したのだった。
まぁ、ニクスにはよくあることだった。
異次元倉庫から網などを出してもらうと、メェテルは慣れた手つきで野菜や肉を引いていく。
その間にニクスはお風呂だ。
メェテルを働かせておきながら自分は風呂かよと思わなくもないが、実のところメェテルに押し切られた形だ。
何度もBBQをしていれば、風呂上がりのお酒すなわち最高!、BBQとお酒すなわち最高。よって風呂上がりにBBQしながらお酒は神!は明白なりなのだ。異論は認める、がニクスには通用しない。
野菜やら何やらが準備終わる頃にはニクスがあがってくる。メェテルとしてはゆっくり入って優しく丁寧に洗って欲しいのだが、ニクスはカラスの行水よろしくパパッと大雑把にやってしまう。
白地に濃い紫の市松模様の浴衣姿、ーーー最も誰もわからないがーーーで戻ってきたニクスは上気でいつもより赤みがさしており、食事の際に邪魔にならないよう結い上げているのでうなじが見えている。
カランと涼しげな音を立てて黄金の液体を飲む。宴の始まりだ。タキタテが牧場の外で捕ってきた肉を盛大に焼き、畑で採れた野菜も縁のほうに置かれる。もちろん、生で食べるようのもある。トマトは夕日のように真っ赤で甘そうだ。
「ニクス様、仰っていただければ畑の世話も牧場の管理も私が致しますのに」
どこか拗ねた口調のメェテル。
彼女のそんな珍しい表情に口角を上げながら、
「ありがとう、メェテル。いつも感謝してるわ。もちろん、皆もね。」
いつのまにか、視線がニクスの元に集まっていた。
「一生懸命働いて、おいしいものを食べて、お風呂にゆっくり浸かってぐっすり眠る。これって幸せでしょ?」
ニクスは遠い日のことを思い浮かべ苦笑する。
「汗水流して働いた方がお風呂は気持ちいいし、お酒もおいしい。心地好い疲れと満足感でこれまた気持ちよく眠れるの。だからお願い、私の仕事を取り上げないでね?」
ウインクしながらそう言えば、メェテルはそれ以上反論出来ず、
「ニクス様、ズルイです。」
そう呟いた。
騒がしい夕食を終えて片付けも済んだ後、自室でくつろいでいたニクス。普通であれば蝋燭代も高つくので夜更かしなどしないのがこの世界での常識である。
だがニクスは魔法で光を作ることができるので問題はない。
はずがない。
夜更かしして満喫する娯楽が発展していないのだ。
ーーー漫画もパソコンもないー。
浮かんだ思考を振り払って明かりを消す。
コンコン。
ノックの音が響く。
「ニクス様、準備が出来ました」
メェテルの声だ。最もジーニャかメェテル以外に話せる者はここにはいないが。どこか期待の篭った熱を帯びた、声。
「開いてるよー。」
対する声は自然なものだ。暗い室内では姿は見えない、がゆえに尚更熱量が生々しく感じられ、ペタペタと足音がやけに大きな気がする。
シュルシュル、トサ。
衣擦れの音もやけに大きく聞こえる。
「……失礼、致します」
それだけ言ってベッドへと上がる。頑丈なベッドもさすがにギシっと音を立てる。
「うんうん、メェテルの身体はやはり最高だね!」
そこにいたのは一匹の羊。金の巻き毛が特徴的で、ゴロリと身体を横たえていて、ニクスは頭の位置を調整中だ。
巻き毛がスプリングの代わりの役目を果たすのか、ニクスの身体を柔らかく支える。
ニクスがベッドにしているだけで、メェテルは無論ベッドではないのだが、
「恐れ入ります」
と本人が嬉しそうにしているからいいのだろう。
「お休みなさいニクス様。」
こうして怠惰な牧場主の一日は今日もゆっくりと溶けていった。