閑話 至高なる嗜好の思考 2
“お酒を作る“
と目標を掲げたとは言え、酒蔵などのように本格的にするわけではなかった。それこそ素人が手探りでできるものではない。
ニクスが考えていたのは、いわゆる、“ハチミツ酒“だ。“菫“だった頃に聞いたことがあった。蜂蜜は糖度が高すぎるために発酵しないが、水で薄めてやることで自然発酵するのだ、と。
ニクスは、酒造りに必要なのは基本的に“糖分“、“水“、“酵母“だと思っている。水に溶かした糖分を酵母がアルコールに分解するのだ。そして糖分として何を材料にするかで蜂蜜酒だったりラム酒だったり日本酒だったりするのだろう。
しかし、問題は酵母だ。パンを発酵させたりするのに使うイースト菌などはスーパーで買うものだった菫には知る由もなかったのだ。
ただ、蜂蜜(非加熱)には元々酵母が含まれており、水で薄めてやれば発酵を始めるのだと聞いたことがあった。
【結界術】で円柱、正確には中が空洞の、茶葉の筒状に結界を生成する。その数は10。蜂蜜と水を混ぜるだけ、と言っても濃度がどのくらいかわからないので割合を変えたものを複数用意したのだ。
結界の外から内へと光や空気、埃といったものは入らないように、内から外へと熱量が逃げないように、発生した二酸化炭素は出ていくようにと指定すれば、環境とすれば完璧だ。金色に輝く液体に期待してにやけてしまうニクスの姿があった。
そしてすっかり忘れられていたのである。
ドライ・イーストなどを入れない天然酵母に任せたので全然変化がなかったのだ。1日、2日は時折眺めて鼻唄混じりだったものの、それが1週間にもなると日に1回見に行く程度となり、そして2週間もたつ頃にはすっかり忘れてしまっていたのだ。
【結界術】はLETがゲームだった頃から余り人気がなかった。正しくは、魔力の上限を譲渡するスキル全般についてだ。
“魔力を回復するアイテムの効果が相対的に減少する“
“上限値が下がることで、等級の高い魔法が使えなくなる“
といったデメリットがあったからだ。
しかし、それを生産に利用したことがニクスを“錬金術師“として大成させることになる。
錬金術は過程の省略をその特徴としているわけだが、省略とは言え、その過程は失われるわけではない。であれば外界からの影響がある。例えば平地と高山では気圧が違い、お湯を沸かせば沸騰する温度が異なる。
であれば、同じ行動をとっても結果が変わる、変わってしまう。
だがニクスは結界によって環境を整えてしまうことで比較的安定した結果を出すことが出来たのだ。
いくらかの時間が経った頃、いろいろなところで結界を使っていたニクスは魔力の上限値が余りにも低くなったことで、整理することを余儀なくされていた。
「こ、これは!?すっかり忘れてた……」
異次元倉庫から取り出された10の筒。
恐れながらも、怖いものみたさからか、臭いを嗅いでいくと、幾つかは悪臭がしたのでないないの神様をしたものの、3つほどはボコボコと泡を浮かべていた。
それは蜂蜜と水を1:3~1:2で混ぜたものだった。
とは言え、これで完成というわけではない。言わばこれは酵母を繁殖させたもので、底に沈澱したものを漉しとった液体を再び蜂蜜と水を混ぜたものに加える。
今度は十分な酵母が含まれたいたので翌日にはポコポコと泡を吐いていた。一口味見をしてみれば甘い中にも確かにアルコールの独特な風味を感じたニクス、思わず口角が上がっていた。
糖分が分解されてアルコールになる以上、日が経つにつれ、甘味が薄れ、アルコール度数が上がるのだった。ニクスは三日目くらいの味が好きだったので、その時点で異次元倉庫に入れて時間が経つのを止めた。
ヤマタノオロチ然り、酒で酔っ払って首を刈られた魔物の存在は少なくない。
牧場の家族たちも例に漏れず蜂蜜酒は好まれた。彼らの気持ちは同じらしいが、【人化】できるメェテルに代表して感想を聞いたところ、
「心がピョンピョンするんじゃぁ」
とのこと。口調がおかしい。
この後、生姜を使ったピリッと辛いお酒、ジンジャービアも作り、これまた好評であったのは言うまでもない。




