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交渉

 別荘だからか、帝国の思想からか、いやおそらく両方であろう、応接間はひどく殺風景で向かい合って座るセプテムとニクス、そして互いの目の前に置かれたお茶から上がる湯気だけが存在を主張していた。


 二人の馴れ初めなどを聞きたがったマーサに席を外してもらうように言うと残念そうにしながらも、


「お二人にも積もる話もございますものね。後は若い人に任せましょう。何かあったらすぐ、すぐに呼んでくださいね!」


 とどこぞのお見合いのような言葉を残していった。


「マーサさんは良い人だな」


 ニクスが思ったままに口に出すと、


「あれで、言い出したら聞かないところもあってね。まぁ乳母として文字通り私のことは何でも知っているから、頭が上がらない」


 セプテムは苦笑しつつそう答えるが、そこには親愛の情が仄めかされている。


「それで、ニクスは碧雫を私に使ってくれてまで何の用だったんだ?」


 しばらくの沈黙の後、真っ正面から切り込んだのだった。


 死を覚悟していたものの、一旦助かり生を実感してしまえば一度覚悟したものだからもう一度とはいかない。


 さりとて、理不尽な要求を受け入れるわけにもいかない。妙に心を掴まれていたが、そもそもニクスのことを何も知らないのである。


 腹を決めて、交渉に挑んだセプテムであったが、早々に困ることとなる。


 なぜならニクスが悩んでいたからだ。


 胸の前で腕を組み、頭を傾げていたニクス。どうにも本気で悩んでいるようでセプテムもどうしたらいいのかわからなくなってしまった。


 もっと長く感じたが、実際には1分ほどだろうか。ピシャリと膝を打ったニクスは、


「ああもう、面倒くさい。腹芸なんて私には向いてない。単刀直入に聞くけど、王国に派兵したのってセプテムで合ってる?」


 とそう言った。

ニクスは本気でそう思っていたが、セプテムはここまでが演技なら恐ろしいと感じていた。

まさか素直に「はい」と言うわけにはいかないのだ。


「質問に質問で返すのが

非礼とは思うがニクスはどういう立場なんだ?王国の使いだったのか?」


 まず、それはない。一先ず時間を稼がねばならないという判断だった。これまでの付き合いから何となく友人同士のような会話になってしまっているが、内容は下手をすれば開戦ということもありえなくもないではなかった。


「前にも言ったが私は牧場をやっている。王国方面ではあるが、未開地だからな、王国の命令と言うわけじゃあない。友人が困っていてね、元々がセプテムの病気が原因で起こったことならこれで解決と言うことでいいのかな?」


 ニクスは普通に話しているだけだったが、セプテムは余計に困惑した。未開地に住むような者が民間人といっていいのかわからないが、諸事情に詳し過ぎるのだ。


「私としては、だ。四国が互いに喧嘩してる場合じゃないと思うんだよね。もう来ないってんならそれでいいんだけど」


 これがセプテムが派兵したことを自白させるための罠なのかと勘繰らざるを得なかったのは仕方なかった。


 自分が帝国の不利益になってはならない。



  一方で目の前の少女に正直に話すことが帝国にとって有益である、という根拠のない直感があった。


 そしてこの手の直感はこれまで何度もセプテムを助けていた。


「……私の独断で王国に兵をやった。陛下はご存じでない」


 結果としてセプテムが選んだのは自分で責任を被ることだった。

実際陛下には相談したが、陛下が何か言うのを遮ったのは自分だ。つまり、耳には入れておくが、知らなかったことにしておいてくれということだ。


「お望みの通りエリクシル……碧雫はあげた以上問題は解決ということでいいのかな?」


 何か感じ入るところがあったニクスはそう尋ねた。

それはつまり、エリクシルの対価を気にしていないようで、セプテムは目を見張ったが、その表情は苦々しいものとなる。


「……そうはいかない。金でどうにかなるものではないと知っているが、陛下に頼んでできるだけの対価は支払ってもらう。ニクスが無理矢理押し込んだ形であったしそれで勘弁してほしい。」


 確かにエリクシルを無理矢理押し込んだ形だったのは間違いないが、


「それって不義理じゃない?」


 とニクスも尋ねずにはいられなかった。


「すまない。私はまがりなりにも帝国の皇子だ。帝国の利益に反することは出来ない」


 その表情はひどく苦汁に満ちたもので本意ではないのだろう。


「なら、対価は要らない。帝国に起きていることについて説明して欲しい」


「そ、それは……」


 帝国の中でもトップシークレットな情報であった。


「大分悩んでるけど、解決出来ないでいるんでしょ?もうセプテムたちだけで悩んでても仕方ないんじゃないかなぁ」


 手と足をグーッと伸ばすニクス。

格好こそ少々奇抜だが、ただの少女にしか見えない。

それにも関わらず、見えない手に背中を押されるように彼女に頼った方がいいと思われて、セプテムはポツポツと語り始めた。

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