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閑話 研究者と侵入者 3

 作品内では実際に扇子を用いているのでわかりやすいことになっていますが、読む分にはわかりづらいので書き改めるかもしれません。



「プリムベル、プラターヌ、アスパージ、トゥライプの4つの拠点を抑え、年輪の一層目を人類の領土としたところで、ルギウスたちは慰労を兼ねて祝祭をとり行うことにしたんだ」


 王都からほぼ等距離にある4つの町の名前が挙がったところで話が少し方向を変わったような気がする。


「その祝祭のイベントの一つが料理大会だったのさ!」


 当時のことを思い出したのか、表情を明るくさせるニクス。だが、


「待った待った!ちょっと話がズレてきているような気がするんだが……」


「まぁまぁ、最後まで聞きない。最初に言った通り、物事には順序ってものがあるんだから。えっとどこまで話したっけ忘れちゃったじゃないか!あ、喉が渇いてきちゃったと、はい!」


 そう言って渡されたカップには薄く黄色みを帯びた白色の液体が湯気を立てている。正直、話にのめり込んでいた身としてはいいからはよ!といった気分なのだが、貰って放置というのも申し訳なく、一口啜る。


 旨い!甘い!スッキリ!


目が見開かれたのを見てニクスがしてやったりと笑っていた。悪戯が成功したような表情は年相応に見えるのだが。気付けばカップは空になっていた。


「話に戻ろう。そうそう、料理大会だったね。一見無関係に見えるけれど、そうでもないのさ。新しい領土を得るまでに戦って得た魔物素材なんかのお披露目さ。一層目はなんだったかな?ゴッドブルはまだだったはずだし……」


 今なんて言った?ゴッドブルといったら発見されたら最後、仕留めるまで襲い掛かってくる牛系魔物でも上位の存在じゃねぇか。


「まぁともかく、王都の大広場を借りきって調理に必要な設備と観客席を設えた。いろいろな食材片手に集まった真人たちの内、【調理】に自信のあるものが舞台の上で必死に手を動かしている中、一人だけボーッと立っている子が居れば目立つだろう?案の定観客たちは気になってしかたなかった。規定時間も残り少なくなり、早い者は盛り付けに入ろうといったところで彼女が動いた。といっても鍋を火にかけただけだった。そしてその時間もそう長くはなかった。そしてコップに注いで終了だ。当然まぁブーイングなんかもあったが当の本人はケロリとしている。そして審査が進んでいき、最後が温めただけのコレだった」


 そう言って指先でツンツンしたのは先ほどニクスが入れてくれた飲み物だ。


「まぁこれも一応と一口飲んだ審査員たちの表情が一変したわけだ。争うように飲み干し、満場一致で彼女が1位になった。他の出場者からすれば非難囂々だよね。そもそもそれは食材であり、料理ではないのではないか、とかね。しかし審査員はこれを認めた。手を加えた以上は料理の範疇として認めるってね。但し審査員も質問をした。“何故そのままに近いかたちで提出したのか“。彼女は答えた、“これが一番美味く食材を味わえるんだ“と。」


 なるほど、確かに未知の食材を紹介するというテーマからすればもっともな意見である。但し、その食材自体がしっかりした味をしていてこそだが。


「出場者全員にも振る舞って、結果誰もが納得した。それだけのものがコイツにはあった。となればこれは一体何なのかという話になるのは仕方ないだろう?」


 まぁ、そうだよな。私も頷く。


「彼女は隠すこともなくすらすら答えた。“スモゥ“と呼ばれる、ホルスタインの黒い模様が雪の結晶型の魔物のから搾ったものだとね」


 ここでようやく自分の知りたかったことに繋がるのだと気づいた。というか今の今まですっかり忘れて聞きいっていた。


「そこで出場者の一人が反論した。“スモゥの乳なら俺も試したが、まずくはないがこれほどおいしくはなかったぞ“ってね。魔物からお乳を搾って飲もうったって容易なことじゃない。彼女は答えた。“これは乳じゃない。スモゥは体力が全快の時、自然回復する分を液体として身体に蓄えることができるんだ“ってね。あの時の会場の熱気はすごかったなぁ。審査員たちが相談して言ったんだ。“これは一般の乳とは異なるものであり、発見者の君に名付けて欲しい“と。困ったのは彼女のほうだ。彼女は美味しいものを求めていただけで、皆にも味わって欲しいと参加したものの、まさかそんなことを言われるとは思ってなかったんだね。」


 なるほど、確かに誰かと分かち合いたくなるほど美味であった。


「      モーミル     」


「え?」


 唐突に言われて戸惑った。


「周囲からの圧力に耐え切れず、彼女はそう言った。会場が一瞬で凍りついたよ。とは言え発見者の発言を無下にも出来ず、なし崩し的に決まっちゃったのさ。しかもそのシンプルさがよかったのかもの凄い速さで浸透していってね。一番驚いたのは当の名付け親だったと思うよ」


「まさか、そ、そんな理由で……」


 ニクスは頬をポリポリ掻きながら、


「言いづらいんだけどその通りだね。それ以降スモゥのことを“モー“って呼ぶようになっちゃったみたい」


 膝が折れる。

俺が気になったことは、そんな理由だったのか。知らなきゃよかったかもしれない。あ、もしかしたら王国の成り立ちについて教えてくれたのはこの理由が申し訳なかったからとか……。


「あの、ええと、うん。面白いところに焦点を当ててるから、きっといつかすごいこと見つけるって、ね?」


 自分の肩に置かれる小さな手。

まぁそうだな。ちょっと残念なオチだったが、知ることが出来てよかったと思う。


「あ、結構時間経ってた。そろそろ行かなくちゃ」


 名残惜しいとは思う。もっと聴きたいこともある、が俺は研究者なのだ。自分で答えを探さなきゃなって、説得力ないか。


「面白い話を聞かせてくれてありがとうな」


 ニクスの手をとりながらそう言う。


「信じるの?」


 ニクスが目を見張る。表情がコロコロ変わるな。


「なんだ、嘘だったのか?」


 自分の問いに首を横に振るニクス。


「まぁ、トンデモな話だったけどな。またなんか聞いちまうかもしれないが、その時はよろしくな」


 ニクスの頭をワシャワシャと撫でる。


「わ、わ、わ。やめてよね。髪がグシャググシャになったじゃないか。……来たくなるような面白い内容なら来てあげてもいい」


 ムスッとしながらニクスが答え、一瞬で姿が消える。もはや物語の中にしか存在しないっていう【転移】ってやつか?ちょっと頬が赤かったように見えたが、照れ隠しで【転移】って真人ってのはやっぱり半端ねぇな。



でも、……案外人間と変わらないんだな。





 ライフワークとして『王国の発展と起源』という書を書きつづけたダズウィム。それは彼の死後も重要参考資料として後世に伝わることになる。


 


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