閑話 研究者と侵入者 2
「相手が研究者となると、出来るだけ正確に話さないといけないと思う分緊張するね」
少女、ニクスは微かに赤みが差した頬を掻きながらそう言った。そうすると年相応の少女に見えるのだから不思議だ。
「オホンオホン、まず“扇子“って分かるかな?あー、うん大丈夫大丈夫」
早速聞いた事がない単語がでてきて困った自分に手を伸ばして落ち着かせたニクスはどこからともなく一本の棒のようなものを取り出すと、ザッと音が響いて棒だったものは鮮やかな色合いを帯びた一枚絵を見せる。独特な絵柄で魚の一種だろうか、黒と赤の艶やかな姿で今にも動き出しそうだ。
「綺麗なのは分かるけど、今見るところはそこじゃありませ~ん。この円の一部を切りとった形をヴェスト聖河とスーズ聖河に囲まれた王国方面を表しているとする。両端のこの棒、“親骨“って言うんだけどこれがそれぞれの聖河ね。そしてこの棒を纏めている、円の中心のようなところが“要“、大聖山の麓の王都“ジェルム“だ。ここまではいいかい?」
ここまではいいかいと確認されるまでもなく、わかりやすい。
「なんの話をしてるのかと思うかもしれないけど、物事には順序ってものがある。なに、聞いて損はさせないさ。一番端っこ、外周部を“天“と言うんだけど、真人たちの未開地の開拓は“要“から“天“に向かっていくわけだ」
細く滑らかな指が扇子の上をつう、と滑る。
「とは言え、いきなり“天“に向かって行けるわけじゃない。真人たちも最初から何でも出来たわけじゃないからね。大聖山の清浄なる力が注がれているのか、聖河もまた魔物が寄り付かない。それを利用し、聖河に沿って移動し、拓けた場所に拠点を造った」
ニクスの指が“要“から“親骨“を伝い、途中で止まる。
「ここに何があるか分かる?」
「……プリムベルか!」
自分が王国の地図を思い出して答えるとよく出来ましたとばかりに満面の笑みで拍手される。少女にそんなふうにされるのは少し恥ずかしかったが、馬鹿にされている気にはならなかった。
「正確には順序が違うんだけどね。その拠点を中心に活動を続ける内に拠点が発展していく。だけどしばらくすると、新たな魔物や素材を求めて移動し、また拠点を造る。そして前線が“天“に向かって移れば安全性が増し、先の拠点を支援するべく昔の拠点にも人が集まってくる。そして町になっていく」
言われてみれば確かに、多少のズレはあるが、聖河沿いに町が並んでいるように思える。
「しかし、だ。聖河沿いに開拓していくのはいいが、これでは王都の真っ正面ががら空きで、魔物たちが侵攻してきた場合に被害が大きい。そこで聖河沿いに進んでは扇上の中央に向かって制圧していくのが基本方針だった。“要“から“天“に向かい徐々に年輪を重ねていくように開拓されていったのさ」
「最初から中央を切り開くことは出来なかったのですか?」
気になったことをふと尋ねてしまう。
「確かにそう出来ればよかったのだが、聖河に魔物が寄り付かぬということは、聖河から遠ざかるにつれて魔物が密集するということでもある。故にこの扇を等しく2分するライン上が最も危険度が高く、力を蓄えながら中央に向かうのが結果的に効果が高かったのだ。この線上には何があるかわかる?」
“要“を通り、扇子を二つに分ける線をニクスの指がなぞる。
「都市、フロルとプレルか!?」
「そう。いざというときに周辺の町の民を避難させるため、王都を守るため重視され、城塞都市として設計された、っと何かわからないことでもあった?」
慌てて尋ねてくるニクスに顔を横に振る。
「逆だ。古い文献で、初代様が、「王なぞは誰でも構わん。だがフロルとプレルは信頼出来る者にしか任せられん」と言った記録があったのを思い出したのだ。それはつまり、」
「うん、ある程度前線が拡大されてしまえば、最後の砦であることは変わらないが、王都への危険性は少ない。むしろ両都市の方が重要性が高いということだろう」
ニクスの口角が上がり、嬉しそうに見えるのにどこか悲しそうにも見えた。
「……いろいろ言ったけど、ダズウィムが知りたかったことには実はそれほど大きく関係ないんだ。ちょっと知っておいて、後世にも伝えて欲しかったんだ」
実際、聞けてよかったと思う。
「ことはフロルが都市として形を成した頃だ……」




