閑話 研究者と侵入者
冷たい風が顔を撫で、目が覚める。
いつのまにか部屋は暗くなっており、思わず身を振るわせた。最近目に見えて気温が下がってきている。資料などを漁っていてうたた寝をしていることは度々あるが(熱中して1日2日寝るのを忘れた後の反動など)、そろそろ気をつけないといけないな。
「って、窓なんか開けたっけ?」
思わず見上げた窓には現実味のない光景があった。開いた窓の縁に、もともとそれほど大きくないであろう身を屈めた少女、天使?が自分を見下ろしていたのだ。さやさやと揺れる銀の髪は月の光が形をもったようで、整った表情は王族にも劣らないだろうと思った。
但し格好は紺色の上下で、天使と言うには似つかわしくない。それでも声を上げるのを忘れるくらいには見とれてしまっていたのだが。
右手に持っていた紙を覗き込みながら、
「君がダズウィムで間違いないかい?」
とそう言った。軽やかな声で、首から上にはよく合っていた。
ようやく冷静さを取り戻し始めた自分は、相手が何者か疑問を持つ。まさか暗殺者!?とも思うが、やはり首の上下でアンバランスなのだ。可愛らしい少女が暗殺者だと言うならこの世は終わっている。
不摂生が祟って天からの迎えが来たと言うなら割と筋が通っているような気がする。死んだ者しか姿を知らない天使が実はいかにも動き易そうな格好だったというのは死出の土産としては面白いかもしれない。結果を後に残せないのが悔しいが、先達たちもそうだったのかも知れない。
「王宮宛に“真人“に関する疑問の嘆願書を提出したダズウィムって君でいいのかい?」
少し不機嫌そうに少女が繰り返した。どうやらまた思考の海に囚われていたようだ。研究者にはよくあることだ。そう言えば駄目元で、王宮宛に降臨したという真人様に話を聞きたいと要望を出していた。
「ああ、すまない。君の言う通り、私がダズウィムだ。それで君は……?王宮が送り出した刺客か?」
何がツボに入ったのか、身体を折って笑い出す少女。バンバンっと机を叩き、資料の山が雪崩を起こす。
「ああっ」
思わず悲鳴が上げてしまう。整理するのにまた時間がとられてしまう!
「くっくっく、あはははは。ゴメンごめんプクク。私はニクス。お詫びに書物よりも貴重な話を聞かせてあげるよ。」
正直言って胡散臭いと思った。自分より若いというか、少女だ。怒るのは大人気ないが、一言謝るくらいあってもいいと思ったのだ。
「いやー、フローレアが送ってきた嘆願書の束、こーんなに厚いの!見ただけでうへぇってなってさ。中を見たら作り方を教えて欲しいってリストがズラーっと並んでるの。シティページかっての。」
なんか今聞き捨てならない事を聞いたような気がするぞ。陛下を呼び捨てにしなかったか?おいおい、誰かに聞かれたら不敬罪で自分まで捕まるんじゃないか!?
「その中でさぁ、一枚だけ奇妙なのを発見してさ、面白いことに興味を持つなぁって感心したんだよ。だからちょっとだけ昔話をしに来たんだよ。どうする、続き聞く?」
大雑把に資料の束をどけて、出来た空間に腰を下ろす少女。
「うへぇ、埃だらけ。ちょっとは掃除しなよ」
なぜだろうか、妙に引き込まれていて、
「是非聞かせて欲しい」
と、答えていた。




