ギャップという魅力
用件を聞き終わり、それから少し雑談をはさんでニクスは帰ることを告げた。
頼まれたことは特に期限を設けられたわけではないが急いで欲しいと言われたし、フローレアも帝国訪問のために前倒しの仕事が山のようにあると雑談の節々から読み取ることが出来て、長居するのが躊躇われたからである。
見送ろうとするフローレアを止めて、手を振りながら部屋を出る。
「あ、そういえば言い忘れてた」
執務室の扉が閉まりきる寸前で、牧場でバーベキューをするのに誘ってみようとしていたのを忘れていたことに気づく。申し訳ないが一言だけ、と扉を開けようとしたところで手を止めた。
「まぁ、ピーちゃん!お帰りなさいませ。さぁさ、こちらに」
さっき話していた時よりわずかに高く、喜色が篭っていた。
ガサゴソと何かを動かす音がする。
音を立てずに扉に張り付き覗き込むと、ニクスが渡した魔導銀製の鳥が、専用のクッションの上に座らされていた。
「はい、ピーちゃん、綺麗にしましょうねぇ♪」
とても嬉しそうに柔らかそうな布で金属の身体を拭いている。見ているだけで愛おしさが伝わってくる。“ピーちゃん“は心なしか困惑している
ような気がする。
作ってあげた身からすれば嬉しいのだが、
「……ピーちゃん、ね」
ネーミングセンスにはため息をつかずにはいられなかった。
最もニクスのつけた名前の由来を聞けば、当の家族たちから文句を言われることも必至なのだから人のことは言えない。
それに、フローレアの表情を見るにピーちゃんに負けているような気がしてなんとなく悔しい。
「あら、こんなところに傷が!どうしましょう。ニクス様には言えませんわね?鍛治師の方に言えばいいのかしら?」
表情を真っ青にしてピーちゃんを抱えたまま右往左往している。
おそらくジーニャの噛み跡だろう。
ちょっとかわいそうになって、
「大丈夫だよ、そのくらいの傷なら自然に直るから」
[形状記憶]の【付与術】がかけられているのだ。魔素を吸収して自然回復するだろうと思い、ニクスは手を出さなかったのだが、フローレアがこれほど取り乱す……愛着を見せるとは思っていなかったのだ。
「……そうですか、よかった。 え?えええぇえええ!?どうしてそこに?いつから?何も見てませんよね?」
一転顔を真っ赤にしたフローレアが矢継ぎ早に尋ねてくる。
「大丈夫だよ。“まぁ、ピーちゃん!お帰りなさいませ“からかな」
フローレアの全身がプルプルと震えている。
「最初っからじゃないですか!全っ然大丈夫じゃありませんよ」
ニクスは手をパタパタと振りながら、
「フローレアの新しい一面が見れて満足。大丈夫だ、問題ない」
「いやあああ」
ヒラヒラさせていた手を握り、親指を立ててグッとしたらフローレアが叫んでしまう。
「陛下!?いかがされました?」
近衛の兵が駆け寄ってきたのだった。
「あらら、フローレア、またね」
面倒なことになりそうだと思ったニクスは返事も待たず牧場に【転移】した。あーあ、バーベキューのこと、結局言い忘れちゃったなぁとかそんなことを思っていたら見慣れた景色が目に入り始め、家族が集まっていた。出迎えてくれたのだと思い気分が上向いたのもつかの間、彼らの表情は暗かったのである。




