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先触れを出しましょう

 翼、足、首とかなり自由に動くように作った魔導銀製の鳥の模型を、恐れ多いといった具合でなかなか使おうとしないフローレア。


 飛ばせてあげないと宿っている精霊がかわいそうだとかあーだこーだと言いくるめてようやく説得した。それでも躊躇うようなのでひとまず一日一回は挨拶に寄越しなさい、と命令して恐る恐る運用させることから始めた。

そして先日ようやく慣れてきたのか、商工組合から失われた技術について教えて欲しいという嘆願書が届いたのでできれば力を貸して欲しいという実のある使い方がなされたのである。



……錬金術頼りになっていてレシピなどを思いだすのにえらく苦労したのは秘密である。



 だが、今回の便りはどうもそんな簡単なものではないらしい。

“できれば力を貸して欲しいのでなるべく早く城に来て頂きたい“と要約すればそんな簡素なものであるが、意志ある“精霊便“といえども、万が一を考えると直接話した方がいいということであり、ただ事ではないと感じたニクスはメェテルに牧場を托して瞬時に【転移】した(跳んだ)。後に残された不機嫌そうなメェテルだった。



 一々会う者に咎められては堪らないと離塔のフローレアの寝室の近くの部屋を借り受け、転移先として指定した。

これについては宰相と近衛兵が反対した。

防衛の観点からだ。


「あら?でもニクス様がもし、私を害そうと思ったのなら、お城の最奥に潜んでいようと意味はないでしょう?」


 さもおかしそうにフローレアに言われ、納得せざるを得なかったのである。



 とまれ、やむを得ず認められた転移先の部屋が視界に入ると、小綺麗にされているのがわかる。


「お早いご到着ありがとう存じます」


 そんな声がしてルリがスカートを摘む礼をする。


「え、何?私が来るの分かってて待ってたの?」


 何それなんてエスパー?と少し驚くニクス。


「いえ、急いで来て頂けるかもとは思っていましたが、それでもまだ時間がかかるかと思っていました。もう少し先に終わらせておけば良かったのですが申し訳ありません」


 慌てて掃除をしていたというほどでもないだろうに恥ずかしそうに頬を染めるルリがかわいらしく思えた。


「ともかく、姫様のところに案内させていただきます」


 そう言って前を歩くルリ。勝手知ったるなんとやらではあるが、まぁ、これが普通だよねとおとなしく着いていくニクス。

もしその心の声を聞いていたなら【転移】とか使ってる時点でアウトと言われただろう。


「姫様、ニクス様がおいでくださいました」


 扉をノックして許可を求めるルリ。


「え?えええ?ちょっと待って!後5分だけっ」


 どこぞの起床時のような台詞が聞こえたのだった。




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