小さな友人たち
ことの起こりは少々時を遡り、フローレアのお披露目式から1週間が経とうという頃だ。
時々フラリと遊びに出かけるものの、基本的には日常、牧場生活に戻ったニクス(但し他の牧場主に知られたらキレられる労働内容)。
お昼の仮眠(2時間)を終えて、右腕で左腕の肘を掴んで伸びを行いながら欠伸をしつつ外に出ると、ジーニャが姿勢を低くしてお尻をフリフリ、何かを狙う体勢だ。ほぅ、アイツにもまだ野生という文字が残っていたか、と失礼なことを思いつつ、天を衝く、しっぽがお尻と連動してウネウネと動く様は蛇のようで少し気持ち悪いと顔を青ざめさせた。
アイツに限って日頃のお礼と玄関先に置いていくことはあるまいが、虫とか食べてると嫌だなと思い、こっそりと憐れな獲物を確認しようと覗き込み、慌てて声をかける。
「ジーニャ、ダメっ!」
耳をピクリと奮わせるも獲物もジーニャたちに気づいたのか首を向け、
「PI?PIIIII!?」
と鳴く。
逃げられると思ったのか、ジーニャの身体は動き、前足で押さえ付けると、動きを封じるよう更に噛みついた。
ーーーガキン。
普通の生物ならばしない音がして、遅れてジーニャの身体が噛みついた口から頭の耳先へへ、または身体のしっぽの先へと衝撃が伝わっていく。
「大丈夫?」
呆れたようにニクスが尋ねると、
「身体がプルプルするよ~」
とだけ応えて身体が横にコテンと倒れるジーニャ。ニクスが駆け寄る。
噛まれた方に。
「大丈夫そうかな?」
きゅうぅ~と倒れているものの、ちょっと犬歯部分が当たったところが点状に凹んでいる程度だった。
もちろん普通の生物ではない。
魔物さまよう僻地に住むニクスの下にフローレアが赴くことは危険度的にも立場的にも無理であり、用件を伝えるために隊を募ってというのも馬鹿らしい、ということでニクスが城に赴くこととなるのは仕方なく(フローレアは大変恐縮していたが)、そのために要件を伝える先触れ用の手段を用意した。
それが目の前で目を回して倒れている鳥、
ーーー但し金属製であるーーー
であり、間違っても噛みつくのは推奨しない、だ。
ニクスが手慰みに作った【彫金】スキルのデフォルメされた鳥に、[陰陽師]の【式神】スキルで“付喪神“を吹き込んだ存在だ。“神“とは言うものの、その実精霊のことであり、実態のない彼らに仮の身体を貸す代わりに少しお願いをしたりするWINーWINの契約をするのが【式神】スキルだ。
というのも、精霊は生来の質として好奇心が旺盛であり、人や動物のみならず植物などの営みが気になって仕方ないのだ。しかし、彼らには実態がなく、普段は見ていることしかできない。ならばこのチャンス逃すべきであろうか、いや逃すべきではない、となる。
但し、[陰陽師]の持つスキル【式神】と【結界術】はちょっと独特な仕様があり、スキルの使用の際には魔力の最大値を譲渡しなければならない、というものだ。もちろんスキルの解除や打ち消しによって元に戻るわけだが、一時的に最大値が減ることに代わりはない。
そのため、用途に応じて過不足なく魔力を譲渡するのが一般的で、今回はフローレアの元からニクスのところまで飛んで来られる分+日々の生活分だ。
ニクスは精霊たちが楽しめるうよう、ちょっと色をつけて譲渡するため、精霊たちからは次は自分が、と取り合うほどの人気振りであり、気に入られてまた契約されたいのか、“お願い“への応え振りも丁寧なのだ。
ちなみに与えられた金属ーーー魔導銀ーーー製の鳥ボディはデフォルメされて丸っこいとは言え細部まで精緻に作られており、なんというか、立体的なのも含めて【彫金】じゃないだろ!というのはゲーム時代からよくツッコミを入れられていた。
もちろんフローレアたちにとっても芸術以上のものであり、
「国宝として納めておきましょう!」
と言い出す始末で、使ってもらわないと困る。と必死に訴えたのだ。
ともかく目を回している精霊を柔らかいベッド(タキタテ)の上に横たえて様子を見守っていると、パチッと目を覚ましてキョロキョロと首を振ると右翼を掲げて挨拶した。
「PI♪」
ニクスが人差し指で頭を撫でてやるとくすぐったそうにしていたが、ハッ、とこんな場合じゃなかった!とばかりに足に巻付けてあった紙を羽指した。
なお、ジーニャは忘れられていた。
魔導銀
金属にしては非常に軽く、魔力の伝達率がいい一方で、あまり硬度は高くない。そのため魔術師系統の職業で杖やローブに部分的に使われることが多かった。
白銀色で魔力を流すと明るさが増すことで中二な魔術師職に人気だった。




