表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/200

天使のような悪魔の笑顔? 2

「私はヴィオレータ・ヴェルテニクス、ニクスと呼んでくれ」


 目の前の少女、ニクスというらしい、はそう言った。椅子に座り、足を組んだまま。

自分以外の皇族だったら手打ちにされても仕方ないが、初めて会うにも関わらずなぜか居心地がいい。


「爵位持ちなのかい?」


 内心それはないと思っていた。

帝国貴族にそんな名前はないし、そもそも暗殺者紛いの侵入などしないだろう。


「いや、ただの牧場主だよ」


 えらく誇らしげに言うのが少し気になった。


「最近の牧場主は3階の部屋に忍び込むのかい?」


 からかうように言ってみる。


「魔物たちにいつ襲われるかわからない物騒な世の中だからな。やむを得ず、ね」


 返す応えもどこかふざけていて、両手を天井に向けながら肩を竦めて見せる。


「くっ、ふふふ」

「あはは、おかしい」


 そして二人して耐え切れず笑いあった。

ニクスは沸点が低いのか、足をぶらつかせながら大笑いしている。そんな仕種が下品にならない不思議さがあった。それからしばらく本当か嘘か、信じがたい話が続き、どれも面白かった。


 ゴホッゴホッ、笑い過ぎて普段使わない筋肉が引き攣ったのか咳が出てしまう。その時偶然見てしまったニクスの視線は鋭く冷やかだった。咳が止んで顔を上げた時には普通だったから見間違いだろうかと思っていると、唐突にニクスが、


「友達になってくれないか?実は私、友達が全然いなくてね」


 と言い出した。


「ニクスが友達になってくれるなら光栄だけど、私は長くない。妙なしこりは残さない方がいい」


 私は最期を迎える前のひと時の出会いを望んだだけだった。彼女に対して失礼かもしれないが後腐れなくさっぱりと別れるつもりだったのだ。


「つまり、オーケーってことだな?」


 何を聞いていたんだ!とツッコミたいが、もはや身体は満足に動かない。ニクスの口角が上がっていて口が下限の月のように弧を描いていて、物騒な笑みを浮かべていた。


「悪いけど私は、今度は自分の手で掬ったモノを砂の一粒さえ逃がすつもりはないんだ。そのためなら神様にだって逆らってみせる」


 凶悪な笑みに見惚れていると、華奢な手が私の身体を片手で押さえ付け、病気でなくとも脱出は不可能だったろう。そしてもう片方の手に握られていたのは透明な瓶で、通り抜ける月の光がうっすらと碧色を帯びる。


「……まさか、碧雫リキッド・ジュエル?」


 荒々しく瓶の蓋を口でくわえて開けたニクスは瓶の口を無理矢理押し込んできた。


 その正体を理解してしまえば吹き出すこともできるはずがなく、飲み込む。


「さっきも言ったけど非生産的なことはごめんなんだ。大義名分は与えない。最もお前がどうでもいいようなやつなら話は別だったがな」


 挑発するように視線を向けてニクスがそう言った。ちょうど瓶の中身は空っぽになり、自分の身体がいつも以上に高熱を発する。


「しばらく身体が休みを欲するだろうから日を改めてまたくるよ」


 そう言って笑った顔に引き付けられながら意識が途切れた。

 碧雫リキッド・ジュエルは帝国におけるエリクシルの別称です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ