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天使のような悪魔の笑顔?

 帝国に住まう子供たちなら誰もが聞いたことのある話の一つが『死神』である。

天寿を全うせず死んだ者には恐ろしい姿の死神が現れ、手に持つ鎌で魂を切り離し持ち去るのだ、と。その際の痛みは手足の指の爪と肉の間に針を刺すよりも鋭いという。


 帝国は平均的に温度が低く、現れる魔物も強力と、風土的に恵まれていなかった。しかしそれは魔物との戦いを好む真人たちにとっては絶好の場所であり、帝国を拠点に選んだ真人たちによって得られた魔物素材、もしくはその加工品を他国に売って利益を得ていた。


 そんな歴史から始まった国であるので、帝国人はお国柄武力を尊ぶ。当然のこととして子供たちもそんな男たちを見て育てばやんちゃなことをするのである。

女親がそんな子供たちに言い聞かせるのが死神の話である。

最もある程度大きくなれば死神に見送られてこそ本望などと言うものばかりで、効果があるとは言えない。


 とまれ、セプテムもまたその話を聞かされており、目の前の光景に息を吸うことも忘れていた。……恐ろしい姿なんて嘘じゃないか。そう思えど言葉にならない。

月の光を透かす髪はどこか虚なのに、全体としては強烈な存在感を放っていた。整った顔は無表情で美しくも冷たい印象を与える。音もなくふぅわりと着地するのもどこか現実味が感じられず、それが逆に死神の存在に現実味を与えていた。


 死神が恐ろしいという言い伝えが間違っていたのか、それとも自分の下に舞い降りた死神がたまたま美しかったのか知る術はないが、自分を連れて行くのが彼女だと言うなら悪くない、とセプテムはそう思った。


「さぁ、私を連れていっておくれ」


 そう言って手を差し出した。














     死神が眉をひそめた。


 ーーーあれ?

そうすると表情に人間味が色濃く表れ何かがおかしいとセプテムが驚いていると、ツカツカと歩み寄って来た彼女はニィッと笑って腕をセプテムに伸ばし、折り曲げた中指を弾いて額を打ち据えた。いわゆるデコピンである。



「ったぁあああ」


 セプテムは両手で額を押さえながら悶えていた。


「お前な、不審者が侵入してきて、=自ら誘拐を唆すやつがあるか」


 酷く怒った様に言い捨てた。

自分でも不思議なことに、さっきの彫刻のような美しさよりも感情的な表情の方が彼女には似合うとそんなことを思っていた。


「君は死神じゃないのか?」


 ポロッと口から零れた言葉に彼女の眉が上下する。ひどく不愉快そうだ。


「私はモノを作ることが本職なんだ。そんな非生産的なことは頼まれたってゴメンだ」


 不本意そうにそういう彼女が、自分の仕事に誇りをもっているのが感じられる。


「お前が帝国が七子、セプテム・ルグリア・ド・オーズに相違ないか?」


「いや、帝国でルグリアの名を持てるのは陛下のみ。私はセプテム・ベルラント・ド・オーズだ。約束はなかったと思うが何の用かな?ここには余り長居しないほうがいい」


 不審者に対して妙な気遣いであるが、セプテムは自らの病がうつらないようにと配慮した。


「その病気なら私には利かない」


 少し妙な言い回しだな、とセプテムは思った。


「そうか、それなら少し話相手になってくれないか。ここは住み心地は悪くないが、少し退屈でね」


「いいだろう。私も聞きたいことがある」


 ムスッとした表情でーーーそれもどこか可愛らしく逆効果だったがーーー応えた彼女はセプテムが勧めるのも待たず、側の椅子に腰掛けた。


 継承権が低くとも皇族の自分にそんな態度をとった者はいなかった。しかしそれは不愉快ではなくむしろ心地いいくらいで。

奇妙な会話が始まった。



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