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閑話 王国論

 閑話 銀嶺 菫 は状況説明を含んだ、LETの世界で目を覚ました頃の話です。


 そして当話は女王になってからスピーチまでの間での出来事です。


 そしてこれにて本章は終わりです。


 フローレア・レジーナ・フォン・アールの執務室はいっそ質素と言って差し支えない。

高値の絵や壺が飾ってあるということもなく、フローレアの身長などを考えて専用の使いやすい椅子や机が運び込まれたがそれも高級なものではない。


 歴代の国王によって集められた書簡などが納められた本棚は重厚で高級そうだが……それくらいだ。仕事用の部屋であるのだから飾り立てる必要性がないと言えばそれまでだが、一国のトップという立場上せざるを得ない贅沢というものもるのだ。


 部屋の隅、というには丁寧に飾られているものがある。“ソレ“はわざわざ専用の台座まで置かれており、大事にされていると思われた。



ーーーえらく小型の、携帯可能な石窯。


 丁寧に作られていることがよくわかる、明るめの色の石材を組み合わされており、上部はアーチ状になっている。大きさは実用には適さないと思われ、装飾的なものだろうか。

 だがどう考えてもその場に相応しいとは言えない。むしろそこだけ違和感が満ちてしまっている。


 大量の書類にサインを入れていたフローレアは切りのいいところで手を止めると肩をほぐすためにゆっくりと腕を回すと、石窯に目をやり表情を緩める。そして再び書類の山にとりかかるのであった。






 わりと優秀だったらしいフローレアはテュエールの指導を受けながらではあるが、職務を効率よくこなし、暇を見ては離塔の自室でルリと雑談をしたり愚痴を聞いてもらったりしていた。時々はニクスが壁面を歩いて登ってきてそれに加わる。


ーーー仙人のスキル【縦横無沈じゅうおうむじん】物理的に接触可能である限り、足場にして移動を可能にする。


フローレアは初めて見たときは血の気が引くような思いをしたものだったが、ルリに至っては目を見開きはしたものの


「ニクスさまならそれくらいはやらかしてしまうかと」


 と言って口角をあげた。いい表情だった。

ルリがお茶の準備をしに部屋を出て行くと、言いづらそうにしながらもフローレアは口を開いた。



 「……ニクス様、私、何を言ったらいいかわかりません」


 それは国民の前でのお披露目を行う際のスピーチだ。


「フローレアは、やりたいわけじゃないのに王冠をのっけられたんだから、彼らに仕事を押し付けても文句は言わせない、くらいに思ってていいんだよ」


 ニヤニヤしながらニクスはそう言った。

そして表情を引き締めて言葉を続ける。


「だけど、フローレアはこの国をどういう風にしたいのか、展望を描いて指針を示さなければいけない。前にフローレアは言ったよね、“王様は権力としては頂点だけれど責任としては一人で皆を背負わなければならない“って」


 ニクスがポンッと手を叩くと、四角錐の鉄の固まりが出現し宙に浮きながら尖った点を上にしたと思ったらクルリとひっくり返って逆さまになる。

それにコクりと頷く。今でもその重圧に恐れを感じている。


「それはそれで間違いないと思う。だけど私はこうも思うんだ」


 再度手を叩くと明るい色の石材が机の上に並ぶ。よく見ればそれぞれ形がすこしずつ違う。

フローレアは次に何が起こるのか楽しみにしているのか目がキラキラ輝いていた。

それに苦笑しながらも二拍一礼する。


「これは……釜戸ですか?」



 パンっと音がなると、散らばっていた石材は一部を残して消え去り代わりに天井部分のない釜戸が姿を現す。


「今はここに型枠が入っている」


 そう言って半円形の型枠に沿って残った石材を並べていく。


「ここで型枠を取ったらどうなると思う?」


 一番のてっぺんのパーツを残した状態でニクスがそう尋ねた。


「この丸い部分は崩れ、ますよね」


 石材同士は本来する接着はしていない。


「そうだね。でもこの最後の一個を乗せると……」


 そう言って乗せると、当然のように綺麗にハマり、敢えて簡単に組んであった型枠を崩してしまう、が、曲線を描く美しい天井は変わらずそこにあった。


「この一番上のパーツを“要石“って言うんだけどこれが力をうまく活かしてバランスをとってる。だけど要石は他の石材がうまく噛み合っているからその力を発揮できるんだ。“王国“も同じで、王様がすこしずつ違う石材(宰相さんや武官、文官、侍女や庭師など)をうまく活かし、彼らが力を合わせることで治世(天井)が機能する。だけど天井だけじゃ釜はうまく働かない。横の壁や炉、煙突など(様々な国民)が支えてくれないといけない。こんな王様の在り方があってもいいんじゃないかな」


 フローレアはただ静かに石窯を見ていた。


「ニクス様、この石窯をいただけませんか?」


「……別にいいけど、それ使い勝手は良くないしもっといいのを作るよ?」


「いいえ、これがいいんです」



 フローレアの改心の笑顔の押されて頷いてしまうニクス。型枠は再びつけさせてもらった。崩れて怪我などをしないようにだ。





「陛下、これは……?」


 商業、工業組合との折衝を担当する部署の長官が執務室に訪れ尋ねた。


「私がどうあるべきか振り返る原点です」


 フローレアがそう呟くと、しばらく考えこんだ彼は言う。


「なるほどなるほどたいしたものですな」


 いやに感心した様子だ。


「どうかしたのですか?」


「陛下、この石材自体はたいしたものではありません。ですが加工した石材だけで形にしようとしたなら恐ろしく緻密に計算して作らねばなりません。確かに、これを見ると遥か高みを目指すために目の前の一歩に全力で踏み出さねばという気になりますな」


 彼が去った後、なんでもないように出されたものの存在の凄さにフローレアは圧倒されていたのだった。


 


 


 神だなのように石窯が崇められている、改めて思う、いやおかしいだろうと。

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