閑話 LET
夢を見ていた。
最近はあまり見ることのなかった夢だった。
おそらく王国へと赴いたせいだろう。
戦闘職のパーティーが未開地へと赴き魔物を倒して素材を確保しにいく。または採掘師たちの護衛だろうか。
生産職の面々は誰よりも優れた装備や料理に、回復薬や魔法道具を作ろうと張りきっている。活気のある通りを歩くのが楽しかった。
Legendia Era Tales
頭文字をとって略称 は"LET“。
“Let's LET!“のCMが妙に頭に残る、いわゆるVRMMO(仮想現実大規模多人数オンラインゲーム)の一つである。
VR技術の黎明期に発売されたこのゲームにはこのゲームならではの“個性“はなかったものの、堅実な作りとアイテム数の多さや自由度によりそれなりの人気があった。
魔物の発生により、生存圏を奪われた人類に神々が救いの手を差し出したのがプレイヤー、ゲーム内で“真人“という扱いをされる者たちだ。
元々は“神人“いわゆる現人神つまり人の形をとって地上に降臨した神と呼ばれていたが
「我々は神々に遣わされた者であり、神ではない」
という真人の言い分により、困った人類がなんとか形にしたのが“真人“だったのである。
人の手で起こしようもない“奇跡“を成すモノ、人の手では抗えない理不尽なモノを良くも悪くも神の御業と呼ぶならば、真人は彼らにとって神であったが、本人たちに神ではないと言われればそう呼ぶことが非礼ととられかねず、彼らも苦心した結果だった。
ともあれ、そう言う舞台設定であった。
タイトルの通り、伝説の時代(神話の主人公となって)自らの物語を記録せよということだった。
プレイヤーは“アール王国“、“ドール農商国“、“オーズ帝国“、“エール崇神国“の4国から拠点とする国を一つ選んでプレイする。
プレイヤーの内訳は5:2:2:1。
そのころ無宗教者が多かった日本人の性格が色濃く顕れているのか、宗教的なエール崇神国を選んだプレイヤーが少ないのが目立つ。
そして圧倒的なのがアール王国である。最も元々は王国ですらなかったにも関わらず王国が最も人気だったのは一人のキャラクターが異常なまでに作り込まれていたからである。
それがレギウス・ベルス・フォン・アールである。ゲーム開始時はただのレギウスであるが、どう見ても開発者から優遇されており、イベントでも彼のスチルだけが作り込みがおかしいことになっているのだ。
LETの特徴として女性プレイヤーが多かった。別にいわゆる乙女ゲームと呼ばれるようなジャンルだったわけではない。登場キャラクターが乙女ゲーム風だったわけではない。
ただレギウスというキャラクターのみで女性プレイヤーが増えていったのである。^
逸話がある。
イベントでレギウスが頭を下げて頼み込むシーンがあるのだが、あるプレイヤーが、
「西洋風のキャラの土下座似合わなすぎワロタw」
と呟いた。
その瞬間に画面がフリーズしたように凍りついた。
なお、旧式のパソコンで最新のゲームを並列起動したりしなければフリーズという現象は起こることはほとんどなくなっていた。
女性プレイヤーの中にはゲーム内ナンパを嫌って男キャラを使っているものも少なくなかった。上述のプレイヤーとパーティーを組んでいたメンバー全員がパーティーを抜け、彼をフレンドから外した。
それから日が経つにつれ彼は孤立していった。噂が噂を呼び、女性“プレイヤー“は彼を嫌悪し、巻き込まれるのを恐れた男性プレイヤーも彼を遠巻きにした。恐ろしいことにNPCまでもが彼を遠巻きにした。
そして完全に孤立した彼を救ったのがレギウスだった。
「土下座が似合うってことは濫用してるってことだろう?俺は本当に誠意を見せなきゃならないときしか頭を下げる気はないからなぁ。彼が似合わないと言ってくれてホッとしているさ」
この後、王国のために奔走する騎士が現れたとか。
LETは大聖歴の元年から、ゲーム内時間の経過により歴史が進んでいくシステムだった。
それはつまり、後続プレイヤーになるほど参加できないイベントが増えていくということだ。
たいていのゲームがそうだが、LETは古参と新規プレイヤーの溝が深すぎたのだ。
結果として幾度となくサービスの中止が叫ばれ、その度に
「レギウス様を救え!」
の号令の下、多額の課金が行われた。
女性の財布の紐は固いことが多い一方、気に入ったものには貢いでしまうこともまた多い。
結果として文字通り、レギウスが世界を支えていたと言っても過言ではなかった。
そしてそんなLETプレイヤーの一人が銀嶺 菫だった。
時系列的には、「帰還」の話で皆に包まれて眠っているところです。モフモフ。メェテルが【深眠】スキルを使い忘れて、久々にレム睡眠状態になったからです。




