本職とは。
王城内の一室にてフローレア派の文官・武官が集まり会議をしていた。文官のトップは宰相のテュエール、武官のトップは引退後も強い影響力をもっているライデッグだ。
「一月だ。城内の混乱を納め、陛下のお召し物を準備し、国内にお触れを出し、城の一画を整えるこれだけのことをするにはそれなりの時間が必要だ」
テュエールが現状を説明する。
「ふむ……」
各官配下もその場にいたが、主なやり取りはトップの二人を中心に行われていた。
「頼もう!」
そこに空気を読まず突入してきたのは無論ニクスだ。
「何者か!」
ライデッグ含む武官が反応する。
警備の兵士はともかく、彼自身は審問の場にはいなかった。フローレア派故に遠ざけられていたと言ってもよい。
「止せ!この方が真人様だ」
テュエールが制止の声を上げるも動きは止まらず剣が振り下ろされ、ニクスの額から3cm手前で止められていた。
「……なるほどな。流石は“真人“と言うたところか。儂が止めることなどお見通しというわけか。表情一つ変えんかったわ」
そう言って剣を納めるライデッグ。
ーーー危なっ!このじい様ただ者じゃないわ!
ちょっとチビったかも……。
ニクスがそんなことを思っていたとは知るよしもなかった。
「フローレアの即位披露の話だよね?今どうなってるの?」
自身から目を逸らさせようと話を振るニクス。テュエールは諦めたように先ほどの話を繰り返した。
「あーダメダメ。せいぜい10日、10日でやっちゃおう」
「「はぁーーー?」」
その場の一同が声を揃えて疑問の声を上げる。
「いや、だって牧場のこともあるしそんなに時間はかけてらんない。とりあえず通達はどうしても時間がかかるからさっさと準備して」
ニクスはテキパキと指示を出しはじめる。
「真人様、先ほども言いましたように……」
「スタット(あの馬鹿)は幽閉したけど、フローレアの即位に反対の者や野心をもってる輩はきっといる。時間を与えない方がいいんだ」
その言葉に何人かが表情を変える。確かにそうだと思ったからだ。
「さっきまでの会議の内容は外に漏れていた可能性がある。だけど私が来てからは部屋全体に結界を張ってる。声が漏れることはない。うまくいけば裏をかける。……この中に裏切り者がいなければだけど」
一同が憤慨したような顔をする。
「ですが、準備も出来ずにみすぼらしい出来では逆効果になります」
テュエールは冷静に返す。この中に裏切り者などいないと確信しているようで、その姿に他の者たちも冷静になっていく。
「フローレアは私の友達だ。そんなことはさせないさ」
ニクスが笑いながらそう言った。
見た目だけなら子供が胸を張っているようにしか見えないかもしれなかった。
次の瞬間にはその手の中に一着のドレスがある。シンプルな、いわゆるAラインの形状に近いプリンセスドレスで、白と銀の意匠が細かく入っている。
「“銀白の霊衣“と言ってね。[自動サイズ調整]、[汚れ防止]、[損壊防止]、[自動消臭]、[自動寄せ上げ]、[形状補正]、[風悪戯防止]etc……。防御力はないけど服として最高の出来を誇るものさ。何せ、真人をして“究極ジャージ“と言わしめたんだからね」
この場に集う者たちに“ジャージ“の意味を知るよしもないが、なんとなくすごいのは分かったのである。
「良い出来なのはわかります。しかし、陛下の衣装としてはその、地味ではありませんか?」
テュエールの信頼に背を押されたのか、文官の一人が発言する。
「“今の“フローレアにはシンプルで実直な服の方が引き立たせるのさ。華美なドレスじゃフローレアの前じゃ引き立てるどころか逆効果になるんだよ。宝冠とこれで十分だってすぐに分かるさ」
そしてすぐ後に彼らは身をもって知ることになるが、この時は疑心に包まれていたのだ。
「そんなわけだから、武官は各街、村へ通達の準備、文官は城内の規律を取り戻すこと。舞台は私が整える。一応確認はしてもらうから安心しなよ」
ライデッグとテュエールにより指示され、部下たちが動き出した。
そしてトップの二人を連れて中庭に出る。
ここが、お披露目の候補地だが、庭は手入れされておらず壁面は風雨に晒されてボロボロであった。
しかし、ニクスはむしろ喜んでいた。かつて皆で作り上げたものが500年以上の時を経てまだここにある。当時の頃を、仲間たちを思い出した。
石工、石細工師のスキル【洗浄】【修復】によって城壁の一部が元の姿を取り戻す。
それは無骨であった。元々いざという時の備えの城であり、美麗さを追求した城ではなかったのだ。
「おおー!」
にも関わらずテュエールとライデッグからは感嘆の声が漏れる。
ーーー元々この城はこんなに美しかったのかと。
わずか1平方mほどが綺麗になっただけで、逆に周りから浮いていたが、二人は気にした様子もない。
「こんな感じでいいかな?」
トップの二人は声を出すのも忘れてただ首を上下に振ったのであった。
「うし。許可も出たことだし、本気出すかな」
「「 え 」」
ニクスの右目が輝くと、また1平方m分鮮やかさを取り戻したのだった。
先ほどの作業とも言えない作業をニクスは【記録】、錬金術師の唯二のスキルの一つを使っていたのだ。後はもう一つのスキル【再生】を使うだけで世界は塗る変わる。
再びニクスの目が輝いて
2平方m分従来の輝きを取り戻し、
4平方m分、8平方m分16平方m分
と一度に塗り変えられる面積が増えていく。
最早テュエールたちは呆けたように口を開いて見ているだけだった。
「っし、おっしまいっと」
気付けば4面のうちの一面が色鮮やかになっていたのだ。
【再生】もスキルである以上は【記録】可能であった。おおよそ倍々で効率を上げていくことができるのだ。おそらく残りの3面に至っては今かかった時間も必要ないだろう。
「生産こそ私の本職だからね」
(薄い)胸を張ったニクスに二人はその発言が本当だったと気づいたのである。
「感謝することを忘れないようにしていると言われるのも最もな話ですな。真人様とは実に凄まじい」
「ニクス」
「「 は? 」」
唐突につぶやかれた言葉に二人は間抜けな声を上げた。
「だから、私はニクス。真人様って言われるとムズムズする。私なんて下から数えた方が早かったんだから。二人とそんなに変わらないって」
ありえねー。
かろうじて声に出さなかったものの、二人の思いは一致していた。
「さって、残りも片付けて庭いじりでもしよっと」
呆気に取られている二人を残してニクスはその場を後にした。
一日(も経たずに)綺麗になった城に城下・城内を問わず大騒ぎになったのは言うまでもない。様々な憶測が噂となって駆け巡ったのである。
遅くなりまして申し訳ありません。
少し長くなったのでご容赦ください。




