月下のお茶会 フローレア3
「先日、帝国兵士により王国領土内の町が襲われました。町は魔物からの襲撃を想定していたものの、まさか同じ人間から襲撃を受けるとは思っていなかったのでしょう。1000人ほどの兵士を見て即座に投降しました。暴れた町民が怪我を負いましたが被害はそれほど出なかったのは幸いでした」
一旦口を湿したフローレアは、覚悟を決めて話しを続けた。
「彼らは町を占拠、食べ物を徴収しましたが、暴力を奮ったりはしませんでした。そして兵の半分を残して斥候に出たそうです。そして誰も戻って来なかった。町に残っていた兵士も何かが起こったのを感じたのか食料だけを持って帰国したということです。」
どうにも理解しかねる話である。
ニクスが首を傾げて考えている様子を見て微笑んでしまうフローレア。年相応に見えてなんとなく同い年の友達と話している気になったのだ。
「町からの急使によってことの次第を知った上層部は帝国に使いを出し、ことの是非を問い合わせると同時に再度の進攻に備える必要がありました。……そして帝国兵士が引き上げた理由の調査も。」
最後のほうで言いよどんだフローレアにニクスは感づく。
「そうです、その時に見つけたのがニクス様のお屋敷です。兵士の多くが“クラウン・モー“がいたといって蒼白の顔で報告しました。上層部は信じませんでしたがその報告に食いついたのが陛下でした」
ろくなことしないな、とニクスが思っていると、
「あ、あのっ!」
俯いて、人差し指同士をツンツンしているフローレア。
声をかけられて正気に戻ったニクス。
「何?」
「ニクス様のお屋敷に“クラウン・モー“がいるというのは本当なのですか!?」
上目遣い気味にやけに真剣に見つめてくるフローレアを不思議に思いながら、
「“クラウン・モー“はいないよ」
ガックシと明らかに凹みながら
「そうですよね、“クラウン・モー“なんてロストサーガならともかく、今の時代にいるはずが・」
「プラチナ。“プラチナ・クラウン・モー“だ。私の自慢の家族の一員さ!」
ニクスは立ち上がり、被せ気味に、腰に手を当てて自慢げにそう言った。
フローレアはそれを微笑ましく見て
いなかった。
血走ったかのように真剣にニクスを見て、ニクスの肩に手を置きながら
「“初代様“が日記の中で絶賛しておられた“クラウン・モー“のモーミル、やっぱり美味しいのでしょうか!?」
もうちょっと近づいたらキスしてしまいそうな距離で訴えるフローレア。自分のことはさておき、綺麗だな、あ、目元はレギウスの面影があるなどと考えていた。
この娘、レギウスのファンなの?日記見られてレギウス涙目なんて少し現実逃避がちなニクスを揺するフローレア。
「そういえばレギウスは“コレ“好きだったな。飲んでみる?」
ニクスの手には別のポットがあり、新しいマグが二つ置かれていた。
それぞれのマグに注ぎ、
両方を
フローレアに差し出す。
「レギウスは冷たい方が好みだったけど、私はぬくめの方が断然美味しいと思う。フローレアはどっちがいいとおもう?あっと。」
両方のマグから一口飲む。異次元倉庫に入っていたので大丈夫だとは思うが念のためだ。フローレアは毒が入っていないと証明したのだと思ったが。
なにげに答えづらいことを言われてちょっと困ったが、貴重な機会だ。逃す理由はないとんくんくと飲んだ。
「!すごい滑らかです。まったりとコクがあってそれでいてしつこくない。“初代様“の言うとおりですね。温かいほうは独特の甘味が増して心がホッとします。」
レギウス、何言ってやがったんだよ。どこかの食レポみたいこと言いやがって。そして、逃げたな。ここでどっちの方がおいしかった?と言うほどニクスの性格は悪くはなかった。
女性のお喋りは長い、唯一見守っていた月もそう思っていたかもしれない。




