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オリジナルレシピ

 暴れたりするなよと敢えて見せている兵士、いざという時のために王の守りとして控えている兵士36人が武器を構えさせられた。


 それははっきりと異常事態だった。大人しく立っているだけに見える、10代の、下手をすれば10代前半の女性に圧されることが。


 しかし、戦うことに身を置いた者の本能が

隠れていなければならない兵士達にまで剣を抜かせていた。


 彼らは周囲を目だけを動かして抜剣してしまったのが自分だけではないと、確認して安心してしまったほどだ。


 だが、彼らですらそうだったのだ。非戦闘員はどうだったか。


 スタットはヒィッと短い悲鳴をあげて後退ろうとするが、無駄に大きな椅子はびくともせずに彼を支えていた。


 宰相は流石はそれだけの地位にあるということか、冷や汗を垂らす程度で済ませている。法務長官も戦場ではないにせよ修羅場をくぐっているのだろう、努めて表情に出さないようにしている。


 そして見上げる格好になっているため、ニクスは気付いてなかったが、正面の三席の後ろにもう一人人がいた。いわゆるメイド服を着た女性でこの場においては違和感だらけだ。


 審問の間に侍女がいることは部屋を整えたりするのだと思えばおかしくはないかもしれないが、審問の場に立っていることは有り得ないからだ。


 ニクスはあの馬鹿な王がこの場でも盛っていたのかと思ったが、どうもそのような様子はない。


 ただ彼女は席も用意されず立たされていながら、ニクスの殺気に晒されてもよろめいたりしなかった。

 表情を青くしながらも確かに冷静に様子を見ていた。


 その特異な光景がニクスの頭を冷やした。


「貴方が役立てる日が来るとは思えないけど、一つ忠告してあげるわ。政治家、いえ人の上に立つものなら自分の話す言葉には気をつけることね。一文字違いは大違いよ。私の家族かぞく家畜かちくなんて、少なくとも貴方に言われる筋合いはないのだから」


 暴言を吐いて記者会見の場で謝る政治家を思い出しながら、情けなくひっくり反っているスタットを睨みつけて言うと再び悲鳴が議場に木霊した。


「その女を捕まえろ!ぼ、僕への不敬罪だ」


 余裕がないからか自分のことを僕と言いはじめたスタットはなんとか腰をあげながら命令をする。自分の威厳を取り繕うように。


 とまれ、自身の剣を掲げる相手が情けなかろうが、命令をされれば動かなければならないのが兵士達である。


 目の前の相手を小鳥とでも思っているのか、どこか下卑た目で見ているスタットとは裏腹に兵士達の歩みは最大限の警戒を見せていた。


 「どうした!小娘一人に何をしているっ?」


 “その小娘一人に醜態を晒していたのはだれだよ“と言うのは兵士達の多くの共通した思いだっただろう。


 3m程の間を置いてニクスを取り囲んだ兵士達。 

  ニクスは逆に兵士達を憐れんですらいた。


「私は錬金術師、その本分は生産にある。戦闘は苦手だし、何より非生産的で望むところではない。」


 その言葉に降伏するのかと、兵士達は一瞬気を緩め、その後に疑問を覚える。


 ーーーでは自分達はなぜこれほど警戒させられているのかと。


「故に私に害意を向けるなら、容赦なく躊躇なく手加減なく終わらせることになるが、良いかしら?」


 ニヤリ、とニクスの口角が上がった。


 兵士の一人が飛び出す。まだ若いが、後のことを考えて今から鍛えておこうと兵隊長が思っていた青年だ。


 本来、審問の場の警備とは形だけのものだ。周囲から見下ろされるあの場に立っただけで恐れを抱き、恐縮してしまうだからだ。


 少しずつ経験を積ませておこうという配慮はこの際、逆に働いたと言わざるを得ない。


 強烈な威圧感を浴びせられて耐え切れずに飛び出してしまった。


「よせ!ジュヴェニ!!」


 隊長の声も視野狭窄に陥った若い兵士には届かない。


 一方のニクスは、胸の前で手を合わせ、2度打ち鳴らして頭を下げる。


 ニクスを取り巻く空気自体に静謐さを感じたか、誰もが自然と目を釘付けにしてしまい、手の鳴った音でハッとする。


 わずか1秒たらずではあるが、完全に無防備、何より視界を断つこと自体、戦場においては素人以下だ。


 挑発ととったか、油断ととったかはわからないが、ジュヴェニの手は振り下ろされた。




「【錬金術オリジナルレシピ】“No18  夢刀盗り“」


 静かな声が議場の空気に溶けた。

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