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審問

「お勘定はお城から頂いておりますので…」


 なんとかそれだけを言いきった宿屋の女将は息を呑む。


 どこぞのお姫様がお忍びで来たのだろうか?服が若干貴族らしからぬが、仕立ては上等だ。


 これでも数十年宿を営んできて、一度見たお客さんを数年の内は覚えていられる自信と自負はある。

しかし昨日泊まった娘と同じとは思えなかったのだ。


 城から迎えに寄越された馬車の兵士やら門番やら、会う人達が皆口を半開きにして固まるので、いちいち声をかけて正気に戻す作業が必要で、途中からニクスの瞳からハイライトが消えていた。


 メェテル、気合い入れすぎ。目立ちすぎ。やり過ぎ。


 なんとか案内役の兵士についていく。城の中は基本的には変わっていない。


 ーーー飾られている装飾品が金をかけましたという感じで趣味が悪くなっているだけで。


 コンコン。

「ヴィオレータ嬢をお連れしました。」


 そう言うと重厚な扉が鈍い音を立てて内側に開いていく。



ーーー36人。

 表に立っている兵士12人、姿は見せていないがいつでも動けるように待機しているのが24人。ニクスは軽く目だけを動かすと戦闘員を探知した。


 兵士に続いて中に足を進める。入口側を除く全方位にニクスが立っている場所より一段高くなっており、正面に至っては更に2段高い。全方位から見下ろされるという威圧感に、召喚されたものは思わず日和ってしまう、そういう効果を含んでもいるが今回に限っては発揮されていなかった。

 

 ほう、と息を呑むものが殆ど、圧倒されたのはむしろ見下ろす側だったのだから。


 ニクスが狙ってやったわけではもちろんないが、先日訪れた際にその風体は門番から王国上層部へと伝えられている。


ーーーしょせん田舎娘か、どうにでもなる。


 そう考えていた者たちが殆どだったにも関わらず、控えめな服装を抜きにすれば一国の姫と言われてもおかしくない格好で現れたのだから。


「ヴィオレータ・ヴェルテニクス殿で相違ないか?」


 正面に座る三人の内の一人、数少ないニクスの容姿に呑まれなかった、もとい呑まれたが直ちに正気に戻った者が声をかける。


 主導権を取り戻すために。


「確かにそう伝えました。なにせ、呼出しの手紙には宛名が記載されておりませんでしたので。」


 牧場に届けられた手紙には名前が書かれていなかったのである。


 鈴がなるような美声とは裏腹に皮肉を告げる。


 ーーー名前も知らずによくもまぁ偉そうに言ったものね。


 翻訳すればそんなところだ。


「…王国において家名を名乗ってよいのは許された貴族だけである。ヴェルテニクスの名を許した事実はなく、勝手に詐称することは重罪に当たるが、釈明はあるかね?」


 “罪“を押しつけられて平気でいられる者はいない。ニクスが知るよしもないが、さきほどから応対している男、宰相テュエールはなんとか場を支配すべく必死であり、ニクスはそこに焦りを見てとる。


「はぁ、私の国では家名は誰にでもあるものでしたので。だって困るでしょう?手紙を出したのに同じ名前の人が何人もいて判別がつかないと」


 ニクスは状況を理解していないそこらの娘のように応えた。


ーーーそれは余りにも異常だったが。


「なるほど、一理ある、が王国の中においては法に背く行為に他ならない。続いて、届け出なく王国の領土を私有化している件について、言いたいことはあるかね?」


 淡々と、反論を許さずにことを進めて行こうとする宰相。


「王国の領土とは?」


 わずかに鋭い口調で尋ねるニクス。


「むろんヴェスト聖河せいが、スーズ聖河に囲まれている場所にあたります。」


 大陸の中央、魔物が寄り付かないことから大聖山だいせいざんと呼ばれ、かつては人類の唯一の生存圏だった。その山からは四方に向かい河が流れている。北に向かうのをノルズ聖河、南に向かうのをスーズ聖河、東に向かうのをアウスト聖河、西に向かうのをヴェスト聖河と呼ばれている。


 それを聞いてニクスの表情が初めて歪む。


「そしてこれまで、税を払っていなかったことも重罪になります」


 畳みかけるように言葉を続ける宰相。


 そこで、これまで一言も発していなかった、正面に座る三人の内の一人が声を上げた。

 

「それだけ罪を重ねては今後まともな人生は歩めまい。しかしそなたは幸運だぞ。卑しき身とあって正妃とはいかぬが、 妾にしてやろう。田舎娘だと聞いていたがなかなかではないかよもや余、スタット・グランツ・フォン・アールの目に止まろうとわざと罪を犯したのではあるまいな。ハッハッハ」


 元々の容姿はそれなりに整っているのだろう。が、怠惰に暮らし、快楽と享楽に身をおいてきたのか、体つきは弛み気味で意地の悪さが表情に浮かび上がっている。


 うええ、気持ち悪っとニクスは声にならないよう気を張らねばならなかった。実のところ宰相も頭を抱えていた。


「聞いたところ、何でも変わった家畜ペットを飼っておるというではないか。 妾にしてやるのだ、その家畜共を余に献上するがよい。それで帝国を追い返すどころか、初めての四国統一も夢ではn」


 スタットの発言を遮るように議場を殺気が埋め尽くした。


 


 今回は後で修正入れるかも知れません。

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