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牧場のお姫様

「急に【転移】するのはやめてくださいね。野良着で出かけてしまって、追いかけようにも牧場を任された以上追いかけるわけにもいかずどれだけ困ったことか」


 小言をくどくどと言いながら、メェテルの手は止まることなく動いている。対比的に動くことを許されていないのはニクスだ。マネキンよろしく、メェテルの着せ替え人形にされていた。


「ニ・ク・ス・さ・ま?聞いておられますか?城に出る以上、王族に見られる可能性もあるんですからちゃんと着飾っていってください」


 あれ?メェテルってそういうのを重視するタイプだっけ?とニクスが首を傾げるのをメェテルが頭を抱えて押さえる。


「動かないでくださいね。ふふふ、王族だかなんだか知りませんが、ニクス様の方が上だとどんな阿呆でもわかるように仕立てあげてみせましょう」


 ああ、やっぱりそうだよねぇ。逆らっても無駄だと悟ったニクスはメェテルのさせたいようにすることにした。


 

 家に泣き帰った翌日、珍しくメェテルに起こされたニクスは寝ぼけ眼でねぐせ髪、ポーっとしているところをひん剥かれて風呂へと投げ込まれた。まだ明るくなったばかりで、メェテルはいつから起きていたのか。

 全身を隈なく洗われ、頭部は指の腹でマッサージされつつ髪を丁寧に洗われ、濯がれる。


 「ニクス様、少し駄肉がついてきましたね」


 とっておきの爆弾発言が落とされる。


「なっ!なんてことを言うかな?」


 動揺は確実に。口調が少しおかしくなっていた。


「ですがほら」


 ムニリ、とお腹のお肉を摘む、摘める。


「これはお約束どおり、帰ってきたら全身マッサージ(の刑)ですね」


 表情があっという間に青くなるニクス。


「ええと、王都にいる間に痩せるんじゃないカナ?」


 メェテルの凍てついた眼差しはまるで信じていなかった。



 

 メェテルはタオルで水気をとりつつ、頭皮をマッサージする。熱よりも風の勢いを重視してさらに魔法で髪を乾かしていく。このあたり、ニクスはてきとうに熱風で乾かしてしまうのをメェテルはいつも気に病んでいた。メェテルが使えるのは“執事魔法“とかいうもので生活環境に関する魔法しか使えないらしい。


 そして乾ききったところで、目の細かい櫛で髪を梳く。ニクスのサラサラの毛を梳くのはメェテル自身も好きで、ニクスもなんだかんだでくすぐったいながら黙って受け入れているのだから、嫌いではないのだろう。


 そして冒頭のお着替えタイムに入ったのだが、あーでもない、こーでもないと1時間、2時間。ようやく完成したのである。


 白のブラウスに、瞳の色に合わせた淡いスミレ色のハイウエストスカート(こちらの世界では肌を露出させるのはまだ受け入れられていないので膝下の長さ)、そして赤い色のリボンタイを結んで完成だ。


 あれ、なんか新婚みたいじゃない?あれ?でもそれだと私が夫のほうなの?とニクスは余計なことを考えていたが、手がかかるニクスの面倒をみているメェテルが精一杯である。


 ニクスをみて誇らしげに頷いているメェテルだが、ニクスは化粧をしないということが落ち着かない。


 「ニクス様には必要ありませんよ。そのままが1番綺麗です」


 と言われてメェテルの自信満ちあふれる表情に肩を押されてなんとか受け入れる。


「それではいってらっしゃいませニクス様。お早いお戻りをお待ちしております」


 さすがは執事、美しい礼に見とれながら、


「いってきます」


 と微笑むと再びその姿は王都の宿屋の一室にある。


ーーーコンコン。


「ヴィオレータ様、お、お城からの迎えの方がみえていらっしゃいます」


 僅かに緊張を含む声がかけられる。


「はい、今行きます」


 凄いタイミングピッタリなんだけど偶然だよね?ニクスはそう思い込みながらドアを開けた。

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