王都
勘違いしていました。
杣人→仙人へと変更。
木こりが隠身なんてできるか!あ、でも山に入っての作業とかだったら出来てもおかしくないのかも?
開いた目に写ったのは薄暗い路地裏の袋小路。少しかび臭いのは光が当たりづらいからか。
正直あまり気持ちの良い場所ではなかったが、【転移】できるのは強くイメージできるところでーーー少なくとも一度は行ったことがある必要性があるわけだーーー善し悪しを抜かせば確かにイメージはしっかりしている。
【転移】による酔いに少々表情を固くしながら表通りへと向かう。
道は隅々まで石畳で覆われており、新宿駅を知っていればたいしたことはないにせよ、日頃魔物込みで指の数で足りるだけの生き物しかいない辺境で暮らしているニクスには十分に多い人の数に再度酔う。
「大丈夫かい?どこかの村から出てきたんだろう?王都は人が多いからね、初めて来る人間は大抵そうなるのさ」
ニクスの様子を偶然見た、恰幅のよいおばs…お姉さんがそう言ってくる。
「なんだったらうちの店でちょっと休んでくかい?」
心配気にそう続けてくるのを断る。
「ちょっと驚いただけですからもう大丈夫です。」
城へと歩みを再開する。確かに都は辺境より町並みが整っている。
人類は衰退していました。
ニクスが抱いたのはそんな思いだった。
かつての町並みをかろうじて保とうとしているのだろう。石畳は表は綺麗に並べているが、裏の道まではほったらかし、むしろ割れたりしたものは裏のものと取り替えているのかもしれない。
道を行き来する人の量は少なく、活気もない。どこか空気が淀んでいるような気がした。
チラチラと伺う視線が気になり、仙人のスキル【隠身】と狩人のスキル【忍び足】を使う。ニクスの存在感が周囲の空気に拡散し、薄れる。
ニクスを探そうとしているものでもなければ視界に入っていても意識出来ない。
自分自身が世界にいなくなったような感覚。自分は記憶の中の王都を歩いていて現実は逆に夢のような不安定さ・遠さを感じさせるのは過去の思い出の方がニクスにとっては輝かしいからだ。
城門の前でスキルを解除する。突然現れた美少女に門番の兵士がギョッとする。絶対に見逃すような存在ではなかったにも関わらず直前まで気づけなかったからだ。
二人の兵士のうち、一人はニクスに警戒を見せ、一人は口を半開きにして固まっていた。
「お嬢さん、お城に何かご用ですか?」
警戒していた方の兵士がそう尋ねる。
ニクスがエプロンのポケットに手を入れてーーーいつもの格好のままだったーーー封筒を見せる。
困惑する二人の兵士。
「おい、いつまで呆けてる!中に入って確認してこい」
警戒していた方の兵士が、ボケッとしていた方の兵士のお尻を蹴り飛ばして正気に戻させていた。
「失礼ですが、この手紙を届けたやつはどうしました?」
普通、召喚状を送って来てくださいねーで終わるわけがない。おとなしくついて来ればよし。暴れれば拘束して連行するものなのだ。いずれにせよ向かわせた兵士と馬車に乗って来るのが普通だ。しかも送ってから来るまでの時間が早すぎる。
「はぁ、手紙を落として逃げるように帰ってしまいましたけど?」
対応する兵士の眉間にしわが寄る。
ニクスからすれば兵士たちとチンタラ移動など真っ平なのでちょうどよかったが。
そこでパシリにされていた兵士が戻ってきた。
二人はしばらく小声で話す。
「ヴィオレータ殿。申し訳ないがこちらの不手際で準備がまだできていない。明日の朝改めて来て欲しいのだが、こちらの都合で迷惑をかけるのだ。宿の方はこちらのほうで用意させていただく。」
無論そのまま受けとることは出来ない。彼らの監視下でいてくれということだ。
ニクスは頷いて言われた宿に向かった。
兵士A「さっきの娘、スゲーかわいかったすね!」
兵士B「…外見で油断させてガブリといく類じゃなきゃいいがな」
兵士A「肉食の娘ってことっすか?自分嫌いじゃないっすよ」
兵士B「お前、人生楽しそうだな、うらやましいよ」
兵士A「……?」