仕度
うわー、これアカンやつや。
王国から届けられた封筒の中身を見てニクスはそう思った。
召喚状。
王国にとって不利益な行動をとったもの、王国の法規を破ったと思われるものに対し審問と称して呼びだしをかけるもの。
今回については王国に届け出なくこの地に在住していること、及びそれにも関わらず納税されていないことについてだ。
要するに、苦労して?ニクスが開拓した土地を、あるいはその土地から上がる利益を掠めとろうということに他ならない。
こんなものをメェテルに見られたら激怒するのは目に見えていた。
ゴールデン・ディープ・スリープ・シープという種族のメェテルは牧場の中では戦力が低い方だが、それでも十分王国を崩しうる。
ちなみに魔物の強さを示す要素として、“種族“と“格“がある。“種族“はその魔物の種類と位階、“格“とはその魔物の個別の強さを表す。魔物にもレベルがあり、20レベルごとに急激な成長をするのだ。レベル21と20ではそれほどの差は見られないが、20と19の間には隔絶の開きがあるのだ。
よって20レベル毎に格付けを改めるのだ。
20で“アイアン“、40で“シルバー“、60で“ゴールド“80で“プラチナ“、99で“ミスリル“だ。
但しミスリルの格を得るのは最終進化先だけだ。それまでは進化する。因みにぎゅ~ころのことをミスリルと伝えていたが、実はまだプラチナである。
兵士から王国に話が行くことは間違いないだろうということで、ちゃっかり盛ったニクスであった。
「王都にはもう一度行く必要があったからいいんだけど、どうやって行くかな?」
召喚された内容については気にも止めていない。
「タキタテに乗っけてって貰う?」
口元に指を当てて考え込むニクス。
王都までの距離はよく覚えていないものの、タキタテなら2日はかからないだろう。
舗装なんてされていない辺境の地である。馬車だったら5日ほどかかるかも?そんな風に考えていたニクスだったが、実際のところ、タキタテが全力を出せたら2時間で着く。ニクスを乗せても半日もかからない。
時速120kmで半日走りつづけることができるのは過去に経験済みである。どれだけ走り続けられるか試してみたタキタテは半日で飽きてしまった。
だから限界は未だもって不明。
虎系の中でも上位の魔物は尋常ではなかったのである。
また、虎系とは裏腹に長毛の特徴を持ち、しんなりとした柔らかいタイプで、極上の絨毯よりも触り心地が良い。
それでいて綺麗好きなのか、いつ会ってもゴワついていることがない。要するに座るのにも問題がない。
タキタテはニクスを乗せるためにいつでも自身を整えるのに余念がない。
「やっぱり【転移】で行こ。タキタテの姿を見られたらめんどくさいことになりそうだし、さすがにお尻が痛くなるだろうし」
こうして、本人の知らない内にニクスと一緒にお散歩の権利を失っていたタキタテ、憐れ。
「パパっと行ってさっさと終わらせよっとい。そういうわけだから、メェテル、任せるわ」
一緒に行きますと
言われる前に先手を打っておくのであった。
ニクスに頼まれればメェテルは断ることが出来ないのだ。
「メェテルにしか任せられないからね」
ウインクしつつそう言えば、
「ニクス様、ズルイです……」
そんな声が帰ってきた。