予期せぬ知らせ。
ニクスの牧場の広さは100ヘクタール(1,000,000平方m)。北海道のぎゅ~ころ、こっこさん仮にタキタテとメェテルを数に含めたとしても広すぎる。
これはニクスがどれだけの広さが必要かわからなかったことが一つ、皆が自由に走り回れるようにという愛情が一つ理由としてあった。
閑話休題、屋敷や獣舎から敷地の外まで数百mあるわけだが、タキタテの唸り声が響いてから数秒後にはその姿が見え、更に20秒程後にはニクスの元に馳せていた。
ーーーナニカをくわえながら。
ニクスの姿を見るや、興味をなくしたようにぺいっと投げ捨て、ニクスを見下ろして(本当は上目遣いをしたいのに、身体の大きさから不可能)目を輝かせながら何かを待っている。
「た、食べちゃダメ!」
ニクスの口から出たのはそんな言葉で。
タキタテが一旦大きく口を開けた後、耳をぺたん、しっぽをしゅんとさせた。図体はデカイくせにそんな風にすると、妙に胸がしめつけられニクスも戸惑う。
本当は怪我一つさせずに捕縛して(甘噛み)来たことを褒めてほしかったのだが、タキタテ、不憫な子。
放り出されたものは地面に当たり、金属音を立てる。
それは鎧を着込んだ兵士であった。
鎧はヨダレがキラリと光っていたが。
とまれ、青年男性を鎧の上から噛み付ける存在である。ニクスの反応も無理はない。
そんな騒々しさに畑を回っていたぎゅ~ころ達も集まって来る。
ブモゥ?天然なぎゅ~ころは転がっているものには目もくれずニクスに顔を擦り寄せる。
鎧に刻まれている模様はニクスも
よく知っていた。
ーーーアール王国。
何を隠そう、ニクスの牧場もギリギリ王国方面にある。
この世界には四つの国がある。
大陸の中央、大聖山から流れる四流で分断され、南西がアール王国、南東にドール農商国、北西にオーズ帝国、北東にエール崇神国である。
ニクスの牧場は王国内だが、帝国方面との国境付近に位置していた。
国境は川で、守備隊などはいない。
なぜなら,各国は自国の領土と言いながらも、その多くの地を開拓出来ていないからだ。
魔物の蔓延る地をそのままにしており、どの国も主要都市を含む3つの都市といくつかの村で構成されており、小さな生存圏の中で日々を過ごしていたのだ。
ニクスはそんな未開の地に、未開の地だからこそその地に住まうことを決めた。
【属性魔法(風):ウインドカッター】を地表すれすれに放ち、下草を刈り、【属性魔法(土):グラウンドマニュピレーター】で掘を作り、その土を積み上げて壁にした。後に景観が悪いという理由で取っ払われることになるが、ともかく牧場の下地が作られたのだ。
しばらくして目を覚ました兵士は、顔を上げると、表情を一気に青くして、尻餅をついた状態で5mほど後退した。
ニクスは器用なものだ、などとのんきに見ていたが。
指差す兵士にニクスは少しムッとする。
「なんだいなんだい、人に向かって指を指すもんじゃないって習わなかったのかい?」
そう言おうとしたところで、
「そそそ、それ、ままままさか“クラウン・モー“!?」
どうやら傍にいたぎゅ~ころを指していたらしい。
「“クラウン・モー“のわけがないだろう」
応えるニクスは少し機嫌を損ねていたが、怯える兵士にはそれを感じる余裕はない。
「そ、そうだよな。“クラウン・モー“なんて災厄級の魔物がいるわけないよな」
兵士の表情にわずかに安堵の色が宿る。
だが、兵士は完全にニクスの言葉を勘違いしていた。
腰に手を当てたニクスは言い聞かせるように、
「ミスリル!」
端的に言い放った言葉に、
「へ?」
兵士はついていけない。
「“ミスリル・クラウン・モー“だ。うちの(牧場)の子たちを馬鹿にしているのかい?」
兵士はクラウン・モーという脅威がいるはずがないと思いこみ、ニクスはただのクラウン・モーなわけがないじゃないか、というすれ違い。
「ひ、ひぃっ」
臆面もなく逃げ出した兵士が、真っ先に目に入ったぎゅ~ころに意識を奪われ、そのほかにもコッカトリスなどがいたことに気付かなかったのは運が良かったのかもしれない。
プリプリと怒るニクスを楽しそうに見ていたメェテルが、自分の役割を果たさないとと正気に戻り、
「ニクス様、先ほどの兵士が落として行きましたよ」
そう言って渡して来たのは封筒で、
王家の封蝋で閉じられていたのだった。
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