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牧場の錬金術師 ~地雷職を極めた私はゲームだった世界に無双転生~  作者: 夢辺 流離
プロローグ ~ 怠惰なる牧場の一日 家族紹介~
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1日の始まりはプニプニから


 そろそろ「日が高い」と言っても差し支えない時刻にも関わらず、高らかと寝息をたてる存在がいた。


 はねのけた掛布を抱きしめながら、この世の何よりも幸せそうにニヘラっと笑っている。服の裾がめくれて形のよいおへそがチラリと見てとれる。


「起きなさい。ほれ、とっとと。」


 そう言って顔をグイグイと両手で揺するもいっこうに起きる気配がない。


「えへへ、プニプニ~。」


 むしろ気持ちよさげに表情が緩むのを見れば、起こす側からすればはらただしい限りである。


「そっちがその気ならこちらにも考えがあるわよ?」


 言うや否や小さな手を顔に、ーーー正確に言うならば鼻と口にーーー押し当てた。


「んー、んんー!?」


 わずかな時間をおいて顔が真っ赤に染まっていき、じたばたと手足を振り回し始めたところでようやく手を離した。


 ゴホッゴホッと咳込む音が響くのを、加害者は落ち着き払って見下ろしていた。


「…朝っぱらから何てことしてくれるのよ、ジーニャ!そのまま起きられなくなるところだったわよ」


 さすがに窒息させられかけた身とあって、怒気を漂わせる姿に寝ぼけた雰囲気はない。


 しかし相手はまるで気にする様子もなく、

はぁ~と溜め息をついて、


「それなら心配ないわ。朝っぱらなんてとっくに終わってるもの。もう昼っぱらのほうが近いから。ん?昼っぱらって何?まぁいいわ、ともかくこんな日が高くまで眠ってる牧場主なんて貴方くらいよ、ニクス」


 ジーニャと呼ばれた相手が答える。


「別にいいじゃない。どこかに卸してるってわけでもないんだし。自分たちが食べていられる分だけ採れればいいわ。それでなくとも採れすぎた分が余りがちなのよ?まぁ異次元倉庫があるからいつでも採れたての新鮮なままで保存しておけるんだけど…。」


 最早ジーニャのことも忘れて一人ごちるニクス、よほど思うところがあるらしい。


「向こうに居た頃も一年中手にとることが出来るようになって、『旬』なんて概念は大分日常から消えてしまっていたけど。こちらの世界でも不都合がなくなるなんてね。

いや、でも流石に1年前のものも、今年採れたものも同じ鮮度ってのは逆に不自然な気がするわね。」


 タンっと音がして身体からわずかに重みが消える。トテトテと小刻みに歩く気配が伝わり、もう一度タンっと音がすると、続いてシャーっと軽快な音がしてカーテンが開かれた。


 ジーニャの言うように、高く上がった太陽からの光が差し込んで、部屋の中を照らし出した。


 思わず手を挙げて日光を遮ったが、生地の厚いカーテンによって薄暗かった部屋とその主は色を取り戻した。


 整った、小ぶりな顔立ち。手の陰から眩し気に閉ざされたまぶたが上げられると、わずかに吊り上がった目は純度が高く濃い、それでいて透き通るようなすみれ色。日の光を照り返した、山頂の雪の王冠のような白が強めのプラチナブロンドの髪。突然の明るさに微かに歪めた唇は小さい。かわいいから綺麗の羽化の最中の少女であった。


 少し着崩れたパジャマからのぞく鎖骨は、幼さの中に微かに色気が滲み出ている。


「それに私、お腹が空いたわ」


 振り返ったジーニャがドヤ顔でそう言った。


 寝坊した手前強く出られなかったため、 ジーニャの言葉にそっちが本音でしょうが!とニクスは心の中で毒づく。


「お腹が空いたんなら、ネズミでも捕まえて食べればいいじゃない。チーズも保管しているし、退治してくれないと困るんだから」


 せめてもの抵抗をみせて言い返すニクス。そもそも牧場で飼われるねこはネズミ退治の役目を課されるのが殆どなのだ。


「嫌よ、ニクスの作るご飯の方が美味しいもの。それに貴方、会ったばかりの頃、ネズミを捕まえた私を見て嫌そうな顔したでしょ、覚えてるのよ。だいたい私は使い魔よ、そこらのねことは違うんだから」


 プイッと顔を背けるジーニャ。


 もちろん、ニクスは重々承知している。ジーニャを使い魔にしたのは彼女なのだから。


 ーーー小さかった頃はあんなにかわいかったのになぁ。


「今何か失礼なこと考えなかった?」


 ジーニャが瞳孔を細めてニクスを睨みつける。心を読んだかのようなジーニャの仕種に、ニクスは高速で首を振る。もちろん、横にだ。


「まぁいいわ。さっさとご飯にしてよね」


 そう言ったジーニャはニクスの横まで来ると、背を反らすように伸びをして、欠伸をしながらゴロンと横になる。丸くなった身体を沿う、しっぽを枕がわりに眠る。


 今までニクスが横になっていたベッドは暖かい。とても気持ちの良さそうなジーニャを恨みがましく見る。二度寝したい気持ちに駆られるが、確かにもういい時間なのも間違いない。


 渋々と、ベッドからそっと出たニクスは着替え始めるのだった。


 

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