悪化する事態、そして異世界へ
俺、和田満がネットの情報に騙された、と理解した後の行動は迅速だった。
何日も何日も、体の奥底から尽きることなく溢れだす感情――怒りをエネルギーとし、怒りに身を任せ、自分の見たサイトのURLを某ネット掲示板に貼り付け、「ここにいる奴らに従ったら、親の信頼とプライドずたずたにされたった」というスレを立てて、毎日毎日罵り続けた。
結果、「必死すぎワロタwwwwwww」「ネットに書いてある情報なんて基本嘘www」「こんなのに騙されるとかww」「逆切れ乙」などと逆に罵られた。
そのコメントに反撃しているとだんだん、「どうせブタ顔」「どうせキモ顔だからお前が女性に興味をもつまいとしたところで意味ない」などと言われるように……
そしてその後、俺はどうしたか?
もちろん、顔を晒した。
結果、「キモ!」「予想通りwwwwww」「所詮その程度wwwwww」等々......
悔しかった。嘘だろうとは思っていた。でも、少しでも希望が有るのならと30まで童貞を貫いた。
結果は最悪。恥ずかしかった。嘘の情報に踊らされた自分が情けないと思った。
何処で間違えたんだろう?偽の情報に騙され、女性と関わらなかった一年間?いや、もっと前からだ。
高校初日、自己紹介で調子に乗りすぎていじめられ、不登校になった時?違う。なら何時からなんだ?
分からない。
いや、分かっている。
憎たらしい事に、俺の頭は理解しているのだ。
ただ、信じたくないだけ。
・・
それを信じたくないだけ。
そう、俺がこの世界に生まれてきたこと自体が間違いだったと言う事実を信じたくないだけなのだ。
そして、ふと呟く。
「あぁー、異世界行って魔王討伐とかして英雄になりてぇなぁ」
『その想いに偽りは無いかの?』
「…っ!!誰だっ!」
突然、声が直接脳内に入り込んできた。
その声は明らかに幼女のものだった。にもかかわらず、その口調は老人を連想させるものだった。
なんの前触れもなかった。いや、強いて言えば満がプレイしていたRPGゲームの画面が一面砂嵐状態となっていたぐらいか。元々古いゲームだから不思議には思わなかったが。
『もう一度問う。その思いに偽りは無いかの?』
「だ、誰だ……?」
『人の名を聞くときは自分から名乗るものじゃろう?』
「し、知らないのか?」
『当たり前じゃ』
当たり前なのか?まぁ、この際どうでもいい。取り敢えず要件を聞くか。といっても、俺の呟きに対して返してきたからそっち関連の要件ですか。……って、マジすか!ついにきちゃった?この時が?俺が英雄になっちゃう時がきちゃったの?
「俺は和田満だ」
『そうか。もう一度問う。その思いに偽りは無いかの?』
「名乗らないんかいッ‼」
恐ろしいは、この子…!末恐ろしいはホント。名前知りたきゃ名乗れって言ったやん……
『もう一度問う。その思いに偽りは無いかの!?』
幼女は語気を強めそう言った。これが最後だ、と言いたいのだろう。
「わ、分かった。答える。その思いに偽りは無い。」
俺は焦り、咄嗟に答えた。
『そうか、良いことを聞いた。顔は見えんが、自分で魔王討伐を望むからにはそちらで強大な力を持て余しているのだろう』
「へ?えっ、㋽!?」
なんかすごい期待されてない?ワイ。焦って環境依存文字喋っちゃったよ。
『我が求むるは転移の恩恵、彼の者を我らの世界に招きたまえ……ベニフィット・オブ・ザー・メタスタシス!』
顔の見えない幼女がそう唱えた瞬間、俺の意識は暗闇に落ちて行った…………




