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東方転生鬼  作者: チルル
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第四話

 騒ぎがあった場所に駆けつけてみると、都の人々が一人の少女に石礫を投げつけて罵倒していた。


 「この化け物が!」

 「とっとと都から出て行け、妖怪め!」

 「人殺し!」


 そんな罵声と石礫を受けている少女は十一、二歳ぐらいの年齢で、みすぼらしい着物に身を包み、真っ白な長髪の切れ目から覗く燃え盛る炎のように赤い眼でジッと周りを睨みつけている。

 そして何よりも目を引いたのは少女には傷がないということだ。いや、石礫が当たり、傷ができた端から治っていく。


 「あいつはなんで攻撃されているんだ?」

 「……彼女は藤原妹紅。彼女の父親、藤原不比等はかぐや姫に求婚をし、蓬莱の玉の枝を持ってくるように言われました。不比等は偽物を職人に作ってもらい、それをかぐや姫に献上したのです。

 しかしかぐや姫はそれが偽物であると直ぐに見抜き、求婚を断りました。逆上した不比等はその場で暴れ出してあるものを盗んだのです」

 「あるもの?」

 「……それは天皇陛下に渡す筈だった薬、蓬莱の薬です。それを盗み出した不比等は前々から虐待していた娘の妹紅に飲ませたのです。薬を飲んだ妹紅は苦しみのたうち回り、その拍子に偶然にも囲炉裏の火が家に燃え移り、そのまま屋敷は全焼し、不比等は焼死しました。

 彼女も全身黒こげの状態で発見されたのですが、あの通り傷は跡形もなく元通りになって、薬の副作用かなにかで黒かった髪は真っ白に瞳は真っ赤になったのです。

 彼らはそんな彼女を化け物だと言い、追い出そうとしているのです」


 ……おかしいな。確か妹紅が薬を飲んだのは輝夜が帰った後だったはずだ。俺の知っている東方の世界観がずれているのか?つまりはこの世界は俺の知っている世界の平行世界の一つってことか。

 ……まぁ何だって良い。今重要なのは知っている人が迫害されているということだ。


 「……助けないのか?事情がどうであれ、あいつはお前ら陰陽師が護るべき都の住民だろ」

 「……あなたは妖怪です。人間の心情が解らないのも無理はありません」

 「何が言いたい」

 「ここ人達はあなたほどキッパリと考えることができないのです。自分達とは完全に違う人外の存在……誰かが恐怖を感じればそれは瞬く間に広がります。恐怖を隣人にする事はできないのです」

 「そりゃ一部の奴らだけだ。俺はそもそもお前は彼女を助けないのかと訊いたんだ。お前はどう思っているんだ?」

 「……私にはここを護るという使命があります。だから私には都の人々の敵にはなれません。私は彼女を助けたいです。しかし私の立場と使命がそれを許さない。私には見ているだけしかできないのです」


 清明は暗い顔をしながらそう言った。

 チルノと大妖精の方を振り返ると、二人とも俺に任せるといった表情をしている。

 まったく……俺は厄介事にでも好かれてんのかね。

 俺は溜息をつきながら人間達の塊の中心に歩いていった。

 妹紅は俺が近づいても変わらずに周りを睨みつけている。しかしさすがに首根っこを掴んで持ち上げると反応した。


 「は、離せ!私をどうするつもりだ!?」


 手足を振って俺から離れようとする妹紅だが身長差の問題で全くと言って良いほどに効果がない。まるで猫だ。

 俺は端から見れば良い笑顔に見えるであろう表情で喋った。


 「俺、鬼。お前、人間。鬼は人間の子供を浚うのが仕事ってね、石をぶつけられるような悪い子供は鬼に浚われるんだぜ?」

 「なっ……!」

 「つーわけでこいつ浚っていくけど意義のある奴は居ないな?」


 俺が訊ねると誰も何も言わない。隣の人と顔を合わせながらボソボソと小声で会話していたが、その中の一人が恐る恐るといった風に発言した。


 「……あ、あの~。そいつはどうするおつもりでしょうか?」

 「……と言うと?」

 「そ、それはその……食料とか慰め物などにするのかと……」

 「やだよ。人間なんて不味そうで食いたいとも思わないし、そういうのに興味ないし。こいつを浚っていくのは単純に面白そうだからだ。解ったか?」


 俺がそう答えると人間達は一言二言会話した後、解散していった。と同時に妹紅が再び暴れ出す。


 「いい加減に離せ!」


 俺は笑顔で答えてやった。


 「い・や♪このままの方が面白そうだ」

 「は~な~せ~!離さないとぶっ飛ばすぞ!」

 「やれるもんならやってみな~」


 俺はそう言いながら清明達のところに戻った。チルノと大妖精は呆れたような表情で苦笑し、清明は感謝の意を込めて頭を下げた。


 「ありがとうございます」

 「気にすんな。それよりとっとと目的地に行こうぜ。早くしないと陽が暮れるしな」

 「解りました。それでは行きましょう」


 俺達は騒ぐ妹紅の叫びをBGMにして竹取りの翁の屋敷に向かった。時刻は夕方。太陽は西の地平線に徐々に近づいている。これなら陽が暮れる前か暮れる直後に着きそうだな。

 そしてふと後ろを振り返ると黒い布を纏った人影を見つけた。その人影は直ぐに人ごみに紛れて見えなくなったが、何故か俺の心には布と同じ黒色の暗雲がたちこめていた。

 妹紅は原作と違って不比等が盗んだ薬を飲んで不老不死になってます。

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