第二話
差し込む朝日で目が覚めた。
周りを確認して何も変わったことはないことを確かめた後、湖の水で顔を洗って眠気を飛ばす。夜の間凍っている所為で滅茶苦茶冷たかったが我慢した。
とりあえず今日は誰かを捜しながら枯れ枝を集めて、能力の練習といこう。
俺はそう考えながら山を降り始めた。……ここがどこかも解っていないのに。
移動を始めて三十分。迷った。
……いや、だって俺、元・高校生だぜ?山、舐めてたよ。まさかここまで迷うような入り組んだ地形をしていたとは。まぁ千年以上も前の時代だから山の自然も豊富で、だから入り組んでいるのだと思うけど。
しかしそれよりも困ったことがある。
俺以外の妖怪や人間が見つからないのだ。猪や狼といった獣はそこら辺をうろちょろしているのをちらほらと見かけるが、それ以外は皆無だ。
昨夜紫が話しかけてきたのはあそこにいる俺が珍しかったからなのかもしれない。
兎にも角にも進もう。同じ方向に、前に前にずっと進めばいつか下山できるはずだ。
さらにそこから二時間後。妖怪発見しました。但し大勢に囲まれた状況で。
と言うわけで俺の周りを囲んでいる妖怪は全部で五体。全員獣の見た目をした恐らく下級妖怪。
巨大で猪、蜥蜴、熊、蚯蚓、鍬形の見た目をしている。その姿に理性があまり感じられないのも下級妖怪だと思った理由だ。
ちょうど良い。能力の実験台になってもらおうか。
そんなわけで数十分後、俺の周りには完全に炭化した肉だったなにかが転がっていた。あいつ等は描写できないほどに弱かった。炎をぶつけるだけで勝手に錯乱して自滅しているのだ。
もう少し歯応えがあっても良いのにな。これじゃあ練習にもならない。しょうがない、今日は帰って作戦を練り直そう。陽も暮れてきたことだしな。
……あ。炭化させずに焼いたら食えたんじゃ……ま、良っか。奴ら、不味そうだったしな。
再び夜。暇だから適当に火を出して遊ぶことにしたのだが、開始数分で虚しくなってきた。
指先に火を灯してー消してーまた灯してーまた消してーまた灯してー今度は丸めてー弾け飛ぶようにしたら、即席花火ー。……でっかい火柱ー……ぬぉう!?
慌てて鎮火。危ない危ない。山火事を引き起こすとこだったよ。しかし暇だ。能力は危ないから剣でも振るか。
構えは頭に浮かんでいた。たぶん戦神様が使っていた構えだろう。そこから剣を流れるような動作で振るう。空気が切断されるヒュッという音が鳴る。
俺は頭の中を空っぽにして一心不乱に剣を振り続けた。周囲を警戒するなんてことをせずにただひたすらに剣を振る。
二時間ほど経っただろうか。剣をしまって隣を向くと、二人の少女がこっちを見ていた。
それぞれ青い髪と緑の髪をした少女でワンピースのような服を着て、背中から生やした羽を動かしながら……ん?羽?
「すげぇ!どうやったらそんなのできんの!?アタイにおしえて!」
「ち、チルノちゃん、いきなりそんなこと言ったら失礼だよ……」
ああ、どっかで見たことあると思ったらチルノと大妖精か。いや~紅魔郷のキャラは久々に見るから一瞬解んなかった。
それは置いといて、困ったなぁ。俺のコレは戦神様の構えなもんだから教えようにも教えられない。どうしよう。
……お、そうだ。これでいこう。
「俺は教えることは得意じゃない。だから覚えたければ技を盗め」
「どういうこと?」
「そうだな。俺はだいたいこの時間帯にここで剣の素振りをやるから、お前は俺の素振りを見て真似して覚えるということだ」
「わかった!」
よし、成功した。これなら素振りを日課にするだけで解決する。
「あのー……、良いんですか?」
「ん?何が」
「そ、その……私達のような弱小妖精に技なんて盗ませて」
「別に。強くなりたいことに種族は関係ないしな。……あ、じゃあ変わりに人間は今何やってるか教えてくれないか?」
「そんなことで良いのなら喜んで教えますよ。確か人間は今は__「『へーじょーきょー』とかいうばしょから『へーあんきょー』にひっこしするってほかのやつらがいってたよ!」……ということです」
なるほど。つまり時代は794年よりも前ってところか。確か飢饉や疫病が原因だったか?
チルノの説明からこの近くに平城京があることは解る。ということは後数十年もしたらここも開拓される危険があるな。
人間を殺したりするのはできるだけ避けたいがそうもいかないだろうし、もう少し経てば陰陽師が出現する。
そのときまでに力をつける必要があるな。
そういえばここが平城京に近い場所だとしたら俺以外の鬼はどこに住んでいるのだろうか。大妖精に訊いてみた。
「鬼は別の山に一族総出で住んでいるって聞いたことがありますよ。お兄さんはそこの生まれではないのですか?」
「ああ」
「珍しいですね。基本的に鬼の一族は決まった土地にしか住まないのに」
「それだけ俺が変わり者ってこと」
「な、なるほど……」
今日はそのくらいの会話を交わして二人は帰って行った。
さて、明日から適当に練習して自分を鍛えるために俺も寝るか。