プロローグ
俺の名前は酒天正儀。平凡な高校に通う高校二年生だ。
けど俺の家柄はちょっとばかし変わっている。何がかって?
俺の名前を見ているなら気づいているとは思うけど、俺の姓は酒天。俺の家計は酒呑童子を御神体にして祀っている神社の神主、巫女の一族だそうだ。
退治された鬼を崇めるのは個人的にどうかと思ったけど家の神社に来る人はなかなか多い。因みに御利益は悪酔いをしないが一番多いらしい。
そんな俺は数人の友達と一緒に家に帰る途中だった。家と高校は近いので徒歩だ。
俺は友達と軽い会話を交わしながら歩いていた。そして横断歩道が見えてきて、赤信号だったので止まった。そこまでは良かった。
会話の途中で何かを感じた俺がふと左の方を振り返ると4、5歳位の少女が転がったボールを追いかけて車道に入っていくところだった。
気づけば俺は駆けだしていた。周りの制止の声を振り切って少女を抱きかかえて反対側の歩道を目指して駆ける。
漸く歩道についたと思って油断したのがいけなかったんだろう。最後の最後で転んでしまい、俺は足を痛めてしまった。トラックが大きな音を鳴らしながら迫り来る。俺はせめてこの少女だけでも助けようと思って少女を地面に立たせる。少女は俺のほうをチラリと見た後一気に歩道にまで走っていった。少女が無事に歩道にまでたどり着いたのを見た直後に俺の身体を衝撃と痛みが襲い、俺の意識は暗転した。
目が覚めるとそこは病室の天井ではなく、真っ白で何もない空間だった。立ち上がって気づいた。身体に痛みどころか傷すらないのだ。
「……いったい何がどうなっているんだ?」
俺は辺りを見回しながら何かを探すと扉を見つけた。意を決して扉を開けるとそこには__
「おっ、来た来た。初めまして」
170くらいの背丈をした黒髪黒眼の女性がいた。女性は簡素な胸当てや腰当てといった鎧を身に纏い、一本の剣を腰に掛けた姿で、歴戦の戦士のような雰囲気を出している。
「いやいや、感動したよ。小さな少女を自分の命を犠牲にして助ける。今の世の中で君のような勇敢な人間がいるなんてね」
その女性は俺の手を握ってブンブンと振っている。その光景からさっきのような雰囲気は感じられない。
……ん?今この女性はなんて言った。『自分の命を犠牲にして』って言わなかったか?つまり俺は死んだのか?じゃあ何で今ここでこの女性と会話して……
そんな俺の気持ちが通じたのか目の前の女性は顔を真剣なものに変えると、話し出した。
「残念だが君は助からなかった。トラックに跳ねられた後に頭を地面に打ちつけて即死だ。そして死んで輪廻の輪に入ろうとした君の魂を私がここに止めているというわけだ」
「そうですか……。まぁあの子が助かっただけでも良かったのか?それじゃあ……えーと……」
「ん?ああ、すまないな。まだ名乗っていなかったな。私はそこそこ力のあった戦神さ。と言っても信仰がなくなって随分と経つからね、もう私の名前すら思い出せないのさ」
「……そう……ですか」
少しまずいことを訊いてしまったか?俺がそう思っていると神様は朗らかに笑った。
「君が気にしなくても良いことだよ。神は人の畏れによって生まれ、人に忘れ去られて消滅する。栄枯必衰、生者必滅。それが世界の掟さ。さて、君の名前は?」
「あ、俺は酒天正儀です」
「では正儀。私個人としては君をこのまま輪廻の輪に入れてしまうのはすごく惜しい。それでだ、君を是非とも転生させたいのだが良いだろうか?」
「……ええっと構いませんけど場所はどこですか?」
「私の今の力では東方projectの世界。つまりは幻想郷にしか送れないのだ。申し訳ない」
……幻想郷か。俺は原作は一応ハードシューターだ。二次も好きでよく見たりやったりする。幻想郷に転生して行けるというのは俺から見ればすごくラッキーだ。
「いえ、むしろ大歓迎です」
「そうか!それなら良かった。なら早速始めよう。すぐに終わるから目を閉じていてくれ」
「解りました」
俺は目を閉じてじっと待つ。暫くすると身体の中から何かよく解らない力が溢れてくる感覚があった。
「もう良いぞ。目を開けてくれ」
そう言われて俺が目を開けるとそこには神様の姿はなかった。どういうことだ?
ふと自分の身体を見ると全身が淡く光っていた。
『ふむ。成功だな』
身体の中から神様の声が聞こえてきた。
「ど、どうなっているんですか!?」
「落ち着きたまえ。私自身を君に取り込ませることで転生させるのだ。どうせこのまま忘れ去られて朽ち果てる神霊だ。それなら君と共に生きていく方がかなり楽しいだろう?」
「……は、はぁ」
「それに悪いこともあるが良いことだってあるんだぞ?私の戦神としての力と能力が使える半神になるわけだ。そうそう、幻想郷につけば私の意識は自動的に眠りにつくから私のことは気にしなくて良いぞ。では、行こうか」
その言葉を最後に俺の視界は真っ白な光に覆い尽くされ、俺の意識は再び暗幕に閉ざされた。