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探求者の異世界美食行脚 ~異世界召喚でハズレ扱いされたゴリラ系男子、気ままなグルメ旅に出る~  作者: おまめちゃん


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第34話 オークの軍団と、湖畔に煌めく『芳醇なる黄金』

獣人帝国ガルディアの荒々しい朝陽を浴びて、俺は宿屋『丸太の休息亭』の大きなベッドで目を覚ました。


「さて、今日はついに、あの幻のキノコを探しに行くか」


昨日の夕方、冒険者ギルドの受付にいた虎の獣人から聞いた、森の最深部に眠るという『幻のキノコ』。


茶色い傘を持ち、芳醇な香りを放ち、その出汁は究極の滋養強壮効果を持つという。


その特徴を聞いた瞬間、俺の脳内に走った「それは……まるで、日本の『松茸』じゃないか!」という確信は、一晩経っても消えることはなかった。


料理人として、その未知なる至高の食材をこの手で採取し、俺なりの最高の料理――『土瓶蒸し』にして味わってみたい。その強い探求心が、俺の背中を押していた。


「キュイッ!」

「ワフッ!」


相棒たちも気合十分だ。頭の上の定位置にはフォーチュンラビットのシルク、足元には黒豆柴の姿をした神獣・メイ。


メイは常に強力な『認識阻害』と『鑑定偽装』を展開しているため、誰が見ても愛らしい子犬にしか見えないが、その正体はSランクの神獣フェンリルの幼体だ。


昨日の探索で、メイはフォレスト・フォウルを倒す際、力を込めすぎて食材を傷つけてしまったことを俺に諭されている。


「メイ、今日は絶対に『食材を傷つけない戦い』を意識してね。力加減を間違えちゃダメだぞ?」


俺が優しく、しかし真剣な表情でメイの目を見て念を押すと、メイは「ワフッ!(わかってる!)」と力強く頷いた。


準備を整え、俺たちはギルドの討伐依頼を受けず、純粋にキノコを探すためだけの探索へと街を出た。


俺の持つ【探求者】の職業パッシブが、きっとその未知なる食材を自然と引き寄せてくれるはずだ。


―――


ガルディアの森の奥地は、入り口付近よりもさらに木々が太く、うっそうと茂っていた。


足元には見たこともない巨大なシダ植物が群生し、むき出しの土と朽ちた倒木の匂いが色濃く漂っている。


「シルク、案内を頼むぞ」


「キュイッ!」


俺はシルクの固有スキル『幸せを運ぶ兎』による幸運の導きを頼りに、獣道を切り開いていった。


シルクが前足を上げた方角へ、草を掻き分け、木々の隙間を縫うように進む。


森の深部へ進むにつれ、魔物の気配も明確に強くなっていった。


森を進んで数時間。やがて、風に乗って強烈な獣の体臭と、生焼けの肉の臭いが鼻を突いた。


(この先に、魔物の集落があるのか……)


俺は【探求者】の身体能力を活かして足音を消し、巨大な木の陰に身を潜めた。


視線の先には、太い丸太や魔物の革で粗末に作られた家屋が、広場を囲むように立ち並んでいた。


豚の頭部を持つ亜人――オークたちが、木の棍棒を担いで見回りをしたり、広場の中央で焚き火を囲んだりしている。


「……さらわれた人は、いないな」


俺は息を潜めて慎重に偵察を行い、集落内に人間の捕虜や犠牲者がいないことを確認した。


もし誰か捕まっていれば料理人としての探求を後回しにして即座に救出しなければならないが、幸いにもその気配はない。


俺は改めて【鑑定】を発動し、敵の戦力を確かめた。


一般のオークがざっと三十匹ほど。


そして広場の一番奥には、一際巨大で、粗末ながらも金属製の防具を纏った『オークジェネラル』がどっしりと腰を下ろしていた。


分厚い筋肉に覆われた、オークを統率する上位種だ。


さらにその隣には、不気味な装飾が施された木の杖を持ち、周囲に濃密な魔力を漂わせている『オークマジシャン』の姿もあった。


(かなりの戦力だな。Eランク冒険者の俺がソロで挑めば、普通なら全滅を覚悟するレベルだ)


だが、俺には規格外の相棒たちがいる。そして俺自身も、ただの料理人ではない。


「メイ、シルク。一気に叩くぞ。でも、絶対に『肉を傷つけない』戦いを徹底してくれ。特にジェネラルのような上位種は極上の肉質のはずだから、丁寧に倒してほしい」


俺が小声で指示を出すと、二匹は真剣な表情で頷いた。


俺はアイテムボックスから、神話級のアーティファクト『如意の金剛棒』を取り出した。


自身の魔力と意思に呼応し、長さと重量を瞬時に最適化してくれる最高の武器だ。


「行くぞ!」


俺の掛け声を合図に、俺たちは茂みから広場へと飛び出した。


侵入者に気づいたオークたちが、ブヒィィィッ!と甲高い雄叫びを上げて襲いかかってくる。


「グルルゥゥッ!」


先陣を切ったのはメイだった。


認識阻害を利用して敵の死角に潜り込み、狙い澄ました寸止めの打撃――食材を傷つけないよう威力を極限まで抑えた氷の魔力――を放つ。


一般オークたちは外傷を負うことなく、その強烈な冷気によって脳震盪を起こし、次々とその場に昏倒していった。


昨日の今日で、見事な学習能力だ。


俺も『如意の金剛棒』を振るい、突進してくるオークの眉間だけを正確に狙い打つ。鈍く重い打撃音が響き、肉を傷つけることなく確実に仕留めていく。


「ブモォォォォッ!!」


部下をやられたことに激昂したオークジェネラルが、巨大な戦斧を振り上げて突っ込んでくる。


それと同時に、後方にいたオークマジシャンが不気味な詠唱を始めた。


マジシャンの杖の先端に、周囲の空気が歪むほどの熱量を持った巨大な炎の球体――『ファイヤースフィア』が顕現する。


【鑑定】の視界が、その魔法の正体を告げる。


大気中の魔素を術者の魔力で強制的に圧縮し、超高温のプラズマとして撃ち出す高位の炎属性魔法だ。


「おおっ……本物の魔法だ!」


俺は思わず感嘆の声を漏らした。


魔石を組み込んだ魔導コンロの火とは違う、術者自身の魔力によって生み出された純粋な破壊の力。


異世界のファンタジーを肌で感じ、一瞬だけ見とれてしまう。


「いかん、見とれてる場合じゃない!」


高速で飛来する巨大な炎の球体。


まともに食らえば黒焦げは免れない威力に、俺がわずかに対応が遅れたその瞬間。


「ワフッ!」


メイが短く吠え、空中に向かって見えない氷の魔弾を放った。


絶対零度の魔力と、オークマジシャンの放った灼熱の炎が空中で激突する。


シューゥゥゥッという凄まじい水蒸気の音と共に、ファイヤースフィアは俺たちに届く前に完全に相殺され、白い霧となって消え去った。


魔法を破られ、驚愕で硬直したオークマジシャンの足元が、突然ズルリと滑った。シルクの『幸運の加護』による不運の強制だ。


見事に体勢を崩してすっ転んだマジシャンの後頭部へ、俺は金剛棒を的確に振り下ろした。


残るはオークジェネラルのみ。


振り下ろされる巨大な戦斧を、俺は金剛棒で軽く受け流し、相手の体勢が崩れた隙を突いて懐へと潜り込む。


そして【探求者】の補正が乗った渾身の一撃を、ジェネラルの分厚い顎の先端へと叩き込んだ。


――ドゴォォォンッ!!


地響きを立てて、オークジェネラルの巨体が崩れ落ちた。


俺と二匹の相棒の圧倒的な連携の前に、オークの軍団は手も足も出なかったのだ。


―――


広場に静寂が戻り、俺は素早く『特注解体ナイフ』を取り出して解体作業に取り掛かった。


「上位種ほど美味」という事前情報の通り、オークジェネラルの肉は凄まじかった。


分厚い筋肉の中に見事な霜降りが入り込んでおり、オークマジシャンの肉も、高い魔力を宿しているためかルビーのように透き通った赤身をしている。


俺は手際よくナイフを振るい、血抜きを済ませ、極上のバラ肉や肩ロースを傷つけないように切り出していった。


足元では、メイとシルクが俺の切り分けた一般オークの端肉をもらい、美味しそうに平らげている。


解体作業は一時間ほどで完了し、総勢一トン(千キログラム)にも及ぶ大量のオーク肉を、鮮度を保ったままアイテムボックスへと収納した。


「さて、この集落の跡地だが……」


俺は、周囲に散乱する粗末なテントや動物の骨、生ゴミの山を眺めた。


この不衛生な場所を放置すれば、すぐに別の凶悪な魔物の根城になり、森の生態系を崩すだけでなく、いずれ街の脅威となるだろう。


「少し掃除をしていくか」


俺は再び金剛棒を構え、長さと重量を最大まで引き上げた。


巨大な鉄柱と化したそれを力任せに振り回し、集落の建造物を徹底的に粉砕していく。


木端微塵になった残骸やゴミの山を一箇所に集め、アイテムボックスの奥深くへと『ゴミ扱い』として丸ごと収納した。


広場はあっという間に、何事もなかったかのような平坦な土の広場へと戻った。


アイテムボックスから出した水で手を洗い、ふと顔を上げた時だった。


「……ん?」


集落跡地のさらに奥。密集した木々の隙間から、微かに何かが光っていることに気づいた。


シルクも「キュイッ!」と鳴き、その光の方角を指し示している。


導かれるままに木々を掻き分け、進んだ先にあったのは、森の最深部にひっそりと佇む、透き通った幻想的な湖だった。


「……すごい」


巨大な原生林に囲まれたその湖は、木々の隙間から差し込む光を反射して、湖面が黄金色にきらきらと輝いていた。


岸辺には淡い光を放つ不思議な花が咲き乱れ、まるでここだけが別の世界のような、神聖な空気に満ちている。


シルクがピョンと跳ね、湖畔に生える特定の湿った倒木の根元へ駆け寄った。


俺が近づいてみると、そこには、茶色い傘を持ち、表面に細かいひび割れのあるキノコが数本、静かに生えていた。


近づいただけで、脳を直接揺さぶるような、とてつもなく芳醇で深い香りが漂ってくる。


(これだ……! 幻のキノコ!)


すかさず【鑑定】を発動する。


【フレグラント・ゴールド(芳醇なる黄金)】

詳細:ガルディア帝国の森の奥地、特定の魔力溜まりのある湖畔にのみ群生する極上のキノコ。その香りは、薄くスライスして熱湯を注ぐことで究極の出汁の風味を引き出す。高い滋養強壮効果を持ち、貴族の間で高値で取引されている。(※この場所は特異点であり、採取後も一定時間経過で再生する)


(正式名称は、『フレグラント・ゴールド』……。芳醇なる黄金か。素晴らしい名前だ)


さらに【鑑定】の情報には、採取しても一定時間で再生するという、夢のような一文まで添えられていた。


この湖の場所さえ覚えておけば、いつでもこの究極の出汁を味わうことができるのだ。


「よし……いただくぞ」


俺は、現存する数本のフレグラント・ゴールドを、香りを逃さないように根元から慎重に刈り取り、最も美味しい状態のままアイテムボックスの奥深くへと大切に収納した。


森の木々の隙間から見える空が、深い茜色に染まり始めている。


今日手に入れた大量のオーク肉。


この極上の豚肉に強烈なスパイスを効かせれば、あの『腹がいっぱいになればいい』と嘯く荒々しい獣人たちも、間違いなく料理の美味さに驚愕するはずだ。


そして、ついに手に入れた幻のキノコ。明日の朝は、この芳醇な香りを閉じ込めた至高の土瓶蒸しを味わうことができる。


森を吹き抜ける涼やかな風が、火照った体を優しく冷ましてくれる。


足元で無邪気にじゃれ合うメイと、肩で得意げに胸を張るシルク。この規格外の相棒たちと共に、獣人帝国でどんな新しい料理の驚きを生み出そうか。


口の中に広がる未だ見ぬ旨味をゆっくりと反芻しながら、俺は明日への素朴で温かい期待を胸に、心地よい疲労感と共に静かな湖畔を後にした。

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