表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
杖づくりに目覚めて~本で詠唱するのは非効率だと思い、杖を作ったら魔法革命が起きた  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/17

第14話 JellyRod

「いらっしゃいませ、ラッピングはご希望ですか?」


 9月半ばに王都入りし、3人と出会い、10月の頭に初めての杖を作った。その月、王都の魔法使いたちが姿を変えた。ここまでおよそ一カ月ほどの出来事だ。

 10月下旬の修学旅行で、キングズヘッドに行った。たった二日間のことだった。飛来人という名前を知り、エルゴノイツの状況を知り、魔光石の由来を知った。

 シブガキさんの最後の言葉が、今も強く残ってる。

 もう、立ち止まっている暇はない。


 それから一カ月を経た12月上旬。

 俺たちは最新式の杖――JellyRod(ジェリーロッド)の販売を開始した。


 発売日、店は大繁盛。表にはちょっとした行列ができていた。店内は人で満杯だ。

 フィオナとヨハネスはレジ担当、ダンは裏からレジへ在庫を運ぶ。

 俺は店内での商品説明だ。木箱を壇上替わりにして、


JellyRod(ジェリーロッド)はこれまでにない、革新的な杖となります!」

 

 胸を張り、声高らかに言った。

 集まったお客の中の一人が「一体何が革新的なのですか?」と問う。仕込んでおいたサクラだ。練習通りに俺は答える。


「よくぞ聞いてくださいました。ずばり、この杖には“Rack(ラック)”が3つ、備わっているのです!」


 聞き慣れないその言葉に、お客がざわついた。店外の列の先頭に近いお客も聞き耳を立て、覗いている。

 そこで、このJellyRod(ジェリーロッド)の核となる新機能の説明に入る。


「説明しましょう。Rack(ラック)とは僕たちが命名しました、JellyRod(ジェリーロッド)にのみ搭載されています物語の収納スペースのことです。Rack(ラック)一つにつき物語を一冊、杖の中に収納することができるのです!」


「待ってください。ということはつまり、JellyRod(ジェリーロッド)には物語が3冊入るということですか?」


「その通りです! この分厚いハードカバーの本3冊が、するりするりと入っていきます。実演してみせましょう!」


 俺は杖と本を持ち「皆さんご一緒に、ひと~つ!」本を杖に吸い込ませた。するとお客から「ひと~つ!」と軽快なレスポンスが返ってきた。ここまでは従来の同じだ、まだ誰も驚かない。

 木箱の傍で待機しているダンから本を受け取った。


「では、ふた~つ!」


 二冊目が杖に入った瞬間、一瞬かニ瞬の静寂があった。「うおおおおお!」と店がお客の声で振動した。レジのお客も会計そっちのけで、俺の右手の杖に見入っている。最後の本をダンから受け取り、


「――み~っつ!」


 最後は全員で声をそろえた。

 称賛の歓声、感動の嵐。お客の中には感激から涙を流す人もいて、隣の人がもらい泣きするとそれは集団催眠のように広がった。

 平民街のこじんまりとした店内が今、世界の中心と化している。

 涙ぐむダン、気取った笑みのヨハネス、素直な笑みのフィオナ。俺たちは目を合わせ、成功を実感しあった。


「色はダークブラウン一色のみとなっております。在庫は沢山ありますので、どうか慌てないでください」


 興奮気味のお客をなだめる。フリをして。油に少々、水を注ぐ。


「ですが本製品――JellyRod(ジェリーロッド)は、現在特許未申請のため、今後王族より何らかの圧力がかかるかもしれません。場合によっては販売を一度中止する可能性もありますので、お求めの方はお早目にご購入ください!」


 今日という日に買わなければ――。

 お客たちの興奮はさらに高まり、欲しい欲しいと魔法使いは集まった。昼から始めて、店の前の行列は夕方まで続いた。


 あとは王族側がどう出てくるかだ。杖の噂は広まり、じきにJellyRod(ジェリーロッド)は王族側にサンプルとしてわたるだろう。

 でも俺たちは気にしない。そう覚悟したから。

 Rack(ラック)の秘密を暴けるなら暴けばいい。これは実験だ。エルゴノイツの出方次第で、この国の魔法産業レベルが分かる。そして俺たちが今どの位置にいるのかも。


 俺の予想では、仮にこの問題をあの王子が担当するなら――いや、絶対に王子は関わる。これは特許庁の問題だ。なら王子の問題でもある。そして未申請は反抗心によるものだと王子は理解する――まず始めに国にいる優秀な発明家を集めさせ、杖を調べさせるだろう。

 王子は前回魔法や杖に詳しい様子だったし、あの時でさえ杖に目を光らせていた。補佐官に投げやりなんてことにはならないはずだ。

 俺たちは次の発明の話でもしながら待っていればいい。拉致とか暴力的な手段をとられると怖いから、とりあえず今日からしばらく、三人はジェンキンス公の屋敷に泊まる。


 発売日初日。用意していた在庫は完売した。



 〇



 私は王子である。名前ならある、エンリケだ。


 父上に初めてこの広間に連れてこられた時、私は感動し目を奪われた。部屋の左右と玉座の後ろに見える彩色のステンドグラスと、そこから差し込む宝石で彩ったような日光。その感覚は春であった。

 いずれここが、私のものとなるのだ。息をのんだ。


 しかし季節は葉を枯らす。今では何よりも退屈だ、この椅子に座っている時間が。暇つぶしと言えば、補佐官との雑談くらいだろうか。


「南の様子はどうなっている?」


「はい、壁も安定しているということですので、南から攻め込まれる可能性はないかと」


「そうか。評議会からも何人か送ったのであろう、まだ帰ってきていないと聞いたが?」


「偵察隊からの報告によりますと、評議員に殉職者が出たという話でして」


「なぜすぐに言わない?」


 場違いに冷静な声だったに違いない。関心がなく、とっさに張った声が出なかった。だが補佐官は静かな怒りとでも解釈したことだろう。

 この場を父に与えられてしばらくは、無駄に威張りもした。「大臣切り」と命名して、ずばずば失脚させた。が、それも今では懐かしい。


「不確定要素の多い情報でしたので。申し訳ありません」


「そうか……分かった。よい」


 補佐官は頭を下げ、袖に下がった。


「――殿下!」


 騒々しい声が聞こえ、額に汗をたぎらせた衛兵がずけずけと広間に入ってきた。

 何事かと問うと、衛兵の手に見知った形の杖があった。


「急ぎお渡しするようにと、伝令よりこれを預かってまいりました」


 いつものように補佐官が受け取り、補佐官から私はそれを受け取った。

 詳細を私や補佐官が問う前に衛兵は言った。


「ハリス・ジェンキンスの新作だということです。名をJellyRod(ジェリーロッド)と、呼ぶのだとか……」


「下がれ」


 歯切れの悪い衛兵を下がらせながら、私は手元のそれへ集中した。


 それは杖であった。森の木々の側面のように、あるいは土のように、濃い茶色をしている。前回に見たものと色を除けば代わり映えのしない杖だ。石の熔解を公開して以降、巷に小型化された数々の杖が出回っていると聞く。中には珍妙な形をした物もあるのだとか。

 その点、ハリス・ジェンキンスが初めに考案した杖は、見た目にしろ中身にしろ、実に単純な作りをしていた。今私が手にしている杖は、一見してあれと同じに見える。


「殿下。申し訳ありません」


 顔を上げると、今下がらせたばかりの衛兵がまた広間にいた。


「その杖ですが、物語が3つ入るそうです――」


 そう言って頭をぺこぺこしながら、申し訳なさそうにして勝手に下がった。


「……無礼な奴だ」


 ――いや、待て。そんなことはどうでもいい。

 今あの衛兵は何と言った。3つと、そう言ったのか。傍の補佐官が「殿下」と慌てた様子で私を呼んだ。


「分かっておる、さっさと物語を持ってこい!」


 すぐに本を取りに行かせた。

 そして適当な物語を受け取り、私は、「ひと~つ……ふた~つ……み~っつ」と確かめた。


「何と、いうことだ……」


 杖を持つ手が震えた。確かに、杖には本が三冊収納できた。

 言葉を失うとはまさにこのこと。一体どのようにして、そんなものを作ったのだ。

 これまで、魔光石はどのような加工を施そうとも複数冊は受け入れなかった。

 何度かあったのだ、物が石なら純度を高めてはどうかと議論したことが。しかし何度、どんな名工が打てど、石は同じ石のまま、純度は変わらなかった。

 魔光石の熔解、杖の小型化に続き……。


「国中の発明家たちをここへ揃えよ、今すぐにだ!」

 

 分かっている……分かっているぞ、ハリス・ジェンキンス。

 そなたは特許申請もせず杖を売り出した。発明の仕組みを公表する気がないということだ。前回の一件に相当苛立っていることが分かる。

 だが杖は、じきに王都中の発明家たちの手に届くことだろう。そして躍起になる。仕組みを解明した者はお前に代わって(、、、、)、権利を独占すべく特許庁に現れる。

 だが貴様はこのように言いたいのだ――誰がどうしようとも核を暴くことはできない。

 当然、私の元に杖が届くことも分かっていたはずだ。

 私にさえ解明できないと、そう言いたいのか……。


「愚弄しよって」


 つまりこれは挑戦状だ。謀反だ。反逆だ。

 であれば貴様のことだ、一分の隙もないのであろう。分かる、分かるぞ貴様の愚劣な考えが。


「……策に溺れてやろうではないか」


「殿下、工業区にあるという平民の店を調べさせますか?」


「……よい」平静を装い。「発明家が先だ。名のある者を集めよ」いつものように静かに答えた。


「ですがこれはエルゴノイツに対する……」


「分かっておる。そう興奮するな、子供と戯れるだけのことだ。退屈しのぎに解き明かしてみせようではないか」


 威厳を失った瞬間、王族の血は水となる。父上がそう言っていた。舐められてはいけない。それが数えで12歳の小童であろうと……。

 いいや、ただの子供でないことは明らかだ。ジェラルドの再来か。奴が速記術を公開したのが6歳の頃だったな。

 王族に盾突くとは。まさか、あの老人とグルであったのではないだろうなあ、ハリス・ジェンキンス。しかし殺してしまうには惜しい。いずれにしろエルゴノイツには時間がない。残念なことに、我が国にはそなたのような神童が必要だ。

 手名付けた暁には「線の魔法師」の再来とでも謳い、存分に利用してやろう。




 翌週、私は集めた発明家や職人たちで研究チームを組織し、JellyRod(ジェリーロッド)の研究、解明を始めた。

 Rack(ラック)と呼ばれる見た目魔光石のそれが中枢であると早々に判明した。南の言葉ではこれを「波に乗る」というらしい。研究は順調であった。だがその月、私は研究チームを解散した。


 私はついに、奴の核を暴くことができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ